政策課題への一考察 第85回 地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しの在り方(下)―アナログ規制の点検・見直しの推進体制と具体的推進手法のポイント

地方自治

2023.06.21

※2023年4月時点の内容です。

政策課題への一考察 第85回
地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しの在り方(下)
―アナログ規制の点検・見直しの推進体制と具体的推進手法のポイント

株式会社日本政策総研理事長(兼)取締役 (兼)東京大学先端科学技術研究センター客員研究員 
若生幸也


「地方財務」2023年5月号

 

はじめに

 前号では、地方公共団体のアナログ規制の点検・見直しと押印見直しとの異同を双方のマニュアルを見比べながら整理した。地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しは「①見直し対象の明確さ」及び「②見直し基準の明確さ」が限定的であるため、マニュアルが高品質であったとしても、押印見直しに比べ難易度が格段に上昇することを指摘した。今号では「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル」(以下「マニュアル」という)を念頭に置き、推進体制の在り方及び具体的推進手法の在り方についてポイントを絞って整理したい。

1 アナログ規制の点検・見直しの推進体制の在り方

(1)組織の意思統一・推進体制構築のポイント
 マニュアル内で推進体制の在り方は「(1)組織の意思統一・推進体制の構築」として整理されており、①組織の意思統一、②推進部門の指定、③全庁的な協力体制の構築で構成される。

 ①組織の意思統一では、特に首長のリーダーシップが重要となる。アナログ規制見直しはたとえ実施しなくても既にアナログで業務が実施されているため、ただちに問題になることは少ない。しかしこれを放置すれば、様々な民間サービスのオンライン化が進む中で、住民や事業者にとって行政手続負担が軽減されない課題が横たわる。官民問わず資源が限られるとき、「選ばれる自治体」になるためにアナログ規制見直しが避けて通れない取組であることは論をまたない。自治体DXの根幹としてアナログ規制見直しを認識すべきであり、首長は推進体制構築に心を砕くことが求められる。

 一方、②推進部門の指定では、自治体DXの文脈で語られる点に困難性がある。特に国ではデジタル庁がアナログ規制見直しを推進していることもあり、情報政策分野の文脈で捉えられることもあるが、本質的には行政改革であり規制改革として位置づけられる。マニュアルにも記載があるとおり、推進部門には総務部門や行政改革部門、その他新たな推進部署を設立することも想定される。既存の総務部門や行政改革部門にマニュアルをみせると「アナログ規制見直しは自治体DXの文脈だから情報政策部門が担当である」との認識を示されることも多いが、具体的な例規見直しを取りまとめることも踏まえれば情報政策部門のみで推進することは困難であろう。行政改革・規制改革として推進する場合には行政改革部門の推進部門指定や組織間連携が不可欠である。

 一方、デジタル技術の活用程度を想定できなければ具体的にデジタル対応を見直し内容として追記できないので、情報政策部門の知見も必要になる。加えて、アナログ規制を洗い出すためのキーワード導出や具体的な例規反映には「政策法務観点を持った例規担当」との組織間連携が不可欠である。なお、ここでいう「政策法務観点を持った例規担当」のイメージは、所管部門で例規改正が必要となり、例規担当が相談された場合にも目的レベルまで遡って改正の必要性の有無や関連例規・手続見直しまで示唆できる人材を指す。現時点でこのような人材は極めて限定的であるが、規制改革を進める場合には強力な推進役となる。企業でも新たな事業・サービス開発時に求められるいわゆる「戦略法務」と「政策法務」は同義であり、副業・兼業人材も含めた外部人材活用を弾力的に進めつつ、内部人材も計画的かつ長期的に育成すべきである。

 規制所管部門の見直し可否の検討は様々な限界が生じるとみてよい。繰り返しになるが「①見直し対象の明確さ」及び「②見直し基準の明確さ」が限定的だからだ。このため、推進部門(行政改革部門・例規担当・情報政策部門)の伴走型支援が重要である。全庁一斉に進める場合には進捗の遅れた部門や相談のある部門に絞ることになろう。

 ③全庁的な協力体制の構築では、各主体間の関係と情報流通を設計する必要がある。図表1はマニュアルに記載のある推進体制構築のイメージの文言を見直し、より具体化したものである。

図表1 推進体制構築のイメージ

出典:マニュアル内の推進体制構築のイメージに筆者下線部追記・図表改変

 これまで言及していない観点でいえば、有識者を交えた会議体として行政改革・規制改革委員会(既存の行政改革関係会議の活用や地方版規制改革会議(1)の設置も一案)を設置し、住民や経済団体からの具体的ニーズ・提案を受け付け、有識者も交えて議論し首長に具体的提案を行う仕組みを構築することが求められる。特に経済団体との情報交換を実施しないと、具体的な事業者の利用シーンで利便性が損なわれかねない。その意味を以下で解説する。

