月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2022年12月号 特集:脱炭素社会へのエネルギーシフトと自治体

地方自治

2022.11.28

●特集:脱炭素社会へのエネルギーシフトと自治体

今夏も国内では8月豪雨や台風などが甚大な被害をもたらしたが、世界各地でも経験したことのないような洪水や熱波、旱魃などが発生している。いまやこうした異常気象は毎年のように世界を襲い、地球規模での気候変動対策はまったなしの状況だ。その中核となる脱炭素化については近年、国・自治体を挙げた取り組みが進められ、「2050年までの二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明した自治体は、10月末現在で797自治体、人口ベースでは約1億1930万人に上っている。その一方で、対策の核となる再生可能エネルギーに関して、開発上の問題や資源価格の高騰などが影を落としている。こうしたなかで自治体は脱炭素化やエネルギーシフトにどう取り組んでいくのかを探っていきたい。

■脱炭素社会に向けた自治体の役割/藤野純一

藤野純一 (公財)地球環境戦略研究機関上席研究員
温暖化・気候変動対策は、もはや、やれるならやるものではなく、今の、そして未来の住民の生活を守るための必須科目になってきた。日本は過去の難題に対して具体的な解決策を見つけ出し、国の転換を図って繁栄を築いてきた。脱炭素に対して、現場からのソリューションを創り出し、世界に貢献したい。

■エネルギー価格の高騰とエネルギーシフトへの影響/北村和也

2022年は、世界のエネルギーにとって特筆される年になった。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、欧州を中心にエネルギー費がかつてないほど跳ね上がったのである。天然ガス不足は石炭需要の増加を招き、脱炭素の流れに掉さすかに見える。もちろん世界の経済はアジアにつながっていて日本の電気代などが高騰、いまだ終わりが見通せない。本稿では今年の欧州のエネルギーを巡る動きをまとめるとともに、日本への影響と今後の脱炭素に向けてのエネルギー転換の方向性を示す。

■エネルギー自治と市民電力/坪郷 實

市民発電所は、多様な形で取り組まれており、多くは、脱原発を目指し、再エネの拡充によるエネルギー転換を目指している。ゼロカーボンシティの取り組みも含めて、自治体におけるエネルギー転換、そのための再エネ拡充政策がますます重要になる中で、市民電力・市民発電所が地域で培ってきた再エネ拡充のノウハウは、貴重な地域資源である。自治体の再エネ拡充政策を進めるには、市民電力との連携が不可欠であろう。

■再生可能エネルギーと環境アセスメント/田中 充

風力発電や太陽光発電は、脱炭素社会の有力なエネルギー源として今後一層の拡大が期待されるエネルギーである。しかし、いずれも事業特性に基づく固有の課題が指摘され、地域の環境特性等を考慮した慎重な立地が求められている。今後は、環境に配慮した地域合意に根ざした再生可能エネルギーの拡大に向けて、環境アセスメント制度の適切な活用が期待される。

■地域の風土に適したエネルギーシステムをどう構築するか/磐田朋子

過度な安定供給への期待は、それ自体が経済活動を妨げる一因にもなり得る。そして何よりも、大前提が崩れつつある今、我々はエネルギーに対する既存の概念を取り払い、気候変動に合わせて柔軟に人間活動を変化させるための新たな技術とマインドセットを構築し、次世代にむけた新たな概念を構築する必要があるのではなかろうか。

■木質バイオマスの課題と可能性/久保山裕史

再生可能エネルギーの中で、木質バイオマスエネルギーだけ燃料供給を必要とする。この特徴は、燃料さえ確保できれば、天候と関係なく安定的な電気や熱の供給が可能であることや、燃料の集荷に伴って地域に多くの雇用が創出されるという長所につながる一方で、発電等の過程でCO2を排出することや、燃料の集荷にコストがかかり燃材の価格や供給量が変動するという短所にもつながっている。

■ソーラーパネル規制条例を巡る課題と展望/板垣勝彦

ソーラーパネルの設置は既存の屋根や空地を主に活用すべきであって、森林を切り拓き、自然災害を誘発するのは主客転倒の感がある。相次ぐソーラーパネル規制条例の制定は、実効性確保のための手段に限界がある中で、法務担当者が知恵を絞って編み出した成果である。

■避難計画策定を通じて原発再稼働に巻き込まれた広域自治体/日野行介

「核燃料がある限りはリスクがある」というコメントを額面通りに受け取って避難計画に協力することは、住民の幅広い意向を抑え込み、再稼働に対する自治体としての意思表示を放棄するに等しい。国策に物申すのが重大な決断であることは間違いない。だが避難計画策定に対する意思表示を通じて、広範囲な自治体が再稼働の可否に関与する可能性も見えて来よう。

 

