条例化の関門 その11 条例起案③

キャリア

2023.07.05

★本記事のポイント★
1 立法例の検索については、法令データベースを利用することも多いが、規定しようとする内容を固めてから利用すべき。 2 政策を条例化するように政策形成と法的検討のバランスを図りつつ「書く努力」をして、施設の管理者に要請する方法と施設を認証する方法について、条例骨子を作成。 3 本稿では、条例立案の法的検討の手順に即して理論の活用法などを考察した。前作における政策形成力と本稿における条例立案力が相俟って、広い意味の政策形成力が向上すると期待。

 前回の検討から、多数の人が利用する施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請をする方法(命令・罰則付き)【A案】と、ワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を入場させないなどの措置をとる多数の人が利用する施設を感染のまん延防止のため必要な措置が行われている施設として認証する方法【B案】について、条例骨子を作成したいと思います。

 

1.立法例の検索

 条例起案において条文の構成、用語などを検討する際、立法例を検索する必要があります。立法例の検索については、法令集を参照することもありますが、e‐gov法令検索や自治体の例規集データベースなどの法令データベースを利用することも多いと思います。特に、どのような用語を使うかについて、法令データベースを活用することは有益です。
 ただ、立法例の検索は、規定しようとする内容を固めてから利用すべきで、いきなり検索した立法例をそのまま当てはめるようなことをすべきでなく、あくまで、規定する際の参考とするように心掛ける必要があります。
 例えば、施設管理者に提示する証明書として、ワクチン接種証明書のほかPCR検査等の陰性証明書も認めるという内容を固めた上で、どのように表現するかを立法例の検索をしながら考えるということです。コロナ禍で、「陰性証明書」という言葉も多く用いられるようになり、そのまま法令で用いてもよいとも考えられますが、国の法令で「陰性証明書」を用いた例はありません。そこで、「指定動物を輸入しようとする者(以下「輸入者」という。)は、輸出国における検査の結果、指定動物ごとに政令で定める感染症にかかっていない旨・・・を記載した輸出国の政府機関により発行された証明書又はその写しを添付しなければならない」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第55条第1項)や「・・・農林水産大臣の指定するもの(以下「指定検疫物」という。)は、輸出国の政府機関により発行され、かつ、その検疫の結果監視伝染病の病原体を拡散するおそれがないことを確かめ、又は信ずる旨を記載した検査証明書又はその写しを添付してあるものでなければ、輸入してはならない」(家畜伝染病予防法第37条第1項)という立法例を参照して、「新型コロナウイルス感染症にかかっていない旨を記載した検査証明書」という表現を考えました。

 

2.ワクチン接種促進政策の条例骨子の作成

 このような検討を経て、筆者は、表現は熟していないところもありますが、次のような条例骨子を作成しました。当初のワクチン接種促進政策からはかなり軌道修正をしましたが、なんとか政策を条例化するように政策形成と法的検討のバランスを図りつつ筆者なりに「書く努力」をしました。ただ、第4回で述べましたが、法律と条例との関係に関する問題については、明快に結論を出すことは難しく、これで関門をクリアできたかは皆さんの判断に委ねますので、批判的に検討してください。なお、「書く努力」をすると、さらなる問題点が発見されることも多く、「書く努力」をしながら内容を吟味することは、重要だと思いますし、条例立案力を高めるのにも役立つでしょう。

 新型コロナウイルス感染症のまん延の防止に関する条例(骨子)【A案】
1 目的
  この条例は、多数の者が利用する施設において新型コロナウイルス感染症のまん延を防止し、住民の健康を保持することを目的とする。 2 入場規制
 ⑴ 知事は、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、感染の状況等を考慮して知事が定める期間及び区域において、規則で定める多数の者が利用する施設を管理する者に対し、規則で定める新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を3回以上受けたことを証明する書類又は新型コロナウイルス感染症にかかっていない旨を記載した検査証明書を提示しない者を当該施設に入場させないよう要請することができる。  ⑵ ⑴の施設を管理する者が正当な理由がないのに⑴による要請に応じないときは、知事は、必要があると認めるときに限り、当該施設を管理する者に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。 3 適用上の注意
  この条例の施行に当たっては、ワクチン接種を受けていないことを理由とする不当な差別的取扱いにつながることがないよう留意しなければならない。 4 罰則
  2⑵による命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、〇万円以下の過料に処する。

 

  新型コロナウイルス感染症のまん延の防止に関する条例(骨子)【B案】
1 目的    この条例は、多数の者が利用する施設において新型コロナウイルス感染症のまん延を防止し、住民の健康を保持することを目的とする。 2 認証
 ⑴ 知事は、規則で定める多数の者が利用する施設であって、次に掲げるまん延の防止に関する措置を講じているものについて、その申請により、まん延の防止に関する措置が講じられている施設として認証することができる。
① 規則で定める新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を3回以上受けたことを証明する書類又は新型コロナウイルス感染症にかかっていない旨を記載した検査証明書を提示しない者の入場の禁止 ② 発熱その他の新型コロナウイルス感染症の症状を呈している者の入場の禁止
   (以下略)
 ⑵ 知事は、⑴の認証をしたときは、認証をした施設の名称を公示するものとする。 3 認証の取消し
 ⑴ 知事は、2の認証を行った施設が2⑴のまん延の防止に関する措置を講じていないと認めるときは、認証を取り消すことができる。  ⑵ 知事は、⑴により認証を取り消したときは、その旨を公示するものとする。 4 適用上の注意
  この条例の施行に当たっては、ワクチン接種を受けていないことを理由とする不当な差別的取扱いにつながることがないよう留意しなければならない。

 政策手法が条例ではどのように規定されているかについてまとめました。
 以下URLよりご参照ください。
 https://shop.gyosei.jp/user_data/pdf/seisaku_kiteirei.pdf

 

3.むすび

 以上、11回にわたり、条例化の関門というテーマに特化して、条例立案の法的検討の手順に即して理論の活用法などを考察しました。皆さんがこれを基に、条例立案力を高めてくだされば幸いです。おそらく、前作における政策形成力と条例立案力が相俟って、広い意味の政策形成力が向上すると思います。
 今後、個別具体的な問題についてすぐれた条例を立案していただくことを期待してむすびとします。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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