自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[101]防災基本計画改定で福祉支援の充実・強化

NEW地方自治

2025.03.12

※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年8月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

政府の自主点検レポートにおける福祉支援

 政府の「令和6年能登半島地震に係る検証チーム」は6月7日、「令和6年能登半島地震に係る災害応急対応の自主点検レポート」を公表した。そこでは、強いトーンで福祉支援の強化に触れられていた。

 「初動対応を行うチームの確保や、在宅避難者を含む被災者支援のあり方など、福祉的支援の強化に向け検討する。また、災害関係制度における「福祉」の位置付けについて検討する。

 〈内閣府・厚生労働省〉増大する災害時の医療・福祉ニーズに対応するため、専門家の派遣による医療・福祉的対応の充実、被災者のニーズに応じた伴走型支援の実施(災害ケースマネジメント)等の施策について検討し、必要な制度改正を行う」

 前号で「311変える会」の緊急院内集会を紹介したが、この粘り強い活動が災害時の福祉支援制度改正の扉を開きつつある。

防災基本計画の改定と福祉支援の項目

 政府の中央防災会議(会長・岸田文雄首相)は6月28日、国や自治体の災害対応の柱となる防災基本計画を改定した。この日の会議で岸田総理は「今回の防災基本計画の修正では、能登半島地震の経験を踏まえ、孤立集落の発生等を見据えた物資輸送手段としてのドローンの確保や、海路・空路を想定した救助用装備資機材の整備、応援職員の活動拠点のリスト化、避難所における段ボールベッド等の早期設置や、トイレカーの活用、福祉支援の充実・強化など早期に取り組むことが可能な項目を盛り込んでいます」とした(出典:首相官邸HP 総理の一日「中央防災会議」)(下線部は筆者による)。

防災基本計画の福祉支援に関する改定項目

 福祉支援に関して、具体的にどの項目が改定になったかを見ていきたい。下線部が新規部分である。

第1編 総則

第2章 防災の基本理念及び施策の概要(略)

(2)迅速かつ円滑な災害応急対策
・指定避難所等で生活する被災者の健康状態の把握等のために必要な活動や福祉的な支援を行うとともに、仮設トイレの設置等被災地域の保健衛生活動、防疫活動を行う。また、迅速な遺体対策を行う。

第3章 防災をめぐる社会構造の変化と対応

(中略)人口減少が進む中山間地域や漁村等では、著しい高齢化の進行、集落の衰退、行政職員の不足、地域経済力の低下等がみられ、これらへの対応として、福祉的な支援の充実、災害時の情報伝達手段の確保、防災ボランティア活動への支援、地場産業の活性化、コミュニティの活力維持等の対策が必要である。

 中山間地域、漁村は確かに著しい高齢化の進行等で厳しい状況にあるが、全国的にも75歳以上の高齢者がこの30年間で約3倍になるなど、著しい高齢化が進行している。したがって、福祉支援の充実は全国的に重要な課題である。

第2編 各災害に共通する対策編

第1章 災害予防

第6節 迅速かつ円滑な災害応急対策、災害復旧・復興への備え

7 避難の受入れ及び情報提供活動関係

(3)指定避難所等
〇市町村(都道府県)は、保健師、福祉関係者、NPO等の様々な主体が地域の実情に応じて実施している状況把握の取組を円滑に行うことができるよう事前に実施主体間の調整を行うとともに、状況把握が必要な対象者や優先順位付け、個人情報の利用目的や共有範囲について、あらかじめ、検討するよう努めるものとする。

○市町村(都道府県)は、在宅避難者等が発生する場合や、避難所のみで避難者等を受け入れることが困難となる場合に備えて、あらかじめ、地域の実情に応じ、在宅避難者等が利用しやすい場所に在宅避難者等の支援のための拠点を設置すること等、在宅避難者等の支援方策を検討するよう努めるものとする。

○市町村(都道府県)は、やむを得ず車中泊により避難生活を送る避難者が発生する場合に備えて、あらかじめ、地域の実情に応じ、車中泊避難を行うためのスペースを設置すること等、車中泊避難者の支援方策を検討するよう努めるものとする。その際、車中泊を行うに当たっての健康上の留意点等の広報や車中泊避難者の支援に必要な物資の備蓄に努めるものとする。

 この3項目は避難所外避難者対応について新設された。避難所外避難者の状況把握、情報共有を進め、在宅避難者等や車中泊避難者については支援方策を検討するように求めている。実際に熊本地震では自宅等や自宅等から病院に搬送されて関連死された方が6割以上になっている。すなわち在宅等の避難所外避難者が危ないのだ。

 一方、避難所外避難者への全体支援計画がある自治体は、図1のように8.2%であり、3日以内に計画的に見守りを実施するのは0.4%にすぎない(図2)。

図1 避難所外避難者の支援計画・体制

出典:避難所外避難者の支援体制に関する調査研究2022年3月一般財団法人日本防火・危機管理促進協会
図2 避難所外避難要配慮者の見守り

出典:避難所外避難者の支援体制に関する調査研究2022年3月一般財団法人日本防火・危機管理促進協会

第2章 災害応急対策

第6節 避難の受入れ及び情報提供活動

3 指定避難所等(略)

(2)指定避難所等の運営管理等
○(前略)栄養バランスのとれた適温の食事や、入浴、洗濯等の生活に必要となる水の確保、福祉的な支援の実施など、必要な措置を講じるよう努めるものとする。

 下線部が新たに付加されたものであるが、避難者の尊厳を守り、避難生活を支えるためには、どれも必要不可欠なものだ。逆に言えば、これまでの災害ではこれらが十分に確保されておらず、避難者の避難生活を過酷なものにしてきたのである。

○市町村(都道府県)は、在宅避難者等の支援拠点が設置された場合は、利用者数、食料等の必要な物資数等を集約し、必要に応じ物資の補充等の支援を行うものとし、被災者支援に係る情報を支援のための拠点の利用者に対しても提供するものとする。

○市町村(都道府県)は、車中泊避難を行うためのスペースが設置された場合は、車中泊避難を行うためのスペースの避難者数、食料等の必要な物資数等を集約し、必要に応じ物資の補充等の支援を行うものとし、被災者支援に係る情報を車中泊避難を行うためのスペースの避難者に対しても提供するものとする。この際、車中泊避難の早期解消に向け、必要な支援の実施等に配慮するよう努めるものとする。

 この2項目は避難所外避難者対応について新設された。在宅避難者等の支援拠点設置と物資、情報の提供、また車中泊避難のためのスペースの確保と物資、情報提供及び早期解消に向けた支援について述べている。これは政府が、「避難所」という場所の整備から、「避難者」という人への支援に大きく舵をきったことを意味している。今後は、国においてガイドライン等を作成して、しっかりした対策を推し進める必要がある。

 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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