月刊「ガバナンス」特集記事
月刊「ガバナンス」2020年5月号 特集 地方分権一括法施行20年──その成果と展望(議員・議会編)
地方自治
2020.05.01
目次
●特集 地方分権一括法施行20年──その成果と展望(議員・議会編)
2000年4月の地方分権一括法の施行からこの4月で20年。機関委任事務を全廃し、国と地方を上下主従から対等協力の関係に位置付けた同法によって自治体議会の改革はどこまで進展したのか。議会基本条例の制定数が800を超える一方、政務活動費の不正受給や議員のなり手不足など課題も多い。施行20年を機に、その成果と課題を検証し、今後の自治体議員・議会のあり方を展望したい。
■自治法改正と議会力/廣瀬克哉
第一次分権改革から20年。その間に自治体の議会に関する地方自治法などの規定は頻繁に、そして概ね一貫した方向性をもって改正されてきた。一貫した方向性というのは、①議会の権限範囲の拡張、②広い意味での議会の組織や運営に関する自由度の拡大、③議会と首長(執行機関)との関係における議会の権能の確立と整理できる。そこで問われるのが、そのようにして導入されてきた制度を、議会がどこまで有効に活用できているかである。
廣瀬克哉氏(法政大学法学部政治学科教授)
■住民自治を推進する議会基本条例の意義と課題/江藤俊昭
議会基本条例制定自治体は、2006年北海道栗山町にはじまり急激に広がった。歴史的に見れば短期間で878自治体が制定した。自主的な条例がここまで急速に進展したのは、日本の地方自治史上初めての事件だ。「進展」と記したのは、単なる伝播でも浸透でもなく、それぞれの自治体での「想い」に基づく創造があったからである。議会基本条例はこうした背景の下で「開発」された。地方分権一括法施行前後の熱き想い、運動、そして知見があったからこそ、従来とは異なる議会像を議会基本条例に刻む込むことができた。
■災害対応とこれからの議会改革/新川達郎
災害対策は実際に災害時にそれが機能するかどうかが肝心なので、マニュアルやBCPの策定があればよいということではない。今回の新型コロナウイルス感染症対策を機に、議会の災害対策や危機管理の在り方について検討し、なお議会の本来の審議機能を果たし続けることが求められている。
■議会提案条例の到達点と展望/吉田利宏
分権改革後20年、たしかに全体的に議会改革は進んだ、しかし、政策立案機能強化の成果のひとつともいえる議員提案条例(委員会提出条例を含む)まで視野におく議会はいまだ少ない。議会が条例を提出できる能力があることは非常に重要である。それは、現実の問題を法的に分析し、整理し、その解決策を描き出す力がある証拠でもあるからだ。
■議員の「なり手不足」と町村議会の活性化/牛山久仁彦
町村議会の置かれている現状には厳しいものがあり、このまま無投票当選や定数割れが増加し続けば、議会そのもののあり方を揺るがしかねないこととなる。地方分権の理念を堅持し、2000年から築いてきた制度を維持することを前提とするならば、住民代表機関としての町村議会の機能と役割を強化していかなければなるまい。そのためにはこれまで進められてきた町村議会の活性化を進め、それが住民本位の自治体行政運営につながるものにならなければならないだろう。
■議会と議員が習得すべき「力」/土山希美枝
自治体議会が自治体という社会のなかで果たすことが期待されている役割と、その役割を果たすために議員に共有されるべき「力」と、それをどうやって修得することができるのか。それは〈政策・制度〉を「よりよく」していく力である。議員と議会の成果物は結局〈政策・制度〉だ。議会の「政策活動の成果」をあげるために、議員の政策力と政治力をいかすしくみと運営を模索することが、議会の力ではないだろうか。
■地方議会における女性議員の増やし方/三浦まり
地方議会において、どのように女性議員を増やすかは喫緊の課題である。日本の都道府県議会において女性を増やすためには、政党と議会が変わっていくことが不可欠である。有権者が政治家に求めるのは地域利益の代表だけではないはずだ。女性議員を増やす努力は、これまでの政治のあり方そのものを問い直す作業と密接不可分なのである。
■議会事務局の現状と今後の課題/駒林良則