〔注〕(1)地方版規制改革会議については、若生幸也「地方自治体における規制改革の要点―地方版規制改革会議を事例に」『地方財務(2018年12月号)』(2018年12月、ぎょうせい)が詳しいため参照されたい。
https://researchmap.jp/twakao/misc/19531132

(2)経済団体との情報交換のポイント
 アナログ規制見直しでは、代表例として①目視、②実地監査、③定期検査・点検、④常駐・専任、⑤対面講習、⑥書面掲示、⑦往訪閲覧・縦覧が挙げられている。これをもって「面の改革」というが、実質的には面ではなく一部取りこぼしも想定しうる(必ずしもアナログ規制だけでなく非効率や実質的に法益を失っている規制などを含めれば更にその取りこぼしは増える)。端的にいえば例規検索システムに引っかかりやすいキーワードがみつけられるのがこの7項目であり、具体的な規制運用に照らせば、抜け漏れが生じていると考えるほうが自然である。このため、分野ごとに規制客体たる住民や事業者から具体的な支障を改めて確認し行政改革・規制改革委員会で受け止め、首長・国・広域自治体への提案に結びつけることが求められる(図表2参照)。国や広域自治体への提案から全国的・広域的な規制見直しにつなげるフィードバックループを構築することが我が国全体の規制見直しにも資する取組となろう。

図表2 分野ごとの実運用シーンの具体的支障事例の導出イメージ

 特に事業者からの提案を促すためには事業者側にも相応の体制を構築してもらうことが重要である。例えば各地の経済団体である商工会議所や商工会に依頼し、各団体に存在する具体的なアナログ規制の支障や非効率な行政手続を洗い出すための会議体・分野別分科会などを設置してもらうことも一案であろう。

 また規定されていない運用レベルで実施している手続を洗い出すことも難しい。例えば、ある財物の所有権移転時に例規では届出を規定しているだけにもかかわらず、来庁及び面会による所有者の確認プロセスを運用慣行として実質的に強制している場合がある。このような場合、キーワード検索では引っかからないことに留意する必要がある。

2 アナログ規制の点検・見直しの具体的推進手法の在り方

(1)遵守コストの認識と削減
 前提として規制改革のためには本来「遵守コスト」に目を向ける必要がある。遵守コストとは「住民・事業者の規制対応負担」を意味し、規制対応に係る①直接金銭支払と②設備投資・運用費用と③人件費負担(人件費単価×対応時間)を全て足すことで算出される。

 諸外国の世界標準ともいうべき規制改革(2)では、行政手続コスト削減の取組から始まり、その後遵守コスト削減を目指した取組に展開している。アナログ規制を見直した先のデジタル対応には国民・事業者のデジタル投資が必要となるため、設備投資・運用費用も含めた遵守コストの観点が極めて重要である(3)。一方、我が国では規制改革目標として「行政手続コスト」(上述した遵守コストのうち規制対応(行政手続)にかかる③人件費負担を取り出したものと理解すればよい)が2017年度から2019年度にかけて設定され、この削減目標として2019年度中に2017年度比20%の削減を各府省に求めた。各種政府資料をみると依然として行政手続コスト削減の観点が強い。そこでアナログ規制見直しの着地側となる地方公共団体でこそ、遵守コスト削減の観点を持ちたい。つまり出口としての規制のデジタル対応で住民や事業者に過度なコストのかかるものであれば、いったん見直しは後回しでよいといえる。

〔注〕
(2)詳細は以下論考で詳述しているので参照されたい。
 若生幸也「世界標準の規制改革に向けた日本の課題」2022年8月、日本政策総研。
https://j-pri.co.jp/report/848.html

(3)詳細は以下論考で詳述しているので参照されたい。
 若生幸也「規制改革目標としての遵守コストの妥当性」2023年3月、日本政策総研。
https://www.j-pri.co.jp/report/1118.html

(2)大分県における全庁アナログ規制見直し

 現時点で全庁アナログ規制見直しを推進しようとする地方公共団体にとって最も有益な事例は、大分県におけるアナログ規制見直しである(4)。大分県では先陣を切ってアナログ規制見直しに取り組み、2022年12月7日から2023年1月10日まで県各部局でアナログ規制の洗い出しを行い、2023年1月12日から2月8日には見直し方針を検討し、2月21日にはDX本部会議、2月24日には「令和4年度第3回大分県行財政改革推進委員会」が開催され今後の方向性までがわずか3か月で整理されている。

〔注〕(4)大分県におけるアナログ規制見直しは「令和4年度第3回大分県行財政改革推進委員会」(2023年2月24日)に記載がある。詳細は以下を参照されたい。
https://www.pref.oita.jp/uploaded/life/2215962_3946026_misc.pdf

