時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第40回 不祥事

地方自治

2019.09.02

時事問題の税法学 第40回

不祥事
『税』2019年2月号

違法通報

 旧臘押し詰まった頃、地方自治体絡みの話題の幾つかが気になった。

 奈良県下の自治体では、報道機関など町以外の機関に不正を告発した職員を「違法通報者」として懲戒処分できる内規を定めていた(読売新聞12月18日)。内部告発者への不利益な処分を禁じた公益通報者保護法の趣旨に反する可能性があり、町は読売新聞の取材を受け、内規を改正し、懲戒処分に関する規定を見直した、という。この内規は「町法令遵守推進要綱」で、平成30年9月に定められ、職員が不正行為などを知った場合、部長級職員らでつくる「町コンプライアンス向上委員会」か、事務担当の総務課長に原則実名で通報する規定であり、「要綱に基づかない通報」を「違法通報」として禁じ、違法通報した職員は「懲戒処分など適切な措置をとる」とも書かれていた。町によると、要綱に従えば、委員会に通報せず、報道機関のほか、県や中央省庁、町議会などに内部告発した場合、違法通報となる可能性があったという。

 要綱は平成29年12月、町営住宅とごみ焼却施設の修繕を巡る不適切な会計処理が、町議会への内部告発で発覚したことを機に、公益通報に関する内規がなかったことから制定したものとされ、条例ではないため、町議会の議決は経ていなかったという。

 記事によれば、同町の町長は、「公務員には守秘義務があり庁内秩序を維持するため」と取材に回答したらしい。コンプライアンスの向上は、職員よりも町長に必要なきがするが、公務員の守秘義務についての言及も、制定の背景を考慮すると違和感が残る。

守秘義務違反

 守秘義務といえば、関東地方の政令市で、個人住民税のデータ入力業務を委託していた情報処理サービス業者が無断で別の業者に業務を再委託していたと発表した(産経新聞12月18日電子版)。委託した課税資料は約59万件に上る。現在確認している限りで、データの流出や悪用はないが、同市や業者は調査を続けている。

 市民税課によると、委託先の業者に委託期間は平成29年12月〜30年4月27日で、給与支払報告書などのデータ入力作業を委託していた。契約上、再委託する場合は市の承認を得ることになっていた。マイナンバー法でも同様の規定を定めているが、この業者は他の業務も多数抱えていたことから期限までに業務を遂行することが困難になり、別の業者に再委託した。この問題は平成30年12月、業者が東京国税局や大阪国税局から受託した業務で同様の違反を行っていたことが発覚したのが発端という。

 課税と徴税は税務行政の根幹であり、強制力のあるものである。その基本となる個人情報と収入・財産が一体となった税情報の管理を守秘義務に曖昧な民間企業に委託すること自体が守秘義務違反といいたい。この事件の場合は、給与支払報告書であるから勤務先も把握できる。民間委託そのものが税務行政の怠慢というより放棄と思うが、今後、大量の税情報漏洩により被害が起き、世論の批判を浴びるまで、改善されないだろう。

 こんな自治体の不手際に接していたら、東海道の宿場町で城下町でもある郷里で、「固定資産税徴収ミス、市職員が更新怠る」と報じられた(中京テレビ・ニュース12月20日)。地元紙によれば(東愛知新聞12月21日)、平成27年度以降、固定資産税などの徴収について41件で誤りがあり、それまで、市が採用してきた「みなし方式」を継続するために必要な条例の更新手続を職員が怠り、「平均負担水準方式」で算定せざるを得なかったためだという。市は、多く負担した市民には還付する一方、負担が少なかった市民からは追加徴収しないとしている。3年ごとに更新する必要がある市条例附則の更新手続を怠ったため、3月市議会に諮るという。憲法第30条及び第84条に由来する租税条例主義に抵触するなどと大袈裟なことは言いたくない。市役所に隣接する中学校を卒業して50年。同級生たちとの忘年会で出すような話題でもなかった。

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