議会改革を推進するためには議会事務局のサポートが必要不可欠であり、サポートができるための事務局体制の整備が課題とされてきた。今後の進展には、役所のなかでの議会事務局のステータスの向上、そして、議会事務局と議員との相互理解が必要である。とりわけ、議員が自らの事務局の状況を理解し、職員の潜在能力を引き出すことを考えるべきである。
■「フォーラム」としての自治体議会/金井利之
議会は首長を議会というフォーラムのなかに取り込み、議会における議員との質疑応答を抜きにして、首長が自身の意思を固めることができないようにすることが肝要である。あくまで、住民代表は、議員・首長という複数(多数)の公選職の集うフォーラムとしての議会のなかにのみ存在する。首長集権を抑制し、首長と国政の与(癒)合を牽制し、議会のなかに首長を取り込むことが、未完の議会分権である。
●サブ特集 地域を守るリスクコミュニケーション
自治体では近年、毎年のように自然災害に見舞われているが、今年はさらに新型コロナウイルスという未知の感染症への対策を迫られている。こうした危機の中で重要になるのが、リスクコミュニケーションだ。自治体はリスクとどう向き合い、その情報を住民に伝えていくのか、地域や住民からの情報をどう受け止めて対応していくのか。今月はサブ特集として、自治体のリスクコミュニケーションについて、新型コロナ対策の事例を交えながら考えたい。
■自治体リスクコミュニケーションの原則と課題
──新型コロナウイルスを事例に/福田 充
新型コロナウイルスという新感染症パンデミックと人類が格闘している現在、日本では4月7日に歴史上初めての緊急事態宣言が7都府県に対して発出された。日本中の自治体が、この新型コロナウイルスという未知の感染症と戦っている。
■地域の「防衛」懸け、自治体の総合力発揮を
──首長が前面に出た「コロナ」初動対応/人羅 格
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策は政府による緊急事態宣言が発出され、医療崩壊を阻止できるかの急場にさしかかっている。政府対策は大都市圏や広域連携重視にシフトしている。それでも地域住民の安全、生活維持のため自治体行政が果たすべき役割は依然として大きい。
〈取材リポート〉
■「新型コロナウイルス感染症対策サイト」をオープンな手法で開発/東京都
新型コロナウイルスの感染者が国内でもじわじわと増え出していた3月初旬。東京都が民間技術者の協力を得て「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を立ち上げた。サイトの構築に際しては有志のエンジニアなどが自由に参加できる手法を採用。開発の迅速さや一覧性に優れたデザインなどが注目を集め、同様のサイトは全国各地、さらには海外にまで波及している。住民の不安を取り除くクライシスコミュニケーションの役割も果たすこのサイトの開発の舞台裏や意図を取材した。
■独自の検査基準や徹底的な調査と情報提供で集団感染の拡大を防止/和歌山県
2月13日に県内最初の新型コロナウイルス感染者が確認された和歌山県。該当者が総合病院の外科医であったため、院内での集団感染拡大が危惧された。医師の家族や入院患者、濃厚接触者など11人が感染したものの、その後の拡散は抑えられ、3月4日には病院が外来診療を再開できた。独自の基準によるPCR検査の実施や感染者周辺の徹底的な調査、積極的な情報公開が新型コロナの“封じ込め”につながったと見られ、「和歌山モデル」として注目されている。
●キャリサポ連載
■管理職って面白い! オーバーシュート/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
「居場所」の意味とは?──学生から教わった定住人口増加の鍵/後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/井上美乃里
■AI時代の自治体人事戦略/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■独立機動遊軍 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■We are ASAGOiNG ! 地域公務員ライフ/馬袋真紀
■ファシリテーションdeコミュニケーション/加留部貴行
■“三方よし”の職場づくり/関口昌幸
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会
