議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第7回 例規は誰のためのものなのか?

NEW地方自治

2020.05.14

議会局「軍師」論のススメ
第7回 例規は誰のためのものなのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2016年10月号

「改め文」を書くスキル

 前号では、議会に提出される条例改正議案には、「議会の見える化」の観点から市民に分かりやすい「新旧対照表方式」を導入すべきとの考えを述べた。それは、議案という重要な情報であるにもかかわらず、市民に理解不能な形で情報提供したところで、「市民に開かれた議会」などと言えないからである。

 だが、大津市議会で「新旧対照表方式」を導入した直接のきっかけには、担当者に「改め文」を書くスキルがないことが、例規改正を消極的にさせる理由のひとつだったこともある。

 当面は、私自身に法制執務の経験があったので、所管を超えて例規改正事務を引き受けた。しかし、「改め文方式」を前提として考える限り、スキルを持った職員を常に確保する、未経験者に研修などに派遣してスキルを取得させる、民間の法制支援システムを導入するなどの対応策が必要となる。ところが、大津市議会局の規模に鑑みると、法務経験者を常時確保できる保障はなく、その他の対応策も費用対効果を考えると疑問である。また、作業としても新旧対照表の作成から始めるなら、それを議案化した方が事務効率的にも理があるのは明らかである。

根治療法的対応を目指す

 そもそも例規改正方法については何ら法定されておらず、慣例で「改め文方式」がとられているに過ぎない。ほとんどの人が、それに依らなければならないと思い込んでいるだけである。現状のルールを維持することに合理性がないならば、発想を転換し、ルールの方を変えれば良いのである。

 一般的に人は課題に直面すると、既存ルールの範囲内で対応策を考えがちである。もちろん決められたルールを守ることは大事である。だが、既存ルールの範囲内での対応策は対症療法的とならざるを得ず、根本的解決に至らないケースも多い。したがって、ルールを変えることによって課題解決できる場合は、躊躇することなく既存ルールの変更を対応策の最優先選択肢とし、根治療法的対応を目指すべきだと考える。

 そして、そのルールが例規である場合には、法律論や内部視点からの議論に流れやすく、市民視点が抜け落ちがちになると感じる。もちろん法律論も重要ではあるが、極論すればそれは学者の仕事であって、現場で課題に直面する自治体職員の仕事ではない。自治体職員として最も必要とされる法務の要諦は、市民視点で直面する課題の解決につながる法解釈をし、例規を立案することではないだろうか。

 当然、そのような視点での法解釈、例規立案は、通説や立法者意思、有識者意見、行政実例などに反することも多くなるだろう。それは、現場から遠い中央での見解であるため、ある意味必然だと思うが、長く中央の見解を権威化し拠り所としてきた地方においても、それに反する見解の主張はタブー視されてきた。

 しかし一方で、それらの見解は十分参考にすべきものではあるが、盲目的に従ったところで、合法性を担保してもらえるわけではない。最終的には自己責任であるなら、市民利益を最大化する法務を自らの頭で一から考えて行うことによってこそ、真の地方分権が実現するのではないか。

 そして、特に議会例規に関しては、「議会の自律権」の名の下でさらに内部視点に偏っており、市民感覚とのズレを感じる。次号では具体例に即して述べたい。

文中、意見にわたる部分は私見である。

Profile
清水 克士(大津市議会局長)
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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