3ステップで学ぶ 自治体SDGs

ぎょうせい

「3ステップで学ぶ自治体SDGs」発刊記念 著者インタビュー 笹谷秀光氏に聞く! 自治体SDGsのポイント Vol.1

地方自治

2021.01.15

 自治体が企業等と連携してSDGsにどのように取り組んでいけばよいのかについて、「基礎」「実践」「事例」の3ステップでわかりやすく解説した全3巻の書籍『3ステップで学ぶ 自治体SDGs』((株)ぎょうせい刊)。自治体職員、自治体と連携して地方創生SDGsビジネスの展開を目指す民間企業の方々に手軽にお読みいただける実践書です 。

 発刊を記念して、著者の笹谷秀光・千葉商科大学基盤教育機構・教授へのインタビューを3回にわたって掲載します。第1回目は、自己紹介も含めてSDGsをテーマに研究や講演活動をするようになった経緯と笹谷流「発信型三方良し」とは何か、そして、なぜ今、SDGsが注目されているのかをお話しいただきました。

(書籍の詳細はコチラ

産官学すべての経験を活かして取り組むミッションは?

――SDGsをテーマに研究やコンサル活動をするようになった経緯は?

笹谷 私は、農林水産省に31年間勤務し、その過程で環境省や外務省にも出向して幅広く経済、社会、環境といった分野に取り組んできました。

 役所を退官後、2008年に総合飲料メーカーの(株)伊藤園に入社し、取締役などとして経営企画を担当しました。そこで、企業の社会的責任を強化しようということで、CSRという言葉と向き合うことになったのです。ちょうど2010年に国際標準化機構(ISO)が発行したCSRの国際標準「社会的責任の手引き」ができたので、これを採用しました。

 その直後の2011年1月に、アメリカの経営学者でハーバード大学のマイケル・ポーター教授がCSV(Creating Shared Value)を提唱。これは経済価値と社会価値を同時実現する、社会課題解決型ビジネスの指針です。伊藤園が同教授に因んだポーター賞を受賞したことを機に、その考えをより深く勉強し、実際に同社でCSRとCSVを応用しました。

 そうした取組みを進めるうち、2015年9月に国連加盟国193か国の合意によりSDGsが策定され、これも大変すばらしいものなので取り入れようということになりました。一方、ESG(環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3要素を示す言葉で、投資家が良い企業を選定する際に使う)の流れもずっとありましたが、SDGsができたことで両方がシンクロし始めたのです。両者を統合する作業をして、ESG/SDGsを経営の中に活かすというのが私のミッションになりました。

 ここまで見ても、CSR、ISO、CSV、ESG、SDGsと横文字が並んで大変ややこしいのがわかるでしょう。頭を整理しないと前へ進めないと思い、日本経営倫理学会、グローバルビジネス学会などとも関わり、研究に取り組むようになり、「博士(政策研究)」を取得し、現在は千葉商科大学で教壇に立っています。

「発信型三方良し」を提唱し 自ら実践する

――「発信型三方良し」を提唱しておられますが、これはどのようなものですか?

笹谷 産官学すべての経験を踏まえて、横文字だらけのわかりにくさを解消する方法はないかと考えた結果、日本に昔からある「三方良し」の考え方が活用できるのではないかと思いました。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」という近江商人の心得を表したものです。しかし、この三方良しには、陰徳善事(見返りを期待せず、人に知られないように善い事を行う)が同質社会である日本の根底にあります。これでは、せっかく良いことをしても伝わりません。伝わらないと仲間が増えず、イノベーションは起こらないのです。

 そこで、私が考案したのが積極的な発信を加えた「発信型三方良し」です。伊藤園でもSDGs活用による「発信型三方良し」を実践し、世界的にも注目されました。こうした経緯を経て、私自身が“歩く発信型三方良し”として、SDGsをテーマに大学で教壇に立つほか、企業や自治体等でコンサルテーションや講演・研修活動を行っています。

