クレーム対応術

関根健夫

カスハラ防止条例施行|「上司を出せ」の適切な断り方とは?【クレーム対応術 7】

NEWキャリア

2025.04.09

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出典書籍:『ガバナンス』2014年10月号

自治体職員のためのトラブルの対処法を学ぶ!カスハラ対応図書特集

今さら聞けないクレーム対応術 7
『いきなり「上司を出せ」と怒鳴られましたが、どうやって断ればいい?』
/月刊ガバナンス 2014年10月号


2025年4月1日、東京都などで「カスタマーハラスメント(カスハラ)防止条例」が施行されます。
これにより、企業や自治体にも適切な対応策の整備が求められています。

しかし、すべての厳しい意見がカスハラにあたるわけではありません。
適切なクレームには真摯に対応しつつ、不当な要求には冷静に対処することが重要です。

本記事では「上司を出せ」と言われた際の対応方法を解説します。
カスハラ・クレーム対応の参考としてチェックしてください!

この記事で分かること

・「上司を出せ」と言う人の心情
・「上司を出せ」と言われた時の対応・例文
・「上司を出せ」の断り方・例文
・「上司を出せ」を断りやすくするには

「上司を出せ」の意味

 クレームを言うお客さまが、往々にして口にするセリフの一つが「上司を出せ!」だ。自分の意見、要求を受け入れてもらえない場合や、役所側の説明や回答に納得がいかない場合に言われることが多い。

 クレームを言う人は、自らの言い分に正当性があると思っている。だから、自分の言い分が通らない、何らかの制限や条件が付くと不満になる。また、圧力をかけることで議論を有利に展開したいと考える。

 クレームを言う人にとっては、自分の意見、主張、要求を通してくれない職員は、気持ちを理解してくれていない、ものわかりの悪い人ということになる。他にものわかりがよい人がいないのか、ということで上司との面会を要求してくる。

 その気持ちの中には、少なくとも、担当者レベルの人よりは、上司の方が自分を理解してくれるだろう、もしかしたら例外を認めてくれるかもしれない、という意識がある。上司であれば、例外を認める権限があるだろうという感覚もある。

上司は出さないのが原則

 いくら「上司を出せ」と言われても、こちらは、すぐに「はい、呼んできます」というわけにもいかない。すべてのクレームやトラブルに、いちいち上司が出ていては、組織は成り立たない。業務にはそれぞれ担当者がいるのだから、上司は原則として出ない、出さないことが常識だ。

 今回の状況のように、お客さまが始めから怒鳴って来るような場合は、こちらはまだ何も説明しているわけではない。だから、このお客さまは、今回のこちら側の対応について不満があるわけではなく、このこと以前に何らかの事情を抱えているのだろうと思われる。このような場合、まずはその点を聞いてみる必要がある。

「どのような、ご用件でいらっしゃいましたか」
「上司に取り次ぐにしても、用件をうかがわないことには、何ともできません」
「まずは、私にご用件をおっしゃってくださいませんか」


などと、聞いてみる。

 相手が、にわかに反応しなくても、丁寧に粘り強く聞き続ける。その上で、上司を呼ぶか、その前に誰か適任者がいるかを判断する。現実には、よほどの事情がない限り、すぐに直接上司に引き合わせることはないし、その必要もないだろう。

「上司を出せ」の断り方

 クレーム対応の中で、上司への面会を要求され、それを断ることは、現実によくあることだろう。

 上司への面会を要求されたからといって、それ自体が違法とはいえない。他にも「男を出せ」「本人を連れて来い」などの発言も同じである。いきなりの面会要求は、確かに非常識かもしれないが、それだけをもって犯罪的行為とはいえない。断ることは “事を割ること” であり、けじめをつけることに通じる。理由のない面会要求を受け入れる必要はない。こちらは、それを断ることがけじめである。

 上司を出す必要がなければ、それを拒否する姿勢を示し、少なくとも3回はそのことを訴えるべきだ。

 しかし、単に「呼べません」「呼ぶ必要は、ありません」と言い張るだけでは、相手の言い分に直接的に反対するだけのことになってしまう。これでは、対立の感情をあおることにもなる。お客さまは納得しにくいだろう。

 そこで、理由を述べて断る。

「私が、本件の担当です。私に話をさせてください」
「私が、お客さまの担当です。お客さまのお話は、私から上司に伝えさせていただきます」
「私が、お客さまの担当です。上司の話は、私からあなたにお伝えします」


などと述べて、自分が担当であることを強調する。つまり、自分が担当であることが、面会をお断りする理由となるのだ。必要があれば、自分がお客さまの話を上司に伝え、自分が上司の判断をお客さまに伝えることを主張する。

 断る理由は、他にも考えられるが「出かけている」などと、具体的な理由は言わない方がいい。「何時に帰って来るのか」「待つ」などと言われて、実際に待たれるとかえって話が複雑になる。「何かと忙しい」などと、漠然とした言い訳をすると、相手方を尊重していない言い訳に感じられる。

信頼があると断りやすい

 クレームは、それを言う相手方にも主張があるわけだ。だから、まずは相手の言い分を十分に聞くことがベースになる。話を聞いて、積極的に逆質問することもよいだろう。人は自分の話を十分に聞いてくれる人に、敵対心を持ちにくい。話を十分に聞くことで信頼が得られる。その信頼が、上司を呼ばずとも、この担当者なら大丈夫だという気持ちを育てるのだ。そのような状況をつくった上で、「この件は、私が担当します」「私を信じてくれませんか」などと言うと、この発言は比較的有効に作用するものとなる。

 つまり、「上司を出せ」の発言が出るか出ないか、また、上司への面会要求を断り切れるかは、その発言の前の信頼関係のつくり方にかかっている、といっても過言ではないのである。

 

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関根健夫

関根健夫

人材教育コンサルタント

1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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