自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[41]平成30年度の災害を中心とした事例集(2) ──岡山県総社市

NEW地方自治

2020.11.25

自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[41]平成30年度の災害を中心とした事例集(2)──岡山県総社市

鍵屋 一(かぎや・はじめ)
月刊『ガバナンス』2019年8) 

 前号に続いて、「平成30年度の災害を中心とした事例集」(注1)から、西日本豪雨災害時の岡山県総社市の事例を紹介する。なお、〈〉に私のコメントを付加する。

注1 http://open.fdma.go.jp/e-college/syutyou.html

平成30年西日本豪雨災害の事例

【岡山県総社市・片岡聡一市長からのメッセージ】

●事前に避難所の〝要るものリスト〟を作って準備しておくべき

 反省は、「とりあえず逃げろ」で始まる避難所の住環境水準を〝垂直アップ〟できなかったこと。段ボールベッドとか間仕切りとか、みんなで使える洗濯機とかコイン乾燥機とかを早い段階で提供して、避難所の環境を急激に上げることができませんでした。

 発生から数日たって避難所を見に行ってみたら、何日も毛布を敷いただけの状況でした。(中略)避難所で要るもののリストを、平時からちゃんと作っておくべきだと思います。そういうものを準備しておけば、初日からレベルをあげることができたのに……。

 〈首長は災害発生後は、本部から動かずに判断をするのが良いとされている。たしかに最終判断者の留守が多いと決定が遅くなり、ひいては災害対応全体が遅れをきたす恐れがある。一方、首長が現場を見なければ、現場感覚が得られず日常モードでの判断や指示になりがちでもある。避難所は、おそらく首長が真っ先に見るべき場所の一つだ。避難した市民の顔色、表情、声色により、ここに述べられたような判断ができる。首長が、短い時間でもよいので、被災者がいる現場を見ることは重要だ。〉

●助けてくれたのは高校生や名もない市民、そして遠くの人

 私のツイッターに応じてくれた高校生が、「市長さん何か私たちに手伝えることありませんか」というので、「有るとも、市役所に来てくれ」というと、1000人もが来ましたね。高校生がこれだけ立ち上がるとは思わなかった。(中略)私は普段は役を持っている人とか、ごくごく一部の市民としか行政的役割として付き合う機会がないのだけど、今回ほんとに現場でボランティアをやってくれて助けてくれたのは、いままで私が見たことない人ばっかしでした。(中略)これまで僕らはよその災害でいっぱい支援に行ったけど、そこの人たちが全部来てくれました。新潟市と仙台市は圧倒的だった。糸魚川とか、ブラジルのリオの大洪水とか、フィリピンのセブ島も行ったし、朝倉市、仙台市、相馬市、釜石市とか、その全部が来てくれました。やはり、何かやっておくとよいと思います。災害支援もよいし、遠い市と一対一の防災協定をむすんでおくのもよい。

 〈阪神・淡路大震災でも、「日常、行政とはあまり付き合いのない人たちが、大勢ボランティアや支援活動に取り組んでくれた」と記録集にある。このような市民力を平時から上手にコーディネートすることで、活力ある地域が作られていくのだろう。
 また、多くの受援を得られたのは、災害発生時に国内外を問わずに支援活動を行っていたため、というのも重要な教訓だ。〉

●ペット避難所は絶対に早くから必要

 ペット避難所は絶対に作ったほうが良い。総社市では、ペットを飼っている人が2割強いると思います。その人たちはなかなか逃げません。ぎりぎりになってペットと一緒に死ぬか、最後は結局人間だけ逃げて、ペットを置き去りにするか、そんな悲しい物語になってくるんですけど、完全隔離したペット避難所を作れば、共存共栄できるんですから作るべきだと思います。それも初動から。

 〈避難に当たって、ペットも必ず大きな問題になる。飼い主にとっては家族と同様でありながら、ペットを飼っていない人からは理解を得られにくい。ペットと安全に避難し、避難生活を送れることは飼い主の命、くらしを守ることに直結する。環境省から災害時のペット対策のガイドライン(注2)が出ているので、担当職員はぜひ読み込んでほしい。〉


