政策形成の職人芸  その7 結果の予測

キャリア

2022.10.25

★本記事のポイント★
①政策案を採った場合、どのような結果(効果・弊害)が生ずるかを予測する必要があるが、その予測には困難が伴う。 ②公共政策学においても予測の手法は研究されているが、歴史・時代の趨勢から学ぶこと、因果関係を考えること、専門家の見解を聴くことなどは、予測をするうえで重要。 ③ロジックモデルの例を見るなど普段から政策研究を行うことにより、ある政策を採ればどのような結果が生じたかを知ったうえで、応用する能力を養うことも重要。

 前回、政策の基となる政策案の作成について、お示ししました。この政策案の作成は、政策形成の核心的な部分ですが、簡単なものではありません。クリアすべき点として、政策案の結果をどのように予測するか、政策案を実現するための条件をどのように見極めるか、価値の対立をどのように調整するかなどがあると思います。今回から、これらについて考えてみたいと思います。

 

1.結果の予測は重要だが難しい

 政策案を評価するときには、その政策案を採った場合、どのような結果(効果・弊害)が生ずるかを予測する必要があります。結果の予測は、政策案の評価・選択の基礎となるもので、政策デザインにおいて重要な要素です。
 政策案については、効果が全くないということは考えにくいですが、どの程度の効果が上がるかを予測することは難しいですし、予測できない弊害が生ずることもあります。また、限られた情報を基にした将来の予測ですので、不確実性が伴うのは不可避です。
 しかし、このような限界はあるものの、政策案を採った場合の結果(効果・弊害)をできる限り正確に予測する努力は怠ることはできません。予測は、経験に裏打ちされたものですが、理論的な予測の手法を駆使して、予測の正確性を高めることが重要だと考えます。また、普段から政策研究を行うことにより、ある政策を採ればどのような結果が生じたかを知ったうえで、応用する能力を養うことも重要でしょう。

 

2.予測のスキル

 予測は、結果の予測だけでなく、政策形成の各段階において重要ですので、公共政策学においても、予測の手法が研究されています。
 例えば、予測の手法として、外挿的予測、理論的予測、直感的予測の3つをあげる書物があります。

名称 手法
外挿的予測 過去の時系列的変化のパターンやトレンドを未来に向けて外挿することによって、未来の様々に異なる時点の出来事や状態を推定する予測の手法
理論的予測 何らかの理論的前提に基づいて、未来の様々な時点の出来事や状態を推定しようとする予測の手法(代表的なものは因果関係に基づく予測)
直感的予測 将来の出来事や状態についての専門家の直感ないし主観的判断に基づく予測(専門家の権威に予測正当化の根拠を求める予測)


 常識的に考えても、歴史・時代の趨勢から学ぶこと、因果関係を考えること、専門家の見解を聴くことなどは、予測をするうえで重要なことでしょう。
 例えば、コロナ問題について、パンデミックの歴史から学ぶ必要があります。約100年前に起こったスペイン風邪では、わが国は当時の人口が約5600万人のうち約2300万人が感染して、約38万人が死亡したとされ、第2波の方が対患者死亡率が高かったとされています。これと同様の結果になるかどうかは別として、感染の波は複数あることや死亡率が高くなることは、可能性として認識したうえで、事前に対策を講ずることも必要ではないでしょうか。害を及ぼす可能性のある事象については、悪い結果になることも予測しつつ対処する必要があると考えます。
 次に、因果関係を考えることとは、原因の分析でもその重要性を論じましたが、事実や理論を前提に、原因から結果を予測するものです。例えば、非正規労働者は、雇用調整の対象とされやすい、外食、宿泊などの業種においては女性の非正規労働者が多数存在するという事実を前提に、コロナ感染の影響を予測すると、次のようになるでしょう。


 確かに、社会的事象については、原因が複合して結果が生ずるというように、上記の「→」の流れのように単純に因果関係を考えることは正確でないこともあります。この点に関しては、経済学におけるモデル分析のように事象の本質的部分を抽出して、主要な因果関係の流れを把握したうえで、副次的な原因も考慮する方法が妥当ではないでしょうか。
 原因と結果、目的と手段の因果関係の流れを考える習慣をつけておくことは、原因の分析だけでなく、予測の能力を高めるためにも重要だと思います。
 また、予測する際、専門家の見解を聴くことの重要性は言うまでもありません。ただ、専門家の予測が常に正しいとは限りませんので、幅広く専門家の見解を聴くべきでしょう。

 

3.予測の不確実性

 予測は、限られた情報を基にした将来の予測ですので、不確実性を伴うのは不可避です。
 不確実性に対処するための分析手法についても、公共政策学において研究されており、感度分析、追証分析、状況変異分析、デルファイ法などがあるとされています
 これらの分析手法は、予測の基礎となる事項に変化を加えて、複数のシナリオを描いて、検討するというものです。その際、予測の基礎となる事項については、楽観・悲観、有利・不利など様々な事項を想定することが必要となります。この複数のシナリオはいずれも仮説ですので、ここでも、仮説を立てて検証していくことが必要となります。
 なお、このような複数のシナリオを描くことについては、今後、人工知能AIが活用されることが予想されます。

 

4.政策研究-ロジックモデル

 政策研究については、国や自治体の政策評価の結果を参照することが有益だと思います。特に、最近、政策の立案・評価に用いられるロジックモデルは、結果の予測の能力向上にも資すると考えています。ロジックモデルとは、インプット(投入)、アクティビティ(活動)、アウトプット(直接の効果)、アウトカム(成果)の間における論理的関係を簡潔に表現する説明図のことをいいます(下図参照)。ロジックモデルは、最初に目標を設定して、アウトカム、アウトプット、アクティビティ、インプットの順番で作成されることもありますが、出来上がったロジックモデルの例を見ると、ある活動をすればどのような政策効果や社会的影響があるかが理解できます。ロジックモデルの例を見ながら、ある政策を採ればどのような結果が生ずるかを考える訓練をすれば、結果の予測の能力向上にも資するのではないでしょうか。

 

『公共政策学とは何か』104頁以下参照。「日本におけるスペインかぜの精密分析」『東京都健康安全研究センター年報56巻』参照。足立幸男『公共政策学入門』(有斐閣、1994年)14頁以下参照。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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