議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第6回 条例改正議案の「改め文」は「暗号」なのか?
地方自治
2020.05.07
議会局「軍師」論のススメ
第6回 条例改正議案の「改め文」は「暗号」なのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2016年9月号)
*議会の中央に座るのは、大津市のキャラクター「おおつ光ルくん (おおつひかるくん )」。
市民視点に欠ける「改め文方式」
前号までは「先例」「申し合わせ」などの「見える化」を図り、議会運営ルールを市民に分かりやすく伝える必要性について述べた。だが反面、見えても理解できないものでは、市民に伝える意味がないのも事実である。
例えば、議会に提出される条例の改正議案については、「第〇条中『△△』を『□□』に改める。」という「改め文方式」が主流である。しかし、行政職員であっても、法制執務に精通した職員でなければ、参考資料の新旧対照表抜きで改正内容を正確に理解することは極めて困難である。ましてや、一般市民がそのような議案を見て、内容を理解できるとは到底思えない。そうであるならば、新旧対照表をそのまま議案にする「新旧対照表方式」を導入すれば、市民にとってより分かりやすいものになるのは明らかである。しかし、例規改正方式を定めた法はないのに、多くの自治体では慣例で盲目的に国の例に倣い、「改め文方式」が定着している。
国が「改め文方式」をとっている理由については、2002年の衆議院総務委員会において明らかにされており、内閣法制局は「改め文といわれる逐語的改正方式は、改正点が明確であり、かつ、簡素に表現できるというメリットがあることから、我が国における法改正の手法として定着している。一方、新旧対照表を改正法案の本体とすることについては、一般的に改め文よりも相当に大部となり、正確性を期すための事務にこれまで以上に多大の時間と労力を要する。また、新旧対照表ではその改正の内容が十分に表現できないことから、実際上困難」という趣旨の答弁をしている。だが、その答弁は、内部視点からの論理であり、そこに市民に対する分かりやすさという視点での考察はない。
議会において審議する内容が、参考資料を見なければ意味が分からないという状態で「見える化」が図られていると言えるのだろうか。できない理由を並べることは簡単であるが、議会運営のルールと同じく、市民に分かりやすく伝えることを最優先に改善案を考えるできなのではないだろうか。
しかし大津市でも、「新旧対照表方式」によるのは議会提案の条例改正議案だけで、市長提案のものについては執行部の方針により「改め文方式」である。
議会と首長の「善政競争」
このことをある研修会で話したところ、「新旧対照表方式」の是非よりも、それを議会だけが採用していることに驚かれたことがある。そこには、執行部に先んじて議会が新たなことをするものではない、という潜在意識があるように思える。だが、大津市ではBCP(業務継続計画)策定やタブレット端末導入などについても議会が先行しているが、それで市民の不利益になったことはない。
むしろ、市民にとっては自治体全体のレベル向上が図られるのであれば、議会と首長で事務処理方式が異なろうが、どちらが先行した結果実現できた施策なのかなどはどうでもよいことである。要は自治体全体が高まる契機となったのであれば、そのようなこだわりは内部視点のものに過ぎない。
その意味では、市民福祉の向上に資するため、北川正恭早稲田大学名誉教授が提唱される議会と首長の「善政競争」を、大津市ではわずかながらでも具現化していると言ったら我田引水であろうか。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
清水 克士(大津市議会局長)
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)