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【図書案内】『お悩み解決!公務員のためのクレーム対応駆け込み寺』 関根健夫/著

ぎょうせいの本

2019.05.31

【図書案内】『お悩み解決!公務員のためのクレーム対応駆け込み寺』(2019年5月刊行)
本書「まえがき」より

自治体に寄せられるクレームの一例

 ある市のクレーム対応です。ある市民が、ほぼ月に1回のペースでやって来ます。60歳代後半と思われる男性だそうです。役所にやって来ては、どこかの課で職員に問い合わせをします。どの課に行くかは、その時々で違うそうです。対応した職員は皆それなりに誠意をもって答えようとします。そのお客さまはその答えに対して「なぜそうなっているのだ?」「そのことは法律のどこに書いてある?」などとさらに聞いてくるそうです。

 細かいことまで問われると、職員の側も瞬時には答えられないことが出てきます。このお客さまは、そういった会話から徐々にクレームを言い始めるのだそうです。「そんなことも、わからんのか!」「お前、何年仕事しとるんじゃ!」「そんな生半可な知識で仕事しているのか!」「不勉強だ!」から始まって「バカ!」「ボケ!」「カス!」の類まで、もうそれは常識を超えた言い方で、最後は一方的にまくし立ててくるそうです。一旦怒りが生じると、結果として20分30分、時には1時間近くも続くといいます。

 この市民は、この市の職員にとって有名な人になっていて、誰もがその行為を迷惑と思っています。しかし、このようなことが、現実にすでに5年も続いているのだそうです。

謝罪する女性職員

若い年齢層のクレーマー

 別の市の図書館でのケースです。この方は30歳代の男性だそうです。平日の日中に頻繁に図書館にやって来ます。ロビーや閲覧室で、新聞や雑誌を読んで帰ります。時にカウンターにやって来てクレームを述べます。内容は「施設の中が寒い、暑い」「子どもがうるさい」「高校生が図書館の本を読まずに勉強しているのはおかしい」「職員が自分のことを嫌な目で見た」などです。ご意見、お気持ちとしては否定するわけにもいきませんが、感覚的にどうしようもないことについては、こちらとしても何とも言えないわけです。よほど他人に迷惑をかけることでもない限り、規制することはできません。

 そのお客さまは、その日のコンディションによって、言い方が温和なこともあれば、いきなり大声を上げることもあるようです。図書館は静粛を旨としますから、そのお客さまが怒鳴ることにもなれば、そのほうがよほど迷惑です。そうなると、こちらが説明しようとしても声を荒げて自分勝手な主張を繰り返すといいます。

来庁者用の駐車場でもクレーム発生

 また、別の市のケースです。女性のお客さまが、案内カウンターの職員に「駐車場の係員の言葉づかいが悪い」とクレームを述べました。来庁者用駐車場が満車だったので、その脇の空きスペースに車を止めようとしたら、そこは公用車用の場所だということで移動するように注意を受けたということです。案内カウンターの職員は、その話をひととおり聞きましたが、本人の怒りが収まらないため、総務部署の職員を呼びました。

 このお客さまは「駐車場の係員が自分に対して命令した」「不愉快だ」「だいたい敬語のつかいかたがおかしい」「バカにされた」「公用車より市民の車を優先すべきだ」などと自論を展開し、1時間近く話をして帰って行ったといいます。

 実はこのケースのお客さまも、何度も役所にやって来るいわばクレームの常連客で、これまでも「名札をつけていない職員がいた」「駐輪場の自転車の整頓がなっていない」「掲示板のポスターが曲がっている」「○○にゴミが落ちていた」「喫煙場所からのタバコの煙が臭い」など、くどくどと言うことが多いのだといいます。

役所の駐車場

自治体職場でのクレーム対応のポイント

 これらは、役所や公共施設で起きたお客さま対応事例の一部にすぎません。それぞれ、お客さまの言っていることが間違っているわけではありません。しかし、このようなことが繰り返され、何人もの職員が常識を超えて時間を取られてしまうことは、こちらの立場からいえば迷惑です。

 世間には、解決策のない問題やトラブルはあります。ある出来事に解決策を求められてもそれがにわかに提示できない、公務員といえどもそういうことはいくらでもあるわけです。また、解決策があったとしても、法の整備や予算の問題から、すぐに実現できないことも少なくありません。またすべてを行政側で解決することができないこともあります。自治体の本質的な概念は、住民が自らの力で地域を治めることですから、問題の解決に当たっては住民側に協力を求めることもあるわけです。

スムーズに業務を進める女性職員

 また、役所がクレームに対応する際、そのすべてに根拠を求められても、それがない場合があります。例えば、話の長いお客さまとの会話を、どこまで聞いてどこで切り上げればいいのか、このことに10 分とか20分とかの根拠はありません。根拠はなくても多くの人が納得できる対応をして解決に導くこと、それが常識というべきなのでしょう。しかし、そのことを言っても一部のお客さまは納得されません。一部のお客さまは常識を主張すると「では、こちらが非常識だと言うのか!」などと怒りを増大させ、事態はさらに悪い方向に行ってしまうでしょう。常識とは常識が共有できる人との間で成り立つ概念ですから、そうでないお客さまとの対応はそれは大変です。

 ここでご紹介したクレームがなぜ起きたのか、お客さまはどんな気持ちで言って来ているのか、それは個別の判断になります。しかし現代は、これらのケースのような迷惑なクレームが増えているのです。

自信を持つ女性職員

 筆者はこれまで、月刊『ガバナンス』誌において、クレーム対応の基本、部署別のケースについて10年以上にわたって連載して解説してきました。ここ数年は、「クレーム対応駆け込み寺」、2019年度からは「クレーム対応悩み相談室」と題して、公務員の方々からのご相談にお応えしています。この度、多くの方々からのご要請で、本誌の内容をまとめ、新たな解説を加えて本書が上梓されることとなりました。

 本書が多くの公務員の方々にとって、クレームへの対応に自信を持っていただけるようお役に立てればと願います。人とのコミュニケーションに自信が持てることは、人にとって最大の幸せであることを信じて、皆さまを応援しております。

著者プロフィール

関根 健夫(せきね・たけお)/人材教育コンサルタント
1955年生まれ。武蔵工業大学(現、東京都市大学)卒業後、民間企業を経て、88年、アイベック・ビジネス教育研究所を設立。現在、同社代表取締役。コミュニケーションをビジネスの基本能力ととらえ、クレーム対応、営業力強化などをテーマに、官公庁、自治体、企業等の研修・講演、コンサルティングで活躍中。著書に、『こんなときどうする 公務員のためのクレーム対応マニュアル』『事例でわかる公務員のためのクレーム対応マニュアル 実践編』(ぎょうせい刊)。

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月刊『ガバナンス』での好評連載中の「クレーム対応駆け込み寺」が待望の単行本化

お役立ち

お悩み解決!公務員のためのクレーム対応駆け込み寺

2019年5月 発売

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