自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[5]熊本地震に学ぶ自治体間関連の課題

NEW地方自治

2020.04.08

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[5]
熊本地震に学ぶ自治体間関連の課題

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2016年8月号) 

被災自治体の受援力

 熊本地震の応急対策の現場では、国交省、水道、ガス、電気、通信などライフライン組織の連携がよく機能していた。早朝から夜間までのローテーション勤務体制を組み、切れ目ない復旧作業が続けられる。車の多くは、九州各地のナンバーを付けた協力会社のものであったが、多くの会社の業務調整などは、日頃の大型公共工事などでの調整作業の延長にあるのかもしれない。

 一方で、自治体間連携は一部の例外を除けば、当初はそれほどうまくいっていないように思えた。たとえば、全国市長会は早い段階で被災自治体に必要な応援人数の照会をしているが、どの業務に何人程度という数字がなかなか出てこない。応援要請の人数を考える時間がないほど、現場は目前の業務に追われていたのだ。私が伺った4月20日、熊本県益城町の課長級職員さえ避難所や物資の集積場で次から次へと来る物資の受け入れ、積み出しに陣頭指揮をとっていた。この多忙感は、被災地の渦中にいなければわからない。ただ忙しいだけでなく、地震でFAXが故障したり、電源が確保できなかったりする場合さえある。

 災害対策基本法は、被災自治体が災害前と同様に機能することを暗黙の前提にしているように思える。たとえば、自治体庁舎が使え、設備、機器がきちんと稼働し、職員もほぼすべてが災害対応業務に従事して、必要な応援職員、物資を要請できるというように。しかし、大災害時にそうはいかないことは、東日本大震災で経験済みだったはずである。

 2013年災害対策基本法改正で大規模災害になれば、国や都道府県が代行して処理をできるように規定されたが、運用基準、マニュアルが整備されておらず、結局は被災自治体が中心にならざるを得ない。また、応援職員がしっかりと被災自治体で仕事ができる仕組みも、ほとんど整備されていない。残念ながら、現在の自治体間相互応援協定等は、抽象的で現場での実効性に乏しいと言わざるを得ない。

職員不足の中でのトップ判断の困難さ

 大規模災害となれば、実に多くの関係機関、マスコミが熱意やミッションを持って押し寄せる。私もその一人であった。首長は、重要なポジションにある人が来れば、すぐれた提案も、どうでもいい話もすべて聞かなければならない。

 通常、自治体トップに話が持ち込まれたときは、トップの指示で、それらを精査して、すぐに実施すべきもの、中長期的に実施すべきもの、検討を要するもの、実施すべきでないもの、などを職員が組織的に検討する。

 しかし、益城町はあまりの大被害で避難所に住民が殺到し、また役場が使えなくなったために、多くの職員が現場に張り付いた。災害対策本部に従事する職員が非常に少ないため、外部からの提案を検討する余力がないように思えた。

 そうなると、トップが情報不足の中で重要な判断をせざるを得ない。ただでさえ、トップは孤独であるが、このような状況になると一層孤独な決断が求められる。たとえば、避難所からどのタイミングで職員を引き揚げるか、ごみは分別収集するか、仮設住宅の募集ではコミュニティ優先か要配慮者優先かなどの判断は、一歩間違えば難しい非難にさらされる。

膨大かつ不慣れな災害対応業務

 私が災害対策本部や避難所支援チームにいたとき、職員には膨大な数の電話がかかってくるのに驚いた。一つの電話があれば、記録し、関係者に連絡し、調整してつなぐという作業が発生する。これが、災害発生後、ずっと続くのだ。特に、幹部職員は役所の内外を問わず電話対応に忙殺される。おそらく普段の10倍以上の電話があるのではないだろうか。しかも、これまで全く付き合いのない組織、人からの電話も多い。

 また、大規模自治体であろうと、小規模自治体であろうと基本的に災害対応業務は変わりない。すなわち、小規模自治体ほど一人の職員が対応しなければならない業務の種類が多くなる。しかも、そのほとんどは職員がやったことのない仕事である。

 つまり、災害対応業務の質と量の両面から被災自治体職員は追い回されるのだ。

災害対応マネジメントと自治体間連携

  自治体間連携も、普段はやったことのない業務である。したがって、被災自治体がリーダーシップを発揮して、多くの応援職員を調整することには慣れておらず、難しい。一方で、応援職員も被災自治体を差し置いてリーダーシップを発揮することはできない。つまり、多くの応援職員部隊を動かす船頭がいなくなる。これが、冒頭に述べたライフライン組織と決定的に違うところだ。

 こういうときは、災害対応のマネジメント経験のある自治体幹部職員が、被災自治体首長や幹部職員を補佐するマネジメント体制を作ることが必要ではないだろうか。

  たとえば、熊本県西原村では、4月23日から東日本大震災時に宮城県東松島市総務部長として指揮をした小野弘行氏らのチームがサポートに入った。このときまで、役場の課長級職員は、避難所、物資、がれき置き場などで現場作業をしていたという。そこで、東松島市の経験を活かしたマニュアルに基づき、六つの課の職員を避難所、支援物資など10の班に再編した。

 そして、現場から徐々に災害対策本部に職員を戻していく。たとえば、避難所は被災者中心の自主運営に切り替え、村の職員を半分に減らした。ごみ処理では応援職員と住民に職務を担ってもらうようにした。また、罹災証明発行業務でも、経験ある職員を派遣して、正確な被害認定調査を行えるように支援している。

災害派遣行政支援チーム

 西原村と東松島市の事例は、自治体間連携において、いかにマネジメント支援が重要かを示している。小野氏とそのチームによるマネジメント力の高さと、これを信頼して受け入れた西原村の受援力とが上手にかみ合った成果と言えよう。

 これを、「災害派遣行政支援チーム」として制度化することを提案したい。現状では、災害対応マネジメントのノウハウは自治体というより人にある。自治体間連携がなかなか軌道に乗らないのは、ノウハウの少ない被災自治体が応援職員を指揮する構造になっているからだ。

 そこで、ノウハウのある職員を十分に働かせる仕組みを整えることが重要だ。

 たとえば被災地で対応経験ある市町村幹部職員の人財バンクを作る。具体的には、平時からその幹部職員(OBを含む)を、派遣元自治体の了解を得て、内閣府なり総務省なりの兼務辞令を出しておき、研修等で研鑽を積み、メンバーがチームとして活動できる顔の見える関係を作る。発災時には、直ちに政府の一員として被災市町村に派遣され、災害対策本部で首長、幹部職員を市町村の立場で支援する。このとき、派遣元の自治体がきちんとバックアップすることも重要だ。

 さらに、現場業務での支援には、現場で動ける一定の経験、素養を持った市町村職員を登録しておき、災害時には要請を待たずに被災自治体に業務別に数十人規模で派遣する。このような災害派遣行政支援チームを制度化することが、今求められている。

 

Profile
跡見学園女子大学教授 鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

 

 

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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