注2 環境省「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506.html

総社市の被害の状況

【人的被害】死者5人(洪水4、関連死1)、負傷者38人(工場爆発等)

【住家被害】全壊84棟、大規模半壊169棟、半壊370棟、一部損壊521棟、床上浸水576棟、床下浸水369棟(*床上・床下浸水は初期調査による)

【避難所数】65か所(指定避難所(公設避難所):44か所、自主避難所:15か所、福祉避難所:5か所)

災害の時系列対応

7月6日(金)
10:00 避難準備・高齢者等避難開始発令(下林、赤浜、秦、昭和、池田、宿、岡谷)3434世帯8994人

 「6日の午前中から妙に胸騒ぎがあった。昼なのに夜のように暗い。これはやられるかなと思った。大勝負になるだろうなというか、その日のうちには帰れないなという認識だった。」

 〈6日午前の段階で、「災害モード」にスイッチが入ったのが分かる記述だ。なお、私は、「避難準備・高齢者等避難開始」という用語を使うことには反対である。人には「正常化の偏見」があるので、「避難準備」の用語を見れば、「まだ準備でいいんだ、逃げなくていいんだ」と思い込む可能性が高いと考えられる。〉

21:30 高梁川の水位が氾濫危険水位11.0mを超える(11.2m)、避難勧告発令(市内全域)、避難指示発令(宍栗、日羽、草田)、災害対策本部の緊張高まり、全職員を招集

 「午前中からの胸騒ぎを決定的にしたのは、水位が12mの手前まで来た時。市内全域に避難勧告を出したのは、高梁川の水位が11.2m。ダムの放流量が毎秒3000トンに迫るという、僕らが経験したことのない数字でしたから、市内のどこが切れるかもわからない状況でした。これはきっと(堤防が)切れるだろうと思いました。そこで全市への避難勧告となったわけです。」

 〈前号で、「オオカミ少年になるな」「僕は、避難勧告を発令するのは、最小限にとどめたい」という首長にして、全市避難勧告を出さざるを得なかった。それだけ、危機感が強かったのだと思う。全市への避難勧告については賛否両論があるが、私は十分にアリだと考える。全市避難勧告で一人でも多くの命を守ることができれば良いではないか。〉

22:15 避難指示(緊急)発令(市内全域)23避難所開設、緊急速報メール、メルマガで避難指示発信

 「大雨特別警報が出たのは決定的で、全市に避難指示を出しました。でも僕が根拠としたのはダムの放流量が大きかったから。(中略)あと1時間くらいは大丈夫だろうけど、堤防の計画高は12.97mで、もう1mしかない。いつまで耐えてくれるかだが、1時間で超えるわなと思った。それで避難指示にしました。」

22:30 17地区のコミュニティー地域づくり協議会緊急招集(避難指示の周知)

 「一か八かのかけで、土砂降りの中でしたが、市の中心部と川より東の地域の町内会長や町内の防災担当者らを災対本部に集めました。30人が集まりました。『1時間後に本当に(高梁川)決壊するから、決壊の可能性が高いから、一軒一軒回って、年寄りをおぶって逃げてくれ』と指示しました。すると、みんな真っ青になって飛び出していった。(中略)避難所に逃げて集まってくれた人の数だけ死者の数が減ると思っていたので勝負をかけました。」

 〈首長が直接伝えることが、いかに大事かを示すエピソードだ。災害現場では、時に首長が直接マイクを握って伝えることが重要である。〉

23:00 「この頃ですが、全職員を集めたんです。(中略)そこで僕は職員に、『みんな逃げろ』と言いました。『自分の命を優先しなさい。どのみち(高梁川は)切れるから』『自分は死ぬな。自分の命を大事にして、生き延びろ』と言いました。でも実際は、職員はその指示に従わないで避難所を作りに行きました。」

 〈東日本大震災では、避難が遅れて220人以上の自治体職員が亡くなった。災害時には避難の最終判断は個々の職員に任されるが、正常化の偏見があるため、どうしても遅れがちになる。避難の基準作りと日常からの訓練が不可欠である。〉

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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