感染症リスクと労務対応
【労務】感染症リスクと労務対応 第21回 感染症対策のため、労働安全衛生法に基づく衛生委員会等の開催延期することは可能?
キャリア
2020.05.18
新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)
感染症対策のため、労働安全衛生法に基づく衛生委員会等の開催延期することは可能?
(弁護士 渡邊 徹)
【Q21】
ウイルス等感染症の拡大防止のため、会社の方針として、従業員が集まる会議等を軒並み中止していますが、労働安全衛生法に基づく衛生委員会等の開催については、どのように対応すればよいでしょうか。
【A】
ここでは、通常の場合における労働安全衛生法に基づく衛生委員会等の開催を整理します。その上で、衛生委員会等の新型コロナウイルス感染症拡大防止下での対応について、令和2年4月に示された厚生労働省の見解をみていくこととします。
委員会開催の義務・構成員
常時使用する労働者が50人以上の事業場では衛生委員会の設置、開催が、さらには業種・規模によっては安全委員会の設置、開催が、労働安全衛生法上、それぞれ義務づけられています(労安17条、18条)。なお、双方の設置が義務づけられている場合には安全衛生委員会の設置、開催を要し(同法19条)、これらの会議は、毎月1回以上の開催が義務づけられています(同規則23条1項)。
また、衛生委員会には、産業医も衛生委員会の構成員とされていますし(労安18条2項3号)、社内での感染症対策は、安全衛生対策として、これらの委員会の重要な審議項目の一つですので、本来的に積極的に開催する必要性が高いと考えられます。
なお、衛生委員会の開催を怠った場合には、罰則(50万円以下の罰金)が適用されることになります(労安120条1項)。
新型コロナウイルス感染症拡大防止下での対応
この点、感染症拡大の防止のため、社内会議等を中止にしているようですが、衛生委員会等は、以上のように法律上の開催義務がありますので、原則として、安易に延期・中止することはできません。
もっとも、新型コロナウイルス感染症対策として、令和2年4月、厚生労働省は以下のような解釈を示しています(新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年4月28日時点版)。
「新型コロナウイルス感染症の拡大を防止する観点から、安全委員会等を開催するに際してはテレビ電話による会議方式にすることや、開催を延期することなど、令和2年6月末までの間、弾力的な運用を図ることとして差し支えありません。
なお、いずれの方式にしても衛生委員会等を開催するに際しては、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた対応等について調査審議いただくなどにより積極的に対応いただきますようお願いいたします。また、この取扱いは、新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえた令和2年6月末までに限られた対応となりますので、ご注意ください」(上掲Q&A |6・問3)。
このように、厚生労働省からの解釈が示されている場合は、この解釈に依拠することで対応すればよいと考えます。この点、これらの委員会の開催方法については、株主総会や取締役会のように、厳格ともいえる制限はなく、そもそも対面での会議に固執する必要はないため、テレビやWEBによる会議を無効と解する必要はないと考えます。また、期限付きながら感染症拡大防止の事情があれば毎月1回の委員会が開催されなくても許容しうるように解釈できます。ともあれ、原則的には、弾力的運用を前提としながら、安易に中止、延期することなく、積極的に開催したうえで実質的な感染症対応策を労使で意見を交えながら検討することが求められるでしょう。
ちなみに、労働者数が50人未満の事業者など、これらの委員会を設けるべき事業者以外の事業者は、安全または衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならないとだけ定められており(労安則23条の2)、何らかの会議体を開催する義務はありませんので、感染症拡大防止の措置を講じた形で対応することは十分可能であると解されます。