議会局「軍師」論のススメ
議会局「軍師」論のススメ 第11回 議会の「事件」はどこで起きているのか?
地方自治
2020.06.11
議会局「軍師」論のススメ
第11回 議会の「事件」はどこで起きているのか? 清水 克士
(月刊「ガバナンス」2017年2月号)
*写真の左手に座るのは、大津市のキャラクター「おおつ光ルくん (おおつひかるくん )」。
議会の自律権の意義とは
議会の事件といっても議決事件のことではない。前号までの中央崇拝的姿勢や先例主義などに対する考えを踏まえて、今号では16年8月号で概説した大津市議会の「会議規則の条例化」への反対論に、「議会の自律権」の観点も交えて論じたい。
議会の自律権とは、明文規定はないが議会が自らその組織及び運営に関して、自律的に決定し処理しうる権限とされている。そのひとつとして規則制定権があり、首長や住民など外部からの干渉を排除し、改正権限を議会に専属させるために、「規則」の法形式でなければならないとの論がある。しかし、会議規則の条例化によって外部から改正議案が提出されたとしても、議決による最終決定権は議会にあり、実質的な差異はなかろう。
次に、会議規則は議事機関としての意思決定によるものであるが、条例化すると自治体としての意思決定になってしまうとの反対論もある。だが、議会の開閉、会期の決定、延長などを決めることは議会固有の権限とされ、会議規則で定めることが一般的であるが、一方で議員定数や定例会の回数は条例で定めることが法定されている。議会の組織、運営に関することでも、法は自治体としての意思決定によることも想定しているのであるから、議会が他の議会固有権限についても、同様に扱うことは、各々の議会の自由裁量であろう。
大津市では議員定数削減条例が市長から提案されたことがあるが、議会の根幹に係ることでさえ首長の関与を認めているのに、軽易なことだけを議会の自律権の範疇だと主張する意義があるのだろうか。むろん、机上の理論としてはあり得るであろうが、自治体の現場における得失についての比較衡量が必要であろう。そして、旧来からの理論優先による実益が乏しいなら、新たな発想による条例化によって、首長の関与はもちろん、市民からの直接請求も可能な例規体系とするほうが、市民利益に資するのではないだろうか。
市民ファースト的な考察を
他にも会議規則の条例化の反対論には、国会法と議院規則との関係性や、標準会議規則制定時の関係者の発言、著作を援用して論理構成されているものもある。だが、元来、国会と地方議会は制度上、似て非なるものであり、地方議会が国会のルールに準じなければならない理由もない。地方分権時代に、地方議会は国会の例に準じるのが当然と謂わんばかりの意見は、筋違いではないだろうか。また、当時の関係者の考えについても、前号までに述べたとおり、地方議会を取り巻く環境が大きく変容している現在においても、それが真理だとするのは思い込みであり、それを検証せずして論旨展開することには疑問を感じる。
紙数の都合上、反対論の全てに論ずることはできないが、ポイントは同一事象であっても視点、角度によって見える風景は変わってくるということである。
例規もどこに重点を置いて考えるかによって導かれる結論は異なり、司法の場で決着させない限り、絶対的解釈などあり得ない。立法当時の背景や議会の自律権などの議論を全否定するものではないが、それで不利益をこうむる人がいないなら、より市民ファースト的な考察を優先すべきではないだろうか。
有名な映画の台詞に譬えれば、議会の事件(課題)は、過去や中央の会議室ではなく、現在の地方議会の現場で起きているのだから。
*文中、意見にわたる部分は私見である。
Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。