自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[14]地域・自治体の防災マネジメントを改めて考える(上)

NEW地方自治

2020.06.10

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[14]地域・自治体の防災マネジメントを改めて考える(上)

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2017年5月号) 

自治体防災担当者の嘆き

 先日、自治体の防災担当職員が集う内閣府主催の防災スペシャリスト研修の講師をつとめた。その際、市町村の防災担当職員からは、防災対策となると防災担当の仕事として見られ、他部署職員の防災意識が低く、協力的でもないという話を多く聞いた。

 災害が発生すると、防災担当職員は災害対策本部事務局として情報収集・分析が中心業務であり、実際に現場で活動するのは他部署職員なのに、知識、関心がなく災害対応が心配だというのである。また、被災経験のある自治体職員からは、災害実務を経験してわかったことが数多くあり、そのノウハウも蓄積したのに、他自治体が学びに来ることが少なく、伝える機会もほとんどないという話も聞いた。

マネジメントの仕組みを評価する

 多くの自治体職員にとって大災害を経験することはまれである。そこで、被災地の応援に入ったり、研修を受けることで能力を高めようとしている。だが、何を根拠に、どの程度まで自治体の防災力が高まったと判断できるのだろうか。高まったとしても一部の職員のノウハウに依拠し、人事異動で元に戻ってしまうのではないかとも危惧される。

 企業の事業継続(BC)は、危機対応のマネジメントの仕組みがどこまでできているかで評価される。企業が実際に危機に陥ることはまれであり、しかも危機の状況により成果が異なるのは当然である。このため、危機対応力のような抽象的な判断基準では、多くの企業を同じ物差しで測定する評価指標とはならない。そこで、評価する指標を、企業のBCに関するマネジメントの仕組みの良否としている。良いマネジメントの仕組みをもつ企業は、危機対応が上手にできるはずだという理屈だ。

地域防災計画の課題とマネジメント

 東日本大震災を受けて、公益社団法人土木学会は2012年12月に地域防災計画の問題点や課題の整理・分析を行った。
 その概要は次のとおりである。

(1)減災目標の設定と達成に向けたマネジメント・サイクルが導入されていない(傍線は筆者による)

(2)社会インフラの予防計画に関しては、事業主体が作成した事業計画の転記にとどまっている

(3)復旧・復興に対する実質的な内容が乏しい

(4)対応計画は職場や組織が被災しない前提であり、業務継続計画の概念が欠けている

(5)広域災害への対応では、被災基礎自治体からの支援要請が基本となっており、国を含む広域地域連携の対処方策が不十分である

(6)減災や「公助」・「共助」・「自助」による地域連帯、関係者や地域住民との協働の内容が希薄である

 土木学会がマネジメントと言わず、わざわざマネジメント・サイクルと記述しているのは、単に地域防災計画を管理するマネジメントではなく、目標に向かってPDCAサイクルを回しながら、継続的に向上する仕組みが導入されていない、点を強調したいためであろう。

 私は前記の(1)(2)(3)に対応して「時間概念を含んだ地域防災マネジメント」、(4)(5)には「自治体職員の防災マネジメント」、(6)には「住民等が顔の見える関係で行う地区防災マネジメント」が重要だと考えている。

時間概念を含んだ地域防災マネジメント

 林(2003)は防災事業における防災・減災サイクルの重要性を次のように述べている。《防災事業では、事前対応である「被害抑止」、「被害軽減」から、災害発生後の「応急対応」、「復旧・復興」という事後対応を経て、さらなる事前対応に繋げていく過程が連続することによって、類似の災害が将来起きた場合に備えて防災体制が強化されていく好循環に繋げていくことが理想と考えられている。このような循環構造を「Disaster Management Cycle(DMC時計モデル)」と呼ぶ》(注1)。

 このサイクルの左側は平時であり、「被害が発生しないように(抑止)するための備え」と「被害の発生は避けられないが軽度に止めかつ拡大させないようにするための備え」からなる。右側は、災害時であり「被害を局限化するための応急対応」と「災害前の生活に戻す復旧とより良いものに変える復興」からなる。

 被害抑止のための活動は「復興」を成し遂げる過程とそれ以降のフェーズで実施されるが、これをリスクマネジメントという。このフェーズで以前と全く同じものを作るのか、あるいはレベルアップを図るかで、将来被災する場合の被害抑止のレベルが定まる。巨大災害を防ぐには、このリスクマネジメントを着実に進めることが不可欠である。しかし、ここには防災のパラドックスと言われる落とし穴がある。ハード対策が進めば進むほど、災害が少なくなるが、同時に人の防災意識も下がりやすい。その結果、たまに来る災害で大きな被害を受けてしまうことだ。

 一方で、被害軽減の備えと災害時の緊急・応急的な活動をクライシスマネジメントという。災害を想定して準備をしたうえで、災害時には情報を収集・分析し臨機に計画立案・対策実施して二次被害を予防し、応急的に住民生活を支えることである。しかし、いくら良いクライシスマネジメントを行っても、リスクマネジメントが弱ければ、結局は多くの人命、財産を失う負け戦になる。したがって、地域防災力を総合的に高めるマネジメントとはリスクマネジメントとクライシスマネジメントをバランスよく考え、総合的に効果が上がる目標をたて、住民、自治体、防災関係機関が連携して継続的に実施することであり、万一の災害時には被害を局限化するとともに、次の災害被害を許容できる範囲に留められる復興対策を行うことである。

 その中核となって、自ら研鑽を積むとともに、多くの関係者との調整に汗をかくのが自治体職員の防災マネジメントである。また、住民等が顔の見える範囲で自主的かつ具体的な計画(地区防災計画)を作成し、継続して実行、改善して防災力を高めるのが地区防災マネジメントとなる。

注1  林春男「第2章 防災:社会の防災力とDisaster Management Cycle」『防災と開発〜社
会の防災力の向上を目指して〜』国際協力事業団・国際協力総合研修所、2003.3。

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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特集:自治体議会改革の到達点と職員の立ち位置

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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