政策事例研究 vol.3 - 異次元の少子化対策③
キャリア
2024.09.09
★本記事のポイント★
1 こども未来戦略が提示する種々の経済的支援の施策が機能するためには、十分な財源を確保する必要がある。「加速化プラン」の財源としては、既定予算の最大限の活用等、歳出改革による公費節減、こども・子育て支援金制度の構築が充てられる。 2 こども・子育て支援金制度は、少子化対策に充てる費用について、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く拠出していく仕組み。 3 「こども保険」という新たな社会保険を導入するという提言について考察する。
前回に引き続き、少子化対策に関する課題などについて考察したいと思います。今回は、財源の確保に焦点を当てたいと思います。
1.少子化の背景と乗り越えるべき課題 - 財源の確保
こども未来戦略が提示する種々の経済的支援の施策がうまくいくためには、十分な財源を確保する必要があります。
同戦略では、「こども家庭庁の下に、2025 年度に、こども・子育て支援特別会計(いわゆる「こども金庫」)を創設し、既存の(特別会計)事業を統合しつつ、こども・子育て政策の全体像と費用負担の見える化を進める」としています。
そして、「加速化プラン」の予算規模は、①ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組 1.7 兆円程度、②全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充 1.3 兆円程度、③共働き・共育ての推進 0.6 兆円程度と、全体で 3.6 兆円程度と見込まれています。
その財源としては、①既定予算の最大限の活用等については、子ども・子育て拠出金など既定の保険料等財源や、社会保障と税の一体改革における社会保障充実枠の執行残等の活用などにより、1.5 兆円程度、②歳出改革については、「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」における医療・介護制度等の改革を実現することを中心に取り組み、公費節減効果により、 1.1 兆円程度、③歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で、支援金制度を構築することにより、 1.0 兆円程度の確保を図るとしています1。
2.こども・子育て支援金制度
筆者は、上記の財源のうち③の支援金制度に注目しています。この制度の骨格は、次のとおりです。
・ 歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内でこども・子育て支援金制度(仮称)を構築する。 ・ これは、少子化対策に充てる費用について、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く拠出していく仕組みとする。 ・ こども・子育て支援金(仮称)の充当対象事業に係る費用の拠出のため、医療保険者に、支援納付金の納付をお願いし、医療保険者がその納付に充てる費用として、被保険者等から保険料と合わせて支援金を徴収する。
そして、支援金納付金は、 出産・子育て応援給付金の制度化、 共働き・共育てを推進するための経済支援、こども誰でも通園制度(仮称)、 児童手当に充当するとされています2。
社会全体で子育てを支援するという意識は定着していると思いますので、少子化対策に充てる費用について、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く拠出していく仕組みであるこども・子育て支援金制度は、国民の理解も得やすいのではないでしょうか。また、医療保険の徴収を活用して支援金を徴収することも巧みな制度だと思います。
ところで、こども・子育て支援金制度は「実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせた範囲内」で構築されるとされています。国民の理解を得やすくするためかもしれませんが、 さらなる経済的支援をするなら、次に見るこども保険のような制度を構築することも検討に値すると思います。
3.こども保険
長寿化が進んだ我が国は、高齢期におけるリスクに対応する年金、医療、介護について社会保険方式が導入されその充実が図られ、その結果、現在の社会保障は、高齢期の支援が中心となっているが、それに比較して、子育て支援は立ち遅れているという指摘があります。そして、子育て支援の財源を強化する方策の一つとして、「こども保険」という新たな社会保険を導入するという提言があります3。
社会保険においては給付と負担の関係性について国民の理解が必要ですが、次の論述のような説明は納得できるものか検討しましょう。
社会保険ですから、国民全体としての合意が得られるかどうか、ということになります。こども保険で『親世代』が保険料を負担する理由には、将来的には『子ども世代』から『扶養してもらう』という受益が期待できるから、ということがあります。その点では、現代社会では、子どもがいない人も高齢者も、『子ども世代』が支えている年金や医療保険、介護保険を通じて、『社会的扶養』の受益を得ているし、将来得る可能性があります。つまり、子どもが生まれ、育つことは、社会のすべての人にとって、自分の老後生活を支えてくれる人が増えることを意味します。そう考えた時に、自分は社会から何もサポートも受けずに、人生を全うするのだから負担しない、と主張できる人がいるのでしょうか4。
<考察>
社会保険は、保険料の負担と給付が結びついているので国民の理解を得やすいとされています。そして、社会保険が導入できるかは社会保険の対象となるリスクが誰にでも起こりうるような普遍性の高いことが必要だとされます。この点、前述のように、長寿化が進んだ我が国は、高齢期における生活リスクに対応する年金、医療、介護について社会保険方式が導入されました5。
この点、子育てについては、こどもがいない人や高齢者は、自分に見返りがなく保険料の負担させるのは疑問だとする意見があります。上記の論述は、これに答えたものです。同書では、この論述に続けて「現代社会は、世代間の支え合いで成り立っているのです。そして、この世代間の支え合いとは、若年世代が高齢世代を支えるだけの一方通行ではありません。高齢世代が子ども世代を支えることがあっても、決して不合理ではありません」としています。筆者は、妥当な見解だと思いますが、皆さんはどうでしょうか。
1 同戦略30頁以下参照。 2 同戦略38頁以下。 3 山崎史郎『人口減少と社会保障』(中央公論新社、2017年)94頁以下、178頁参照。 4 山崎史郎『人口戦略法案』(日本経済新聞出版、2021年)218頁以下参照。同書は、介護保険制度の創設に携わった著者が、人口減少問題について小説風に執筆したものですが、そこで用いられるデータは実際のもので、展開される議論は人口減少問題を考える際に参照すべきものだと思います。 5 山崎・人口減少と社会保障93頁以下参照。
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