■もっと自治力を!広がる自主研修・ネットワーク/プロジェクトK2
●巻頭グラビア
大森 彌氏(東京大学名誉教授)
□シリーズ・自治の貌(特別編)(特集との連動企画)
大森 彌・東京大学名誉教授
「チーム議会」として会派の枠を越えて議論をし、議会の意思を示すべき
地方分権一括法の施行から20年。地方(自治体)議会ではこの間、800を超える議会基本条例が制定されるなど改革が一定程度進んできた。一方で、政務活動費の不正受給や議員のなり手不足など課題も多い。「議会の活性化」は1997年の地方分権推進委員会第2次勧告が一つのきっかけとなった。当時、同委員会専門委員(くらしづくり部会長)を務めていた大森彌・東京大学名誉教授に、これまでの議会改革の評価と展望などを聞いた。
●連載
□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 細川幽斎(二) 光秀・信長との出会い
●取材リポート
□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
全国最高賞4度は「チーム福島で得た」【「福島醤油」日本一の情景(2)】
原発事故、続く模索
津波と原発事故で大ダメージを受けた福島県相馬市。東日本大震災の翌年に小さな醤油蔵で代替わりがあった。山形屋商店である。新店主は出荷量の激減に苦しみながらも、伝統的な製法に工夫を加え、めきめきと頭角を現してゆく。そして全国醤油品評会で4度も最高賞の農林水産大臣賞に輝いた。震災の年に始まった県内醤油蔵の勉強会に参加し、仲間に支えられたからこその快挙だった。
□現場発!自治体の「政策開発」
官民連携で健康産業を育て市民と経済の元気を創出
──松本ヘルス・ラボ(長野県松本市)
「健康寿命延伸都市」を掲げる長野県松本市は、市民の健康づくりとヘルスケア産業の創出に向けて「松本ヘルス・ラボ」に取り組んでいる。健康・医療・福祉関連企業が、健康意識の高い市民の参加と大学・医療機関等の知見を得て、健康づくり・疾病予防等に寄与する製品やサービスを創出する試みだ。健康分野での官民連携のオープンイノベーションによって、市民の健康寿命延伸と地域経済の活性化をめざしている。
□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
日頃の議会活動があぶりだされる!
──コロナウイルス対策と自治体議会/江藤俊昭・山梨学院大学教授に聞く
国内で新型コロナウイルスの感染が広がった3月。自治体では新年度予算案を審議する定例会を開催しているところが多かった。コロナウイルス対策として議会では会期日程の短縮や一般質問の取り下げ・中止も相次いだ。コロナウイルス対策に自治体議会はどのように臨むべきか。「緊急提言」に加えて、江藤俊昭・山梨学院大学教授に対策のポイントなどを聞いた。
●Governance Focus
□条例の域外適用──ヘイトスピーチ抑止条例を契機に(下) 域外適用の理論と課題
/松下啓一
●連載
□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□自治体のダウンスケーリング戦略/大杉 覚
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□Bizモデルの地域づくり/小出宗昭
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『SDGs×自治体 実践ガイドブック』高木 超]
●カラーグラビア
□技・匠/大西暢夫
ランプの神様は見ているよ──ハリケーンランプ職人・別所由加さん(大阪府八尾市)□わがまちの魅どころ・魅せどころ/京都府和束町
ずっと暮らしたい 活力と交流の茶源郷
□山・海・暮・人/芥川 仁
親子を繋ぐ福島の海──福島県相馬市尾浜
□土木写真部が行く~暮らしを支える土木構造物
角島灯台~響灘を照らす海路の守護神
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/ちーたん(兵庫県丹波市)
□クローズ・アップ
消える街の灯、新型コロナの影響甚大──東京・新宿の繁華街
●[特別企画]
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