議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第5回 「申し合わせ」は「公然の秘密」なのか?

地方自治

2020.04.30

議会局「軍師」論のススメ
第5回 「申し合わせ」は「公然の秘密」なのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2016年8月号

*議会の中央に座るのは、大津市のキャラクター「おおつ光ルくん (おおつひかるくん )」。

「申し合わせ」の不透明性

 前月号では、「先例」の超法規的運用について述べたが、議会内での合意事項を明文化した「申し合わせ」についても、同様の側面がある。市民にもその存在を知り得る代表的な例としては、正副議長改選の翌日の朝刊に載る「任期は申し合わせで〇年」という記事であろう。

 それは、あくまで正副議長が自主的に特定の時期に辞職する結果であり、地方自治法第103条2項の「議長及び副議長の任期は、議員の任期による」との規定に照らしても、形式的には合法である。だが、執行部において、立法趣旨を否定するような内部規定を作り、運用しようものなら批判は必至である。

 さらに「申し合わせ」に疑問を感じるのは、市民がその内容を知るのは難しい不透明な存在であることだ。執行部では、「要綱行政」が批判され、現在では例規化が進んでいる。それは、法的効力を持たず、内部限りで決められる不透明なルールに拠って意思決定することが問題視されたからである。

 そもそも、自治体内部の執行部職員でさえ「申し合わせ」の詳細をどれだけ知っているだろうか。まして、外部の市民にとってはその存在さえ知らされず、内容は情報公開請求しない限り、知る由もないというのが多くの実態ではないだろうか。

 その根底の考え方には、議会例規の体系自体が、議会内部の組織、運営に関する事項については他者からの干渉を排除して決められるという「議会の自律権」の考えに沿ったものになっていることがある。会議規則についても、規則という法形式を採用することに拠って、首長の例規制定改廃権や市民からの直接請求権の枠外へ置いているが、それは議会内部の論理であり、市民視点で捉えた時に本当に理解が得られるものなのであろうか。権力の相互牽制や市民からの直接請求によって、民主主義を担保しようとする根本原理からは疑問を感じざるを得ない。

会議規則条例化の意義

 そのような観点から、大津市議会では2014年に会議規則を廃止し、会議条例と会議規程に再編することを主体とした例規体系の見直しをした。

 再編のポイントは、①憲法で保障されている重要な権利である「請願」に関する要件事項や、市民に拘束力を及ぼす規定は、議会でのみ改正できる規則ではなく、市民の直接請求によっても改正可能な条例で定めたこと、②市民に分かりにくい「会議規則」と「委員会条例」の形式的上下関係を、一般的な法体系(法│条例│規則)に改めたこと、③手続に関する条項などは、機動的改正が可能な議長告示形式の「会議規程」に規定するとともに、「要綱」を全廃し、「先例」、「申し合わせ」などの不透明な規定も「会議規程」に取り込むことによって、議会運営ルールのほとんどをホームページ上でも閲覧可能とする「見える化」を図ったこと、などである。

 この例規再編に際しては多くのご意見をいただいたが、気になったのは研究者的視点での学術的議論に流れがちとなることである。

 だが、少なくとも私は、市民視点でその利益を最優先する法解釈を心がけるべきだと考えている。そして議論の大前提としては、まずはルール自体を市民にわかりやすく伝えることを最優先すべきだと思う。それは、内部運営ルールを「公然の秘密」とするような組織が、市民からの信頼を得ることは難しいと考えるからである。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
清水 克士(大津市議会局長)
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)

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清水 克士

大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員

しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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