議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第70回 地方議会は国会のアナロジーなのか?

地方自治

2022.09.08

本記事は、月刊『ガバナンス』2022年1月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

 大津市議会は「第16回マニフェスト大賞」において、「ウィズコロナ時代を見据えたオンライン本会議実現へのミッションロードマップ」のテーマで、優秀成果賞を受賞した。これは、オンライン本会議の意義、実現に向けた活動、今後の課題などを、工程として集約したものである。

 授賞式の前日程では、優秀賞受賞者による受賞事例研修会も開催された。プレゼンでは、オンライン本会議を可能とする自治法改正ができない理由の一つとして示される、「国会で実現できていないことは地方議会でも認めがたい」という、法的根拠なき国会準拠の考えに疑問を呈した。

■国の地方への権限強化の動向

 中央では国の地方への権限強化に関する議論が始まっている。総務省が所管する「デジタル時代の地方自治のあり方に関する研究会」が2021年3月から開催されており、次期の地方制度調査会(注1)が立ち上がった際の議論の前提になると言われている。具体的には、保健所の国直轄化をはじめ、国の地方に対する権限強化を図り、地方分権のあり方を再検討する場になると報道されている(注2)。

注1 首相の諮問機関。近年は法案作成プロセスに組み込まれている。

注2 日本経済新聞2021年7月8日付け。

 研究会での意見の一つに、特別定額給付金支給事務などは、本来、法定受託事務とすべきものであるが、自治事務として執行されたことを問題視する指摘がある。

 地方分権一括法施行に伴って機関委任事務が廃止され、国の政策事務で自治体に事務処理を義務付けられるものは法定受託事務に整理されたはずだからだ。本来、国が関与できない自治事務の枠組みで、事実上、全自治体を統制したことは、立法趣旨から逸脱していると言われても仕方ないだろう。

 一方、非常時にはトップダウン体制が有利に働く一面があることも事実で、非常時対応に限って国と地方の権限のあり方を再検討すること自体は、一概に否定されるものではない。だが、分権改革以降も法的整理が不十分なままの事務もあり、なし崩し的に分権改革以前の状態に逆戻りすることがないよう注視していく必要があるだろう。

■デジタル化を阻むアナロジー

 地方議会制度は、分権改革の洗礼を受けていないこともあり、行政と比しても中央の見解への依存度や前例踏襲度が高い感は否めない。

 議事運営上の議論一つをとってみても、国会での類似例だけを根拠に結論に導こうとする例が散見されるほか、地方議会の事務局が単純に議院法制局との比較で論じられるなど、あたかも国会が地方議会の「標準」のように扱われてきた。

 オンライン本会議実現の議論においても、2021年3月12日の衆議院内閣委員会では、「地方自治体がそれぞれの事情に応じた判断の中でオンライン本会議の開催是非を決定できるように環境整備すべき」との中谷一馬委員の質問に対して、熊田裕通総務副大臣が「国会における出席という考え方にも留意しながら考えていく課題だと認識をしております」と答弁を締めくくっている。

 だが、国会は議院内閣制における立法機関、地方議会は二元的代表制における議事機関と、法的に異なる位置づけのもとで相互に無関係であり、法的根拠なきアナロジー(注3)的思考は必ずしも適切ではない。また、地方分権改革の趣旨からも、国会を「標準」とするアナロジーが、「できない理由」にはならないだろう。

注3 類推、類比。

 

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

第71回 議会に機関としての本質的進歩はあったのか? は2022年10月13日(木)公開予定です。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士 しみず・かつし
 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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