義理チョコはセーフですよね? こんなときどうする?地方公務員のコンプライアンス
地方自治
2021.06.21
目次
新刊紹介
(株)ぎょうせいはこのたび、『義理チョコはセーフですよね? こんなときどうする?地方公務員のコンプライアンス』を発刊します。
地方公務員の仕事は住民と近い立場にあり、不正を行わないことは言うまでもありませんが、住民から「疑いをもたれない」ということも重要です。
本書では、コンプライアンスについての基礎知識はもちろん、具体的な事例を挙げて、「自らの行動について不信・疑念が生じないようにするにはどうしたらよいのか」を考えるための素材を提供しています。
ここでは、本書のご紹介と本文から3つのQ&Aを掲載します。自治体関係者の方、ぜひご一読ください。
(書籍の詳細はコチラ)
●地方公務員にとってのコンプライアンスとは
自治体にとってのコンプライアンス・公務員倫理の基本は、住民の信頼に応える行政サービスを行うこと、そして、最低限、職員の行動について、おかしいと思われない、職務遂行の公正さに住民から疑いをもたれないことです。
そのため、職員一人ひとりが、自身の行動について不信・疑念が生じないためにはどうしたらよいかをしっかりと考えることが大切です。本書はそのための素材を提供するものです。
(本書「はじめに」より)
●ルールの「あてはめ」は厳禁
本書のご使用に当たって、特に留意していただきたいのは、「結論を急がない」ことです。形式的にルールを適用して「問題ない」(「セーフ」)とすることは避けなければなりません。
どこに問題があるか、ルールをどう理解し、どのような視点で検討するかという過程に意味があります。Q&Aはその材料となるものです。
(本書「はじめに」より)
●本書のQ&A紹介
【Q&A紹介①】コンプライアンスと公務員倫理とは、どんな関係があるのですか?
ここがポイント
コンプライアンスは組織運営の在り方に着目し、公務員倫理は組織の構成員一人ひとりの行動・報告の基準を定めている。ともに、住民の不信・疑念を起こさず、さらに住民の要請・期待に応じる行政を目指すものである。
解 説
狭い意味では、コンプライアンスは法令を遵守すること、公務員倫理はしてはならないことをしないことですが、より広い意味で、コンプライアンスについては社会的要請に適合すること、公務員倫理についてはすべきことの実現を含んで解されるようになっています。
想定する主体として、コンプライアンスは組織(企業や行政機関、自治体)に着目し、公務員倫理は、その語が示すとおり、「公務員」の倫理についての職員の行動・報告の基準を定めるものです。
どちらも全体として、住民の不信・疑念を起こさず、さらに住民の要請・期待に応じる行政を目指すもので、自治体の条例などの名称でも倫理を含めたコンプライアンスの語で用いることもあります(不正な関与の防止、公益通報を併せて用いるものも少なくありません。)。
なお、「倫理」は個々人の心の内面の問題で、法律で規制するものではないという考え方もありますが、法令用語として定着してきています。他方、個々人の内面に関する「道徳」は、国語事典(『広辞苑』(第7版))では、「人のふみおこなうべき道。ある社会で、その成員の社会に対する、あるいは成員相互間の行為の善悪を判断する基準として、一般に承認されている規範の総体。法律のような外面的強制力や適法性を伴うものではく、個人の内面的な原理」とされています。
【Q&A紹介②】自治体の政策に納得できないので反対する意見を個人の意見としてSNSで発信することは問題になりますか?
問題はどこに
○政策に反対する意見の発信について
○服務規律から見た当否
関連するルール
職務専念義務(地公法第35条)、守秘義務(地公法第34条)、懲戒事由(地公法第29条第1 項第1 号)(法令違反)(同第2 号)(職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合)
ルールの解釈
勤務時間中に個人的意見を発信した場合には、職務専念義務に反します。意見表明が直ちに職務命令違反となるわけではなく、また、単なる意見の表明にとどまる場合は、守秘義務には違反しません。しかし、個人の意見であっても職員として政策に反対する意見を表明することが住民の信頼に混乱を与え、公務の信用を傷つける可能性はあります。
あてはめ・検討
政策に納得できない、疑問を持つことは生じ得ることです。服務上、法令・命令に対して意見具申を行うことは認められると解釈されています。意見具申が行いやすい環境(「風通しのよい職場」)の整備も求められているところです。
しかし、それを外部に発信することは住民の混乱を招く危険性があります。それを防止するための注意喚起、意識の涵養も求められます。
【Q&A紹介③】親しくしている営業担当者から、義理チョコを受け取ることは問題になりますか?
問題はどこに
○営業担当者からの贈与について
○コンプライアンス・倫理から見た当否
関連するルール
倫理規程第2 条第1 項(利害関係者)
倫理規程第3 条第1 項(禁止行為)、第2 項(禁止行為からの除外)
ルールの解釈
親しくしている営業担当者は、利害関係者(倫理規程第2条第1項第7 号)に該当します。
利害関係者からの贈与は禁止行為として掲げられています(倫理規程第3条第1項第1号)が、その例外として、広く一般に配布されている記念品・宣伝用物品は受け取ることは認められます(倫理規程第3条第2項)。
具体的には、① 国家公務員以外にも幅広く配布されているか、②記念性(○○記念)や宣伝性があるかの両方を満たしていることが要件と考えられています。
「義理チョコ」の場合、上記①については該当する場合が多いと思われますが、②については、一般に市販の物であって、企業の記念品や宣伝のためのもので、社会的に相当と考えられる儀礼的な行為とは解されないとされています。
これぐらいはかまわないのではないか、という危険な芽に注意しなければならないところです。
●執筆者Profile
鵜養 幸雄(うかい・ゆきお)
東京大学法学部卒業後、昭和58年人事院入庁。公務員の育児休業制度、人事院規則の法令審査、不利益処分審査請求の処理、公務員の任期付採用制度の立案、人事評価制度の検討などの業務に従事。平成19年4月に立命館大学公務研究科創設と共に同科教授に就任。人事院公務員研修所客員教授などをつとめる。人事行政研究所講師として服務制度、勤務時間・休暇制度、懲戒・分限の制度・運用、非常勤職員の制度・運用についての研修を実施。また、自治体職員等に対する公務員倫理、人事評価、会計年度任用職員、マネジメント等の研修講師を行う。令和2年6月より現職。