議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第101回 ひと昔前の議会事務局と何が変わったのか?
NEW地方自治
2025.03.13
本記事は、月刊『ガバナンス』2024年8月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
来たる8月31日(土)に立命館大阪梅田キャンパスで、「議会事務局研究会」(駒林良則・立命館大学特任教授主宰)の設立15周年記念シンポジウム(注1)が開催される。
注1 開催概要は、
https://kokc.jp/e/645813a2ce4f53483aefdfb8976df96b/ を参照。
シンポでは2011年に上梓された「議会事務局研究会最終報告書」(以下「報告書」、注2)での提言は実現されたのか?そもそも提言内容は現在でも正しいのか?などの観点から、「議会の機能強化と議会事務局の未来」というテーマで、筆者も登壇し議論する予定である。
注2 報告書は議会事務局研究会HP
(https://sites.google.com/site/gikaijimu/home)を参照。
そこでシンポに先駆けて、課題を提起し、当日の議論に繋げたい。
■課題が今も変わらない理由
筆者も今は議会事務局研究会の会員であるが、報告書作成時には未加入であったので、報告書作成には全く関わっていない。その意味では、客観的な感想だと思うが、全体としては2011年当時に議会事務局機能に着目し、特化した取り組みは、議会改革の潮流からは、かなり先進的かつ野心的であったと思う。
だが、提言内容は現在も指摘される課題とあまり変わらない。つまり、2011年当時の課題は、残念ながら報告書の上梓によって解決されたわけではないといえるだろう。
その理由を考えれば、もちろん俯瞰的には、議会事務局を取り巻く環境、議会の体質や議員、局職員の意識を変えられなかったということであろう。そしてそれは、提言が理念にとどまり、実現までのプロセスを実務に落とし込んで提案できていなかったからではないか。
正しいと考える方向性を抽象的に語ることは簡単でも、実現に必要な制度設計など、実務のプロセスを具体化することは意外に難しい。だが、具体化に挑戦しなければ、理念には誰も反対しないが、現実には誰も実行しようとしない机上の空論となってしまうだろう。
■実務に落とし込んでこその理念
紙幅の関係上ごく一部となるが、具体的に述べたい。報告書の【提言1 議会事務局職員の独自採用も行うこと】では、法的検討やその導入意義を論ずるだけでなく、独自採用職員の採用から退職に至るまでのキャリアパスをシミュレーションしている。導入に際し、現場で最も気になるところに、実務的な検討例が示されていてこそ、実現に向けた後押しができるのではないだろうか。
一方で、【提言7 議長の人事権を実質的に行使し、長からの独立を図ること】については、いわゆる「あるべき論」だけで具体的な提案はない。しかし、提言以降に局職員の人事異動に際して首長に議長との事前協議を求める主旨の条項を議会基本条例に加える議会も現れ、一定の前進はあった。だが、実質的な成果を得るには、具体的にいつ、どのようにして首長と人事調整するのかという詳細のスキームを確立しておかなければ、年月が経ち人が変わると、基本理念のみを定める議会基本条例だけでは、形骸化するであろうことは容易に想像できる。
いずれにしても、当初の高い志を時間の経過に抗って継続するには、理念的な方向性を明示するだけでは足りず、実務レベルに落とし込んで初めて理念が活きるのであり、詳細な事務フローを確立し、制度化しておくことが必要だろう。
このようなことを一つの論点に、シンポジウムでは、広く会場参加者にも発言を求めて議論できればと思っている。今年の夏の最後の思い出に、是非多くの人たちに大阪へ集まってほしい。
第102回 質問時間は長ければ長いほどいいのか? は2025年4月17日(木)公開予定です。
Profile
早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員・前大津市議会局長
清水 克士 しみず・かつし
1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長、局長などを歴任し、2023年3月に定年退職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。