政策形成の職人芸  その5 問題の定義

キャリア

2022.10.11

★本記事のポイント★
①公共政策の対象である問題は、そもそも何が問題であるか自明でないため、問題の設定には、問題の定義が必要。 ②問題の定義には、問題の原因・結果などの構造を明らかにし、解決の方向性を示すことと、問題が公共で解決すべきものであることを明らかにすることが必要。 ③問題の実体に即した有効な解決策が見つかるような問題の捉え方をすべきで、問題を大きくしすぎない。

 

1.悪構造の問題?

 前回(第2回~第4回)までに、問題の発見や調査・分析について考察してきましたが、公共政策の問題の設定には、問題の定義が必要だとされています。その理由を考えてみましょう。
 まず、公共政策の対象である問題の特徴について、公共政策学の書物の中には、「そもそも何が問題であるか自明でない。また、どこで分析・検討を打ち切るべきかについての終息ルールもない。一つの問題が複雑な仕方で他の様々な問題と繋がっている。問題をどのようなものと解釈・同定するか、多様な解釈のなかからどれをとるかが、すでに解のあり方を規定している。加えて、相互に対立する様々な解の背後には利益や価値の容易に調停し難い相克が潜んでおり、各々の解の真偽や相互の間の優劣を判定するための客観的な尺度はない。要するに、「悪構造」(wicked)の問題なのである」という論述があります。また、社会問題について、「問題そのものが自明ではなく、技術的に課題があり、解決策も不明で、現状や望ましい状況をめぐって認識や見解の違いがある」という論述もあります。
 これらの見解は、政策論全般の難しさとともに、特に公共政策で扱う問題の設定の難しさを示しています。簡単に言えば、公共政策で扱う問題は、単一の正解がなく、解決の方法も定かでないので、人々が公共政策の対象となる問題であると認識することが難しくなるのでしょう。また、実体としては同じ問題を、解決の方法の違いなどから人によって異なった問題として捉えることもあります。
 このように、公共政策の問題として設定することが難しいこともあり、公共政策学では、問題の構造化や定式化が重要であるとして、その手法が研究されています。また、問題をどのように捉えるかという「フレーミング」についての研究もあります

 

2.問題の定義の仕方

 公共政策の対象となる問題が、前述のように「問題そのものが自明ではなく、技術的に課題があり、解決策も不明で、現状や望ましい状況をめぐって認識や見解の違いがある」というものであるなら、①問題の原因・結果などの構造を明らかにし、解決の方向性を示すことと、②問題が公共で解決すべきものであることを明らかにすることにより、多くの人が公共政策の対象となる問題であることを認識できるようにすればよいのではないでしょうか。このうち、①については、前述の原因の分析の箇所で因果関係を明らかにしつつ、その原因の解決策を検討することを述べました。また、②については、社会的正義・公共性に照らして改善すべき現状が広がっていることを明らかにすることだと考えますので、そのためには、改善すべき現状に関する「数」を明らかにし、その現状を表現し問題を共有できる「定義」をすることが必要でしょう。
 第3回で例にあげた空き家問題について、問題の定義を試みましょう。
 ①のうち、問題の原因・結果などの構造を明らかにすることについては、以下のように、原因と結果の因果関係の流れを図示しましたが、これにより、原因・結果などの構造が明らかになると思いますし、解決の方向性を示すことについては、前回の因果関係の把握の箇所で、家屋の老朽化、売却・賃貸ができないこと、空き家を放置することなどについて、検討すべき解決策を示しました。

 ②の問題が公共で解決すべきものであることを明らかにすることについては、次のように、改善すべき現状に関する「数」を明らかにし、その現状を表現し問題を共有できる「定義」をすることだと考えます。
 総務省統計局が住宅や土地の現状・推移を明らかにするため5年ごとに行う「住宅・土地統計調査」がありますが、「平成30年住宅・土地統計調査」では、空き家率は13.6%となっています。また、国土交通省住宅局が実施した「令和元年空き家所有者実態調査」では、空き家の半数以上に腐朽・破損があり、特に別荘や貸家・売却用等以外の「その他」の空き家では6割を超えるとなっています。
 このように、全国では7,8軒に1軒が空き家となっており、その中には生活環境に支障を及ぼす空き家も相当数あり、改善すべき現状が広がっていると考えられます。もし、このような空き家の事例が少ないなら、民法の物権的請求権、不法行為などの規定により対処すれば足り、公共政策の対象となる問題としては認識されないかもしれません。
 そして、改善すべき現状が広がり、「(迷惑)空き家問題」と言えば、多くの人がこのような現状と改善の必要性を共通して認識するようになれば、公共政策の対象となる問題として定義できるのではないでしょうか。

 

3.問題の捉え方

 次に、問題をどのように捉えるかということについて考察します。例えば、空き家問題を、生活環境の改善に関する問題として捉えることも、地域の活性化に関する問題として捉えることも可能でしょう。それによって、解決策の方向性や力点が異なってくるかもしれません。人により問題の見方、思い浮かぶ解決策が異なり、正解というものはないかもしれませんが、問題の実体に即した有効な解決策が見つかるような問題の捉え方をすべきでしょう。
 反対に、次のような問題の捉え方はするべきではないでしょう。例えば、空き家問題の原因として住宅需要が少ないということが考えられますが、この背景には、少子高齢化、人口減少、大都市への集中などの問題があるでしょう。空き家問題をこれらの問題の一環として捉えたうえで、これらの問題の解決策を模索するということも理屈として可能だと思います。しかし、これらの問題を解決することはそう簡単なことではなく、空き家問題との関係で検討するには、大きすぎる問題だと考えます。問題を大きくしすぎると、目の前にある問題の解決策の検討も頓挫する結果になりかねません。これは極端な例ですが、問題を適切な大きさで捉えることが重要で、容易に解決策が見つかりそうにもない問題として捉えることは慎まなければならないでしょう。

 

『公共政策学とは何か』5頁。石橋章市朗・佐野亘・土山希美枝・南島和久『公共政策学』(ミネルヴァ書房、2018 年)(以下「公共政策学(2018)」と略します。)234頁。公共政策学(2018)228頁以下参照。秋吉貴雄『入門 公共政策学』(中央公論新社、2017年)47頁以下参照。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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