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
〝カスハラ〟に負けない!――強くしなやかな職場づくり

顧客(住民)からの暴言や不当要求などの迷惑行為、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)への対策は、いま公務職場で大きな課題となっています。自治労の調査(2020年実施)によると、住民等から迷惑行為や悪質クレームを受けたことがある人は約5割にのぼり、「出勤が憂鬱になった」「仕事に集中できなくなった」「眠れなくなった」など公私にわたり深刻な影響が出ていることがうかがえます。カスハラの内容も、説教、長時間の居座り、罵声、土下座の強要、勤務先への投書、SNS上での誹謗中傷など多岐にわたり、「住民を選べない」自治体職員にとっては深刻な問題です。心身の健康と職務遂行に大きな影響を及ぼすカスハラ。そんなカスハラに負けない、強くしなやかな職場とは?
――今回は、カスハラに対し組織としてすべきこと、一人ひとりができることについて考えます。

■カスタマーハラスメント問題と自治体の組織づくり/山谷清秀

カスハラ対策の根幹は職員の保護にある。カスハラ行為者だけではなく、「助けてくれない周囲の職員・上司」や「カスハラ対応が不利になると思えるような評価規定」といった職場の「空気感」も対策の相手とすることが必要だ。カスハラは、被害者と加害者だけの問題ではなく、サービスの提供方法、職員の業務遂行上の余裕の有無、人事、職場の雰囲気を含む行政全体の複合的な問題だからである。広い視野での対策を図り、「カスハラ発生の隙がない」組織づくりを進めていただきたい。

■自治体におけるカスハラ対応のポイント──行き過ぎたホスピタリティからの脱却/援川 聡

かつての〝恐喝系ブラックモンスター〞の代わりに、一見普通の人がなかなか納得しない自己中心的な〝大衆系クレーマー〞が今日増えている。過剰なホスピタリティに慣れた市民は、時として自身の不満を燃料に怒りを大爆発させてしまう。もはや市民満足第一主義の対応だけでは立ち行かなくなっており、職員の心身を守るための組織的対策が何より重要となっている。相手の心情に寄り添うフレーズを活かした初期対応、具体的な情報共有、対応マニュアルの整備などの仕組みづくりが大切だ。

■カスハラから心を守る〝レジリエンス〟──「感情労働」で疲弊しないために/咲良美登理

顧客(住民)を選ぶことのできない自治体では、カスハラの問題は民間企業より深刻だ。カスハラは強いストレスとなり心身に悪影響を及ぼすため、組織的な対策はもちろん、一人ひとりが自分の心を自分で守る術を身につけることが大切になる。「自己イメージ」を日ごろから高めるなどして、困難からしなやかに立ち直る「レジリエンス」を身につけよう。結果として、行政サービスの範疇か、不当なクレームか、判断しやすくなり、自分が駄目だと自罰的になることなく、事態を改善していくことができる。

 

●連載

■管理職って面白い! 心理的安全性/定野 司 ■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
イクボスの心得 私生活に配慮しても仕事で遠慮はしない‼/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇 ■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/杉山菜穂子 ■自治体DXとガバナンス/稲継裕昭 ■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人 ■キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き/堤 直規 ■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫 ■宇宙的公務員 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介 ■次世代職員から見た自治の世界/椋田佳奈 ■ただいま開庁中!「オンライン市役所」まるわかりガイド/熊谷祐希・佐々木伶 ■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子 ■自治体法務と地域創生──政策法務型思考のススメ/釼持麻衣(関東学院大学地域創生実践研究所) ■にっぽんの田舎を元気に!「食」と「人」で支える地域づくり/寺本英仁

 

●巻頭グラビア

自治・地域のミライ
成澤廣修・東京都文京区長
大学やNPO、企業との新しい官民連携で地域課題を解決する

就任当初から子育て支援策などに力を注ぎ、2010年には自治体首長として初めて育休を取得した成澤廣修・東京都文京区長。「子育てフレンドリーな自治体」というイメージが定着し、ファミリー世帯の転入が増加、子どもの数も大きく増えた。地域の特徴でもある大学やNPO、企業などとも積極的に連携しながら、「文の京(みやこ)」のまちづくりを進めている。

成澤廣修・東京都文京区長(56)。先駆的な子育て支援施策を展開し、17年からはNPO等とのコレクティブインパクト方式で「こども宅食」を実施。その経験は「コロナ禍での対応でも活きた」という。

 

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝
中京を中華に築こう──源頼朝たち転生者(一)

 

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
人も牛も消えた村から「和牛五輪」に出る──福島県葛尾村、「和牛の村」復活への道(上)
原発事故、続く模索㉝

原発事故による全村避難で、一度は人も牛も消えた福島県葛尾村。帰村開始から6年が経つ今も、村民1314人のうち35%しか戻っていない。そうした苦境にありながらも今年10月、ゼロから始めた和牛農家が、5年に1度の「和牛の五輪」に県代表として出場した。全国最高峰を争う牛を生み出しただけでも驚きだが、新たな発想で羊の肥育にも取り組んでおり、「世界的な羊産地にしたい」と意気込んでいる。