SDGsは“激動の時代の羅針盤”

――なぜ今、SDGsが注目されているのでしょうか。

笹谷 SDGsにおいて日本はスロースターターでした。当初、SDGsは「国連がつくった途上国などに向けたもので自分たちのビジネスとは関係ない遠いもの」という印象を受けたのだと思います。SDGs(Sustainable Development Goals)の訳語は、「持続可能な開発目標」。「Development」を「開発」と訳したことで、開発途上国向けのイメージを与えてしまったのです。もともとじっくり勉強してから動き始めるという日本人の性質もあって、スタートが遅れました。

 私は、SDGsを「持続可能な発展目標」と捉えています。みんながいろいろな形で発展していくためのTO DOリストととらえた方がよいでしょう。ようやく最近、その理解が浸透してきて、2019年末頃から実行段階に入った企業・団体が増えました。2020年になって取組みを推進する動きがさらに加速化しています。

 しかし、まだ事の本質がわかってない人が多いのが実情でしょう。一言でいえば、SDGsは「世界における激動の時代の羅針盤」です。2015年に国連で合意された文書のタイトルは、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」です。アジェンダはやるべきことリスト。つまり、変革のためのアジェンダなのです。激動の中で変革のためのヒントがほしいときに、経済・社会・環境を網羅的に洗い出した羅針盤として使えます。しかも、チャンスを探すこととリスクを回避することの両方で活用できるのが特徴です。

コロナのパンデミックで求められる
グレート・リセット&ニュー・ノーマル

――新型コロナウイルスのパンデミックとSDGsの関わりは?

笹谷 新型コロナウイルスのパンデミックにより世界的に社会構造が激変した中でSDGsを改めて読むと、いろいろなことが整理できます。自分や家族の健康など身近なことに世界発の新型コロナが影響を与え、しっかりと世界を見つめておかないと個人も組織も、企業も自治体も危ない時代です。特に自治体は市民に対する責任を果たせないでしょう。変革志向と未来志向でできたSDGsという羅針盤を使いこなす価値が急激に高まりました。

 ポスト・コロナ、ウィズ・コロナ時代を生き抜くための「グレート・リセット(大変革)」が必要だというのが2021年のダボス会議のテーマです。新たな生活様式、ビジネス様式を求める「ニュー・ノーマル」、「グリーン・リカバリー(環境に配慮した危機からの回復)」という言葉もよく聞かれるようになりました。これらの世界的な動きの中で、必ず参照されるのがSDGsと2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定です。この2つが我々の未来を導く光を導き続けると国連関係者が言う通り、これを知らないでいると、どんどん世界から置いていかれてしまうということを認識しましょう。

●執筆者Profile
笹谷 秀光(ささや・ひでみつ) 千葉商科大学基盤教育機構・教授
1976年東京大学法学部卒業。 77年農林省(現農林水産省)入省。 中山間地域活性化推進室長等を歴任、2005年環境省大臣官房審議官、06年農林水産省大臣官房審議官、07年関東森林管理局長を経て08年退官。同年(株)伊藤園入社。取締役、常務執行役員を経て19年4月退職。2020年4月より千葉商科大学基盤教育機構・教授。博士(政策研究)。現在、社会情報大学院大学客員教授、(株)日経BPコンサルティング・シニアコンサルタント、PwC Japanグループ顧問、グレートワークス(株)顧問。日本経営倫理学会理事、グローバルビジネス学会理事、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、宮崎県小林市「こばやしPR大使」、未来まちづくりフォーラム2019・2020・2021実行委員長。著書に、『Q&A SDGs経営』(日本経済新聞出版)ほか。企業や自治体等でSDGsに関するコンサルタント、アドバイザー、講演・研修講師として幅広く活躍中。

■著者公式サイト─発信型三方良し─
 https://csrsdg.com/

■「SDGs」レポート(Facebookページ)
 https://www.facebook.com/sasaya.machiten/

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2020年10月 発売

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