時事問題の税法学

林仲宣

時事問題の税法学 第39回 ゴーン騒動の行方

地方自治

2019.09.02

時事問題の税法学 第39回

ゴーン騒動の行方
『税』2019年1月号

巨額報酬の税務申告

 本稿執筆時点では、ゴーン騒動に関する報道は、金融商品取引法違反容疑の役員報酬を巡る有価証券報告書の虚偽記載事件の域を脱していない。税に関わる情報は乏しい。事件発覚直後には、「個人情報保護の機運の高まりを受け、2005年に「長者番付」とも呼ばれた高額納税者一覧の公示制度が廃止され、大企業のトップら富裕層の報酬額を外部からチェックする方法はなくなったが、2010年に施行された改正内閣府令で、報酬が年間1億円以上の役員らは総額を有価証券報告書に記載する義務が課されるようになっているから、過少申告していた巨額報酬が適正に税務申告されていたのかといった点も焦点となる」という指摘があった(毎日新聞11月20日)。その後、「役員報酬お手盛り」(読売新聞11月21日夕刊)という大きな見出しに驚かされた。「お手盛り」とは、まさしく同族会社に代表される中小企業の役員らの行為を揶揄するフレーズだから可笑しい。

 法人税法では、役員に対する報酬を役員給与と定義しているが、適正な手続き、例えば株主総会の承認決議を経て算定した役員給与であっても、不相当に高額な給与、つまり過大報酬については、過大部分の額は損金に算入できないと定めている。

 この不相当に高額とする判断基準は同業他社との比較である。通常は、同一地域(同一国税局管内)における同業、同規模、同等役員歴など総合的な勘案を行って抽出した類似法人が支給している給与額の平均値である。この平均値を超えれば不相当に高額と判定され、裁判所も容認してきた。売上高上昇、納税額の増加、事業規模の拡大、従業員の増員、好業績の継続など指針としては難しいことは分かるが、経営者の功績すなわち経営実績対価の基準は無視されている。

大企業の健全経営とは

 ゴーン騒動を眺めていると、斯界でいうところの残波事件を思い出す(朝日新聞平成26年11月2日)。沖縄の景勝地、残波岬の名を取った沖縄焼酎泡盛の銘酒、残波の蔵元法人の話である。記事には、「役員報酬国税が物言い」「泡盛会社4人4年半で計19.4億円」「経費認めず訴訟へ」という見出しがある。

 ただこの報道では、12億円を超える報酬を得ているカシオ計算機社長や赤字でも3億円を超えるソニー社長の報酬額など大企業の実態を掲載して、比較論争を提起していた。俗にいう提灯記事の色彩が強いが、共感した読者も少なくないと思う。

 国税当局は、沖縄県と熊本国税局管内から類似法人を抽出した。確かに熊本局管内には著名な焼酎メーカーが存在するが、全国各地に人気蔵元が点在することを考えれば、地域限定は説得力に欠ける。事実、残波ブランドを全国に広めた経営者の業績は評価されていない。結局、訴訟では納税者は1審、控訴審とも敗訴し、最高裁(平成30年1月25日)の上告不受理で終わった。

 株主と役員が同じことが多い中小企業はお手盛り経営になる傾向があるが、株主と役員が利害関係にある大企業では株主総会等で株主から牽制され健全な経営が行われるということが定説である。ゴーン騒動の推移を見守りたい。

 ところでゴーン騒動はテレビの情報番組で格好な話題となった。「税金問題は?」という司会者の問いに、「ゴーン容疑者は非居住者だから税金は関係ない」と発言したコメンテーターがふたりいた。ひとりは経済評論家でもうひとりは弁護士だった。経済評論家はともかく弁護士としてはいささか恥ずかしい。

 内閣府令改正により公表義務が実施されたとき、非居住者として「日産のゴーン社長は9億円近い報酬を受取りながら、所得税は20%で住民税はゼロ」と報じられた(週刊現代2010年7月31日号64頁)。同誌の記事は、ゴーン社長の日本滞在日数は1週間から10日という日産の回答と、雑誌のインタビューでゴーン夫人が、パリと東京で半々だと答えていることを引用比較して、ゴーン社長の非居住者認定に疑問を呈していた。今は昔の話である。

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