政策形成の職人芸  その12 政策の決定

キャリア

2022.11.29

★本記事のポイント★
①合理的な政策案が選択されたとしても、それが政策過程に乗る(アジェンダになる)とは限らず、複数の政策の間で政策過程に乗るための競争がある。 ②増分主義とは、政策決定にあたって従来までの施策を基本的に踏襲しつつそれに小さく緩やかな改良を加えるという立場で、政策決定に関して穏当なものと言える。 ③先例や横並びの過度の重視により、新規の政策が生まれにくい懸念がある。

 

1.政策間競争

 前回までに、政策デザインの手順、クリアすべき点、政策案の評価について、お話ししました。このような過程を経て、合理的な政策案が選択されると思います。しかし、それが政策過程に乗る(アジェンダになる)とは限りません。予算、人員等の政策資源が限られていることもあり、複数の政策の間で政策過程に乗るための競争をしなければなりません。その際、自治体では、首長や議会の意向が反映されたり、選挙の際に公約した問題、話題性のある問題、先行事例がある問題などが優先されることもあるでしょう。このような政策過程に関しては、公共政策学において「ofの知識」として研究されていますので、参照してください。以下では、政策の内容にも関連する増分主義などについて考察します。

 

2.増分主義

 増分主義(incrementalism、漸変主義とも訳される)とは、政策決定にあたって従来までの施策を基本的に踏襲しつつそれに小さく緩やかな改良を加えるという立場です

 様々なアクターの駆け引きにより政策が決定される現実からすれば、受け入れやすい立場でしょう。また、不確定な要素がある中での政策の決定ですので、現状を基本的に維持しつつ若干の変更を加えるというやり方は安全であると言えます。このように、政策の決定に増分主義が採られることは、政策過程のアプローチ(「ofの知識」)としてだけではなく、政策形成のアプローチ(「㏌の知識」)としても理解でき、政策決定に関して穏当なものだと考えます。

 

3.整合性

 ところで、実務においては、政策間の整合性を図ることが重視されていると思います。このような政策間の整合性を図るという観点からも、従来の政策間のバランスを基本的に維持しつつ若干の変更を加えるという増分主義は受け入れやすい立場でしょう。

 ところで、政策間の整合性を図る場合には、矛盾・衝突する政策同士を調整する場合と、政策同士の横並びを図る場合があると考えます。前者は、ある政策が右としているのに別の政策が左とするような場合の調整で、後者は、類似の政策では届出制であるのに対して許可制をとるといった類似の政策と比較して内容的に突出している政策に関するもので、比喩でいうと「出る杭」に関する調整です。

 政策同士の横並びを図るということは、政策間のバランスをとるという観点からは必要なことです。また、先例を重視する立場からは、重要な事項と考えられています。しかし、筆者は、先例がないからできないとか、横並びの整合性を過度に重視して「出る杭は打たれる」といったことばかりを行うと、新規の政策が生まれにくいという懸念を持っています。公共政策学の研究者も、増分主義が抜本的改革に対応できないとか、前例踏襲と横並びに頼りすぎると将来あるべき姿から逆算して現在何をすべきかを構想しづらい旨の指摘をしています

 これらの指摘は、筆者の懸念と通ずるものがあると考えます。横並びの整合性と第8回で述べた制約条件は、政策形成において「できない理由」とされることもあるでしょうが、政策形成を進めるためにはそれを解決することが重要で、知恵の出しどころだと思います。

 

4.政策思考と法的思考

 最後に、上記の懸念との関連で、政策思考と法的思考について、若干触れておきます。

 筆者は、比較を強調しすぎかもしれませんが、政策形成には政策を構想する創造的な思考方法が必要であるのに対して、法的検討には法律(条例)事項の検討、他の制度との整合性の検討など政策を型にはめるような批判的な思考方法が必要であると考えています。条例をはじめ法令の立案には、両方の思考方法が必要となりますが、うまく使い分けることも重要だと考えます。政策の可能性を模索している際に、問題点しか浮かばないこととか、法的検討をする際に、政策の必要性だけを強調することは、慎まなければならないと思います。筆者が、政策形成と法的検討を殊更に区別するのは、このような考慮からです。

 なお、「政策法務」という言葉をもじった「政削法務」や「政策法無」という言葉を聞いたことがあります。前者が厳しい法的検討により政策判断を無にするという態度、後者が政策だけ突出し法的検討をおざなりにする態度という意味のようです。簡潔ながら問題の本質を突く機智に富む表現だと思います。

 

5.これまでのポイント

 政策形成の知識のうち、これまでにお話ししました政策形成のプロセスに関するもののポイントをあげれば、次のようなものでしょう。

・ 社会的正義・公共性といった高次の目標から、現状を改善しようとする問題意識を持ち続けることにより、問題の発見を行うとともに、解決の方向性のイメージを持つ。 ・ 解決の方向性のイメージを持ちつつ、原因の分析により原因と結果、目的と手段の流れの構造を明らかにする。 ・ 原因の分析により思い浮かんだ政策案について、結果の予測、実現するための条件の見極め、価値の対立の調整などを行い、政策案の可能性、妥当性を検証する。 ・ デザインされた政策案について、必要性、有効性、効率性などの基準で評価をし、満足する政策案を選択する。 ・ 心構えとしては、政策案を構想したうえで、問題点などを検討するというように、仮説を立て検証する。

 このように、政策思考には、「問題の気づき」とか「解決策の思い付き」のような直観的な要素が多くありますが、政策形成の知識と経験により培われるものだと思います。

 次回からは、政策形成の知識のうち、政策の内容である目的と手段に関する知識についてお示ししていきます。目的と手段に関する知識があるからこそ、解決の方向性のイメージが生まれ、政策のデザインができると思いますので、政策形成のプロセスに関する知識とともに、政策思考の基礎となる知識です。もうしばらくお付き合いください。

 

1 増分主義については、公共政策学とは何か 142頁以下・195頁以下参照。2 公共政策学とは何か 196頁以下、佐藤徹編著『エビデンスに基づく自治体政策入門』(公職研、2021年)3頁参照。3 一例として、出石稔監修・杉山富昭著『自治体職員のための政策法務入門3』(第一法規、2008年)104頁。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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