議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第74回 オンライン議会実現までにできることはないのか?

地方自治

2023.01.19

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年5月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 大津市議会では、令和4年2月通常会議において3人の議員が新型コロナウイルスに感染し、他にも3人の感染が疑われたため、同一日に6人の議員が本会議を欠席した。代表質問等の会期日程であったため、体調的には問題なかったものの2人の議員が発言通告を取り下げることになり、質問の機会を失った。

 ここに至るまでも、2020年4月に市役所本庁でクラスターが発生し、約2週間の庁舎閉鎖に追い込まれた経験から、大津市議会では本会議がリアル開催できない事態が現実に起こり得ると想定し、オンライン本会議の実現に尽力してきた。

 だが、必要となる自治法改正はいまだ実現せず、その間にも地方議会の現場では、議会活動に支障をきたす事態が現実に起きている。

■オンライン国会実現の動向

 衆議院憲法審査会は、本年3月3日に「憲法第56条第1項の『出席』の概念について」との報告書を議決した。概要は、「衆参両院の本会議を開く要件を『総議員の3分の1以上の出席』と定めた憲法第56条について、議員が議場にいる『物理的出席』を原則とする一方、緊急事態が発生した場合には例外的にオンライン出席が認められるとした。その根拠には『議院自律権』を援用することができる」(注1)としたものである。

(注1)読売新聞(2022年3月4日)。

■解釈論によるオンライン化リスク

 解釈改憲によるオンライン国会の実現可能性が出てきたことによって、既に「某議長会の幹部は『地方議会にも適用されることになるだろう』と予測する」と報じられている(注2)。国会準拠論の是非(注3)は別にしても、地方議会のオンライン化が実現するのであれば歓迎すべきと思われるかもしれないが、筆者は行政課長通知(注4)による行政解釈の変更で決着することを危惧している。

(注2)「地方行政」(2022年3月24日号)。
(注3)清水克士「地方議会は国会のアナロジーなのか?」(ガバナンス2022年1月号)。
(注4)総務省自治行政局行政課長名で通知される地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的助言を指す。

 それは、現行自治法に基づくオンライン本会議には文理解釈上、違法性が否定できず、司法判断で議決無効とされる可能性を排除できないと考えるからである(注5)。適法性の担保に絶対などないが、大津市では過去に「行政実例」に従った措置が、最高裁判決で違法とされた苦い経験があり、法解釈が分かれる状況で行政解釈のみを拠り所とする危険性を、実感させられている(注6)。

(注5)清水克士「オンライン本会議がギャンブルでいいのか?」(ガバナンス2020年10月号)。
(注6)清水克士「『行政実例』は水戸黄門の印籠なのか?」(ガバナンス2016年11月号)、最判(昭和59・5・31民集第38巻7号197頁)。

 大津市議会で罹患した議員は、本会議では欠席を余儀なくされたが、委員会ではハイブリッド型オンライン委員会によって、問題なく議員の職責を果たせた。完全なるオンライン議会の早期実現は、いかなる状況でも議員が権利を行使し、その義務を完遂するためには重要である。

 しかし、早期実現のためなら、手法にはこだわらないというわけにもいかない。オンライン議会の実現は、地方議会の現場に訴訟リスクを負わせる解釈論によってではなく、法改正によることが必要である。

 

■当面の対応策としての私案

 一方で当面の現場対応に関しては、自治体の団体意思決定行為である議案採決以外の議事日程であれば、訴えの利益は生じず、オンライン本会議を現行法の下で強行しても、可罰的違法性もないと思われる。

 また、一般質問は「本会議」で行わなければならない法的根拠はなく、自治法100条12項に基づく「一般質問協議会」を設置し、本会議と同様に公開して会議録を残せば、オンラインでも法的問題はないだろう。

 いずれにしても、法改正が実現するまでの当面の対応策を検討することも、必要ではないだろうか。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第75回 議会広報の目指すべきものは何か? は2023年2月9日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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