自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[74]避難所外避難者の支援を考える② ──法制度の転換を
地方自治
2023.01.18
※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2022年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
避難所外避難者への配慮についての法制度
避難所外避難の場所は「在宅」「親族・知人」「車」「ホテル・旅館」「テント」等がある。このような避難所外の避難者について、法制度では以下のような取扱いになっている。
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⑴災害対策基本法
86条の7(避難所以外の場所に滞在する被災者についての配慮)
災害応急対策責任者は、やむを得ない理由により避難所に滞在することができない被災者に対しても、必要な生活関連物資の配布、保健医療サービスの提供、情報の提供その他これらの者の生活環境の整備に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
⑵災害救助法
災害救助事務取扱要領
第四 救助の程度、方法及び期間に関する事項
1 避難所の設置 ⑷留意点シ
定められた避難所以外の場所に避難生活した被災者についても、次の点に留意の上、その支援を図ること。(ア)連絡先の広報を通じ避難者等から連絡させるなどの方法を講ずるほか、(中略)避難所以外の場所に避難生活した被災者の状況を把握し、食料・飲料水、生活必需品等の供給に配慮すること。
(傍線は筆者による)
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災害対策基本法においては、やむを得ない理由により避難所に滞在できない被災者への支援は「努力義務」にとどまる。また、救助事務においては、所在の把握は避難者等からの連絡が主な手段と想定されている。避難所の設置運営が市区町村の法定義務であり優先されるのに対し、避難所外避難者は劣後する規定となっている。
しかし、現実には、認知症高齢者、障がい者などは明らかに避難所で生活するのが困難であり、最初から避難所への避難を諦めている者も多い。災害時に厳しい状況に置かれる要配慮者が、意図的でないにせよ、法律上は後回しになっている。
コロナ禍での避難のあり方
国は下記の通知により、コロナ禍においては避難所の密を避けるために、避難所の開設数を増やすことと、ホテルや旅館の活用、親戚や友人の家への避難などを推奨した。
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「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について」
(中略)
(可能な限り多くの避難所の開設)
発災した災害や被災者の状況等によっては、避難所の収容人数を考慮し、あらかじめ指定した指定避難所以外の避難所を開設するなど、通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図るとともに、ホテルや旅館等の活用等も検討すること。
(親戚や友人の家等への避難の検討)
災害時に避難生活が必要な方に対しては、避難所が過密状態になることを防ぐため、可能な場合は親戚や友人の家等への避難を検討していただくことを周知すること。
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このように避難所外避難を奨める一方で、前号で記したように、このような避難所外避難者への全体支援計画がある市区町村は、わずか1割未満である。
法体系と現実の乖離
高齢者、障がい者、乳幼児等の要配慮者については、平時は介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法に基づき、必要に応じた福祉支援がなされている。しかも、その支援の多くは民間事業者によって提供されている。
災害時には、これが一転、災害対策基本法、災害救助法の無差別支援になる。一見、公平に思えるが、災害時のように社会資源が乏しい中で無差別支援が行われると制度や資源にアクセスしやすい強者優先になる。たとえば避難所の場所取り、弁当の受取り、罹災証明の早期発行、仮設住宅への応募等々。この現状は、公正とは言えない。
理念的には、災害時こそ必要に応じた支援が必要なはずだ。たとえば、避難所外避難をしている要配慮者から見ると、災害時にはニーズが増えるが支援者も被災することで供給が細る。さらに災害時特有のニーズ、たとえば後片付け、停電・断水対応、移送、心のケアなども増大する。平常時ならケアマネジャーが行う調整も、災害時には実務をよく知らない市区町村職員が、自らも被災しながら調整活動を行う。災害時の要配慮者支援を検討するにはアウトリーチが必要だが、相談する場所も避難所か役所にしかなく、しかも申出制だ。
避難行動要支援者名簿、個別避難計画との連動
災害後に、要配慮者へのアウトリーチを行うためには、名簿が必要になる。現在、ほとんどの市区町村には避難行動要支援者名簿があるので、まずはこれを活用することから始めたい。名簿の基準は市区町村ごとに様々であるが、介護保険や障害者総合支援法の支援を受けている人については、平常時の福祉支援を行っている事業者に調査を依頼するのが早くて確実だろう。
名簿には載っているが、福祉支援を受けていない一人暮らし高齢者、軽度の介護、障がい者等については、日常の支援をしている地域包括支援センター、民生委員、自主防災会などに依頼する。その際、個別避難計画を策定し、近隣住民による支援が予定されていれば、見守りや支援活動がしやすくなる。
名簿に載っていない乳幼児や外国人を含む要配慮者については、上記の支援者の他、専門NPOなどに依頼することになろう。
調査をしやすくするために、アセスメントシートの準備や災害時特有の配慮項目、支援制度などの研修を進めたい。これを個別避難計画と連動することによって、平常時から災害時、避難生活時までをシームレスにつなぐ制度にできるのではないか。
災害時福祉支援活動の提言
一方で、被災地では市区町村はじめ福祉事業者も被災して人手不足になる。災害時はスピードが重要であるが、人手不足や制度の不備によって、支援が遅れがちである。
そこで、2019年9月30日、全国社会福祉協議会は、災害時福祉支援活動の早急な基盤強化が必要であるとして「災害時福祉支援活動に関する検討会」提言を行った。その概要は、次のとおりである。
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提言1 福祉的支援の拠点整備「災害福祉支援センター(仮称)」の設置
・ 災害時の福祉的支援の総合化を図るとともに、広域支援の拠点を各都道府県、全国に設置する。
・ 各センターに知識経験を有する「災害福祉支援専門員(仮称)」を配置し、被災地市町村での助言・指導を担う。
提言2 人材の養成
・ 発災後、迅速かつ適切な支援を展開するため、必要な知識経験を有する人材を平時から養成する。
※避難所や災害ボランティアセンターの運営、災害派遣福祉チーム(DWAT)活動等の担い手となる人材の養成
提言3 人的支援の仕組みの構築
・ 被災地の人的ニーズに対応するため、都道府県、全国を単位とする広域支援の仕組みを構築する。
(略)
提言4 平時および発災後の活動に関する財政基盤の確立
・(略)
提言5 災害時福祉支援活動の法定化
・(略)
災害法制度の転換を
福祉制度は1997年に介護保険法、2005年に障害者自立支援法(現在は障害者総合支援法)が成立し、要介護高齢者や障がい者の尊厳を守ることが明記されている。災害救助法は1947年、災害対策基本法は1961年にそれぞれ成立したが、これには尊厳を守る規定がない。
災害時こそ、尊厳を守るための支援が必要なはずだ。これを法制度で担保するために、最終的には災害法制に尊厳を組み込むこと、現在の社会福祉関係法に災害時の被災者支援規定を設けることが必要である。
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。