政策形成の職人芸  その13 目的の導き方・具体化

キャリア

2022.12.06

★本記事のポイント★
①望ましい状況を明らかにすることが目的と手段を導く第一歩。社会的正義・公共性に適合する状況を考えることにより望ましい状況が導かれる。 ②実際の政策過程では、種々の要望により政策が形成されるので、政策の目的が社会的正義・公共性に適合するか検証する必要がある。 ③政策の目的とするためには、手段を導出する指標となる程度に具体化する必要があり、そのためには、目的のレベル、目的達成の時期、目的達成の程度などを固める必要がある。

 

1.イメージを形に

 これまで、政策形成のプロセスである問題の設定と解決策の提示についてお示ししてきました。これからは、政策の内容である目的と手段についてお示しします。

 ところで、第6回において、解決の方向性のイメージを、政策の構成要素である目的と手段として具体化することにより、政策案ができるのではないかとしました。政策形成について知識・経験があるからこそ、解決の方向性のイメージが生まれると思います。また、そうして生まれた解決の方向性のイメージを知識・経験に基づき目的と手段という形にしていきます。このようなことからも、政策の内容である目的と手段に関する知識は重要です。

 

2.目的の導き方

 まず、目的に関して、目的の導き方について考察します。

 公共政策の問題は、望ましい状況とのギャップがある現状があることにより発見され、そのギャップを解決するため政策が形成されますので、望ましい状況を明らかにすることが政策の内容である目的と手段を導く第一歩となります。

 第2回でお話ししましたが、問題を発見できるのは、現実が社会的正義・公共性に反すると認識できることなので、その社会的正義・公共性に適合する状況を考えることにより望ましい状況が導かれるのではないでしょうか。また、社会的正義・公共性については、法令の目的規定、理念規定などの理解を深めておくことにより、具体的な問題における望ましい状況を思い浮かぶようにすることが重要だと思います。

 例えば、コロナの感染拡大により病床がひっ迫して入院できないコロナ患者が多数存在するという現状があるとします。この現状は、国民の生命・健康の保持という価値基準に反しますので、この場合、望ましい状況は、病床を増やすことなどによりすべてのコロナ患者が医療を受けることができるようになることです。なお、この例における望ましい状況を検討する際、「この法律は、・・・、医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与することを目的とする」という医療法第1条の目的規定などを参考にしています。社会的正義・公共性から具体的問題に関する望ましい状況を検討するのが本来のやり方でしょうが、法律だけでも約2000件あり、様々な目的規定、理念規定などがありますので、法令の目的規定、理念規定などの文言を直接参照して、望ましい状況さらには政策の目的を考えるのも実用的な方法かもしれません。

 

3.目的の検証

 公共政策の目的は、社会的正義・公共性に基づく望ましい状況から導かれますので、一応、社会的正義・公共性に適合すると考えられます。しかし、実際の政策過程では、種々の要望により政策が形成されていきますので、政策の目的が社会的正義・公共性に適合するか検証する必要があります。

 ところで、政策評価に関する基本方針(平成17年12月16日閣議決定)では、政策評価の観点について、「必要性の観点からの評価は、政策効果からみて、対象とする政策に係る行政目的が国民や社会のニーズ又はより上位の行政目的に照らして妥当性を有しているか・・・を明らかにすることにより行うものとする」とされています。例えば、一部の業界の要望によりその業界の利益を図るような政策目的については、国民や社会のニーズと言えるか、あるいは社会的正義・公共性に適合するかを検討しなければならないでしょう。

 

4.目的の具体化

 政策の目的を考える際、最初は、方向性を示す抽象的な目的が思い浮かぶと思います。法令の目的規定等を参考にして目的を考えるとしても、法令の目的規定は、法令の目的を簡潔に表現することを旨としていますので、方向性を示すだけの抽象的な表現であることが多いです。

 しかし、政策の目的とするためには、手段を導出する指標となる程度に具体化する必要があります。例えば、大気汚染、騒音などの環境保全に反する現状がある場合、大気汚染、騒音を低減させ環境の保全を図るというのが望ましい状況であり目的の方向性ですが、大気汚染、騒音などは、事業活動等の正当な活動から生ずることが多く、一切禁止することはできず、目的の具体化のためには大気汚染、騒音をどの程度低減するかを明らかにしなければなりません。

 つまり、政策の目的の具体化には、目的のレベル、目的達成の時期、目的達成の程度などを固める必要があります。また、これらの事項を明らかにしなければ、どのような手段を採るかも確定することはできません。ただ、これらの事項は、それぞれの公共政策の問題に応じて個別具体的に決めざるを得ません。政策形成の一般的理論として示すことができるのは、次のようなものでしょう。

 目的達成の時期と目的達成の程度について、単純な対照を示すなら、「速やかに達成しなければならないもの × 時間をかけて達成すべきもの」と「目的を完全に達成しなければならないもの × 目的をある程度達成できればよいとするもの」となります。

 例えば、感染力が強く重症化リスクの高い感染症のまん延防止という目的については、速やかにかつ完全に達成する必要があります。この場合は、手段は強制の程度が強いものになるでしょう。反対に、かつての男女共同参画社会の形成という目的のように、長年の男女の役割分担の慣行を是正しようとするものについては、時間をかけて達成するものでしょう。この場合は、手段は理念を謳うことにとどまるかもしれません。おそらく、この両者の中間のようなものが多いのかもしれません。

 一般論としては、個別具体的な問題について、次のような事項を総合的に考慮して、目的達成の時期と目的達成の程度を決めていくことになるでしょう。

①政策で保護しようとする利益
・侵害されれば取り返しのつかない利益かどうか
・確立した権利・利益か今後形成されるべき権利・利益か
・不特定多数の者に関する利益か少数の利益か

②原因と結果の因果関係
・因果関係が明確かどうか
・因果関係が直接的かどうか

③条件の整備状況
・政策実施の条件が整っているかどうか

④価値の対立
・価値の対立があるかどうか

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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