□現場発!自治体の「政策開発」
PFI刑務所と連携し再犯防止と地方創生を推進
──美祢社会復帰促進センターを活用した地方創生推進事業(山口県美祢市)

人口減少に伴う各種課題が深刻化している山口県美祢市は、地元に開設された官民協働の刑務所「美祢社会復帰促進センター」を活用した地方創生推進事業を進めている。同センターを地域資源と捉え、地域の住民と企業、同センターの受刑者の共生によって新たな雇用や働く場を創出し、再犯防止と地域活性化を図るのがねらいだ。現在、地元特産品のPRにも資する同センターの職業訓練との連携に取り組んでいる。

 

●Governance Focus

□ダム計画中止後の霞堤の在り方とは──「8月大雨」で浸水、滋賀県長浜市の高時川流域/葉上太郎
列島各地が記録的な降雨に見舞われた8月。滋賀県長浜市の高時川流域も浸水被害を受けた。だが、この川には霞堤があった。開口部を設けて農地を浸水させ、遊水地の機能を持たせるなどする伝統的構造物だ。今回も治水に寄与したと地元では見ている。だが、浸水した農地への補償はない。そもそも上流部でダム計画が中止になった経緯があり、「ダムがあれば浸水しただろうか。中止したなら、早く代替の防災整備を進めて」という声が聞こえる。

 

●Governance Topics

□人材育成・研修担当の交流のすそ野を広げ、よりよい人・組織づくりへ──全国職員研修研究会&人事研究会2022
全国の研修担当職員のネットワークである「全国職員研修研究会」と早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(人マネ部会)は10月28日、オンラインで人材育成・研修担当向けのオンラインイベントを開催した。当日は約100人の自治体職員が参加し、よりよい人づくり・組織づくりに向けて学び、交流した。

□7団体のベストプラクティスが最優秀賞を受賞──第17回マニフェスト大賞
地方自治体の首長や議員、市民の優れた政策の立案や活動実績を表彰し、地方政治・行政の善政競争を促す「第17回マニフェスト大賞」(ローカル・マニフェスト推進連盟などによる同実行委員会主催)授賞式が11月11日、東京・六本木ヒルズで行われた。七つの賞で最優秀賞が発表された。また、授賞式に先立って11月9日・10日には優秀賞受賞者による事例研修会も行われた。

□〝コンヴィヴィアリティ〟の視点から都市と地方を考える──ちよだプラットフォームスクウェア18周年記念イベント
04年にコワーキング・シェアオフィス文化の先駆けとして東京都千代田区に誕生し、公民連携によるまちづくりや、地方と都市の連携などに取り組んできた「ちよだプラットフォームスクウェア」の18周年記念イベントが10月5日に開催された。トークセッションでは「コンヴィヴィアリティ」という視点から地方と都市について語り合った。

□全国で広がるフードパントリーのノウハウと課題を共有──「子育て応援フードパントリーを考える〜埼玉モデルの今までとこれから」
埼玉県内で子育て家庭への食料支援を行う団体のネットワークである、NPO法人「埼玉フードパントリーネットワーク」(SFPN)は10月8日、シンポジウム「子育て応援フードパントリーを考える〜埼玉モデルの今までとこれから」をさいたま市内で開催した(オンラインとのハイブリッド方式)。全国に先駆けて広がるフードパントリー活動のノウハウや課題を共有し、考えていこうというものだ。

 

●連載

□ザ・キーノート/清水真人 □自治・分権改革を追う/青山彰久 □新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之 □地域発!マルチスケール戦略の新展開/大杉 覚 □市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照 □“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘 □自治体の防災マネジメント/鍵屋 一 □市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹 □公務職場の人・間・模・様/金子雅臣 □生きづらさの中で/玉木達也 □議会局「軍師」論のススメ/清水克士 □対話する議会・議員/佐藤 淳 □「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭 □From the Cinema その映画から世界が見える/『戦場記者』 □リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『新地方論──都市と地方の間で考える』小松理虔]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
緻密で繊細な道具から伝わる釣りの醍醐味──和竿職人(石澤和竿毛鈎工房)・石澤 弘さん(盛岡市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ
吉備の国の中心として栄えた歴史を受け継ぎ、新たな魅力を創造/岡山県総社市
□山・海・暮・人/芥川 仁
村の技術を受け継ぐ──埼玉県秩父郡東秩父村安戸
□生業が育む情景~先人の知恵が息づく農業遺産
熊野古道を含む優れたヒノキ林が織りなす景観──急峻な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業(三重県尾鷲市、紀北町)
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ
/やっさだるマン(広島県三原市)
□クローズ・アップ
「豊臣秀次」がいてこそのまち──滋賀県近江八幡市、NPOが再評価に取り組む


■DATA・BANK2022 自治体の最新動向をコンパクトに紹介!



※「もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク」は休みます。

 

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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