 大分県におけるアナログ規制の点検対象は962件であり、そのうち国の法令等による規制は575件あり、これは国の法令改正等に従い対応する。一方、県条例等による規制は387件あり、デジタル活用等による見直しを検討する。実際に実地調査を遠隔カメラの画像確認で済ませることや講習会開催のデジタル化、遠隔技術活用による兼任の許容、対面インタビュー調査のオンライン化などを見直し例として示している。見直し総括は図表3のとおりである。国におけるアナログ規制見直しを踏襲した方向性を指向するのであれば、大分県のアナログ規制見直しは先進的取組として極めて参考になる。継続検討101件のうちその他の理由48件は技術動向の情報収集等となっており、出口としてのデジタル技術動向はデジタル庁の示すテクノロジーマップも踏まえて個別対応するため時間がかかるといえる。

図表3 大分県アナログ規制の見直し総括(県規制387件)

出典:大分県「令和4年度第3回大分県行財政改革推進委員会」資料

(3)デジタル庁によるモデル自治体課題調査
 デジタル庁デジタル臨時行政調査会ではアナログ規制見直しに係る具体的な制度的課題・技術的課題等を意欲ある地方公共団体とともに検討し、デジタル庁で優先取組事項を取りまとめる調査(5)を進めようとしている(公募自体は2023年3月17日で締切となり、北海道、埼玉県、香川県、宮崎県、相模原市、町田市、国分寺市、平塚市、川西市、高松市、坂出市、さぬき市、古賀市のモデル13団体と先行団体である大分県、福岡市のオブザーバー2団体が選定)(6)。先にみた大分県の取組が全庁横断的取組として実施されているのに対し、実際の人的資源の余力も考えれば、全庁横断的取組を全ての地方公共団体で求めるのも現実的ではなく、分野ごとのデジタル改革のモデルケース形成を目指す取組として理解できる。

〔注〕
(5)デジタル庁「地方公共団体におけるアナログ規制の見直しに係る課題調査事業公募要領」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d4e8cc39-c6cf-44a2-9218-50158b1129f5/c515ea98/20230224_policies_digital-extraordinary-administrative-research-committee_outline_01.pdf

(6)デジタル臨時行政調査会事務局「地方公共団体におけるアナログ規制の見直しに係る課題調査について」2023年3月28日
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7e954fba-2ee1-432b-aac8-e5312fb72bb4/c6b52bda/20230328_meeting_administrative_research_working_group_05.pdf

 この取組は各団体の意向も踏まえ、「消防・防災」「医療・福祉・健康」「子育て」「環境」「農林水産業」「土木・インフラ」を検討対象の業務分野として想定している。先の図表2で示した「分野ごとの実運用シーンの具体的支障事例の導出イメージ」をモデル的に構築する形となる。具体的な各団体の例規を用いてアナログ規制を抽出し、見直し案を検討することになろう。合わせて導入可能な技術検討や効果についても整理することになろう。2023年9月に中間報告、11月に検討結果の取りまとめが行われ、マニュアル改訂につなげられると想定される。2024年初にはより具体的な分野を絞ったモデルケースが生まれマニュアルも精緻化されていると想定されるので、これらを踏まえて具体的な各団体でのアナログ規制見直しは2024年初から実施できるだろう。

 以上、推進体制と具体的推進手法について筆者の観点で整理してきたが、改めてポイントをまとめると図表4のように示すことができる。

図表4 地方公共団体におけるアナログ規制見直しのポイント

出典:筆者作成

おわりに

 前号と今号にわたって地方公共団体におけるアナログ規制見直しについてポイントを整理した。まだ始まったばかりの取組であり、何から手を付けてよいかわからない団体も多くあると想定している。先進的に進めたい場合には大分県の取組が参考になるし、分野別にでも確実に進めたいという場合にはデジタル庁のモデルケースが生まれる2024年初から取組を進められる環境が整う。

 また、自分たちの団体のみで考えるのではなく、先進的な取組事例や横連携を大切にしたい。そのための「デジタル改革共創プラットフォーム」であり、情報政策部門関係者のみならず、行政改革・規制改革部門関係者もこの場を通じて積極的に意見交換したい。その他、例規システム事業者も様々な団体から相談を受けていると考えられるため議論してもよいだろう。国・地方公共団体で広範に進められた押印見直しと同様、地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しが進むことを期待したい。その中身を各団体のみにとどめず国や広域自治体の見直しに結びつけるフィードバックループを国や広域自治体としても構築することが肝要だ。筆者で手伝えることがあれば気軽に連絡してほしい。

 

 

〔参考文献〕
・三村賢伍・本庄登「デジタル原則に照らした規制の見直し」『行政&情報システム(2022年10月号)』2022年10月、行政情報システム研究所。
・若生幸也「地方自治体における規制改革の要点―地方版規制改革会議を事例に」『地方財務(2018年12月号)』2018年12月、ぎょうせい
・若生幸也「世界標準の規制改革に向けた日本の課題」2022年8月、日本政策総研。
・若生幸也「規制改革目標としての遵守コストの妥当性」2023年3月、日本政策総研。

 

*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。

 

本記事に関するお問い合わせ・ご相談は以下よりお願いいたします。
株式会社日本政策総研 会社概要
コンサルティング・取材等に関するお問合せ先
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