自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[59]withコロナ期における雪かき活動ガイドライン
地方自治
2022.01.19
※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2021年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
雪の被害
私の故郷は「なまはげ」で有名な秋田県男鹿市だ。小学3年から中学3年の卒業まで新聞配達をしていた。当時、大雪ほど嫌なものはなかった。普段は自転車に乗って1時間ほどで配達し終わるものが、大雪で自転車が使えなくなると重い新聞紙を持って徒歩で2時間以上かけて配達しなくてはならない。ニュースにもならない小さな日常の出来事ではあるが、今でもその新聞の重さ、長靴の冷たさ、あかぎれになった手の痛みを思い出す。そんな時だから、「大変だったね、ありがとう」と声をかけられたり、おまんじゅうをいただけたときは、晴れがましくうれしさも格別だったが。
今冬は記録的大雪が懸念される状況になっている。関越自動車道では2020年12月16日午後6時頃から19日朝まで立ち往生が発生し、最大約2100台の車両が巻き込まれた。降雪による車両の立ち往生事例は2016年1月に新潟県、2017年1月に鳥取県、2018年2月に福井県と、毎年のように発生している。
その中でも、最も大きな課題は死者が多いことである(表1)。
毎年のように2桁、時に100人台の死者が発生している。犠牲者は、除雪作業中の屋根からの落下や除雪機や除雪車との事故などで、特に高齢者が多い。
しかし、雪国で除雪は止めることはできない。今冬は新型コロナウイルス感染症があり、支援者不足が懸念される。そうなると、屋根に上って除雪作業をしなければならない高齢者等が増え、事故が増えるのではないかと懸念される。
雪かき活動ガイドライン
日本雪工学会除雪安全行動研究委員会は2020年12月に「with コロナ期における雪かき活動ガイドライン」を発表した。分かりやすくまとめられているので、その概要を紹介したい。
なお、私のコメントは《》で示す。
ガイドラインの基本姿勢
⑴ できることを考え、できることから!
「何かあったらどうするのか…」それを言い始めたら、結論は「中止」しかなくなってしまいます。コロナ期であろうがなかろうが、雪国には毎年雪が降ります。雪かきの支援を心待ちにしている人たちがたくさんいます。できない理由を探すより、できる手段をみんなで考え、取り掛かってみましょう。
《「何かあったらどうするのか…」は、実によく聞く言葉だ。完璧な安全は不可能に近いので、これを言う人は優越的な気分に浸れる。コロナ禍では、雪かきと同様にこれまでの取組みを続けるかどうか岐路に立つことが多くなる。その際、「何かあったらどうするのか…」を考え、完璧を期すあまり不作為を選択し、結果として大きな被害をもたらす可能性だってあることも忘れてはならない。
何かに取り組む場合と取り組まない場合との効果とリスクを検討し、効果の大きい方を選択し、同時にリスクを最小化する方法を考える姿勢が求められる。》
⑵「安全の確保」とともに「不安の解消」を!
雪かき活動は、雪かきをする人と雪かきをしてもらう人がいてはじめて成り立つ活動です。新型コロナウイルス感染症予防対策を徹底し、感染症リスクからの安全の確保に努めるとともに、お互いの不安感を解消し、納得感をもって活動を行いましょう。
《雪かきだけでなく、ボランティア活動全般に通じる心構えだ。感染症予防対策を自ら徹底するのはもちろんだが、受け手にきちんと伝え、不安感を解消し、納得感をもっていただくことが基本だ。》
⑶「感染の防止」に加え「世間への対応」を!
ボランティアと受援者の両者が納得していても、ボランティアのご家族や受援者のご近所さんの理解も必要です。周囲からどう思われるかということも気になってしまいます。誰のための、何のための活動なのかをしっかりと認識し、地域の理解を広げていくことも重要な視点です。
《この項目は、雪国の家族、コミュニティ関係の重要性を感じさせる奥深いところだ。人は人とのつながりの中で生き、生かさせて頂いているという感覚は大事にしたい。》
⑷ withコロナ期だからこそ、新たな可熊性に挑戦!
「新しい生活様式」が普及してきた中、テレワークやリモート会議、オンライン診療といったさまざまな工夫が生まれてきました。雪かき活動でも、これまでとはちょっと違った視点から新しい可能性を探してみませんか?
⑸「雪かきで地域は育つ」の流れを止めない!
雪国の課題に向き合い、その解決に向けて各地で地域を明るくするユニークな「雪かき活動」がはじまり、それぞれがゆるくつながりながら、年々進化をとげてきました(書籍「雪かきで地域が育つ」を参照)。ここに至るまでに10年以上の蓄積があります。コロナ禍を理由に途絶えさせることなく、このマインドは絶えず持ち続けていきたいと強く思います。
《雪かきが、単に雪の不便さを取り除く活動でなく、まちづくりの一部であると積極的に受け止めている。他の災害ボランティアと比較すると、交流が大きな特徴だ。毎年、同じ被災者(雪かきを頼む人)を同じボランティアが支援することでつながりが深くなる。やらなければならない雪かきをてこに、このような特徴を生かして、地域を明るくする。まさにピンチはチャンスである。》
イラストが多用され、わかりやすく、さらに次のようなお役立ちコラムがある。
*
「さらに冬の感染症予防対策もしっかりと」
冬は寒さや外気の乾燥、夏場よりも積極的に水分を採らないため体内の水分量が減少したりして、免疫力が低下しがちです。また、低温・低湿度の環境はウイルスにとって最適な環境であり、夏場よりも長く生存できるといわれていますので、こまめな消毒が欠かせません。
例年11月下旬〜12月頃から季節性インフルエンザも流行しますし、ノロウイルスなどを病原体とする胃腸炎なども流行してきますので注意が必要です。
*
雪国でない方には、雪国での生活への大変さへ思いを馳せるとともに、様々な気づきを与えてくれる雪かき活動ガイドラインだ。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。