ことば「マイナンバーカード」 ―マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進(株式会社野村総合研究所 未来創発センター制度戦略研究室長 梅屋真一郎)

NEW地方自治

2019.12.23

ことば「マイナンバーカード」―マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進
株式会社野村総合研究所 未来創発センター制度戦略研究室長 梅屋真一郎

(ぎょうせい 『例規の架け橋』 2019年冬号 「ことば」より)

1 マイナンバーカードを取り巻く現状

 2016年のマイナンバー制度開始から約4年が経とうとしている。税・社会保険に関わる手続きでの利用が進んではいるが、直接的な目に見えるメリットが必ずしもある訳ではなく、住民の側からすれば「手続きに際して行政機関や雇用先から求められるためにマイナンバーを提供している」以上の感覚は依然として乏しい。
 地方自治体にとっても、手続き上必要な際に提供を求めていることが中心であり、マイナンバー制度のメリットをどう住民の方々に説明すべきかという点には依然として戸惑われているのではないだろうか。このことはある意味マイナンバーの制度そのものの成り立ちから見て仕方がないとも言える。マイナンバーの利用は税・社会保障などで予め定められている分野以外での利用に関しては制約があり、行政機関としても定められている分野以外での利用は出来ない。
 そういった意味で、マイナンバー制度の開始と共にスタートしたマイナンバーカードはその活用範囲は公的身分証としての活用以外に、カードに格納された電子証明書を利用した各種サービスやカードのICチップの空き領域の活用などを行うことが出来ることから、住民への様々なサービス提供が可能になる。
 しかしながら、マイナンバーカードの普及は令和元年9月16日時点で交付枚数1784万枚、人口当たりの交付比率が14.0%であり、必ずしも大多数の住民が保有する状況とはなっていない。
 そのため、マイナンバーカードの利活用も取得済みの住民の方々がコンビニ交付サービスで住民票の写し・印鑑登録証明書などをコンビニエンスストアで取得すると言った分野程度しか進んでいるとは言えない。
 とは言え、コンビニ交付自体の利用は着実に広がっている。令和元年9月15日時点で利用自治体は633、各種証明書の累計交付枚数は1240万枚を超えた。足元の令和元年8月では全国で月間40万枚程度の交付数となっており、市区町村窓口時間外でみるとコンビニ交付の割合は46.3%とほぼ半分を占めるまでとなり、また他市町村交付も2割を超えている。
 このことから見ても、まだ普及途上と言いながらもマイナンバーカードは住民にとって既に便利なツールとして活用されていると言える。今後、マイナンバーカードの普及が進めばより一層の利活用が進むであろうことはこのことからも期待できると言える。

2 マイナンバーカードの更なる普及に向けた取り組み

 マイナンバーカードの普及に向けた取り組みに関して、最近大きな動きがあった。
 令和元年6月4日に開かれた第4回デジタル・ガバメント閣僚会議では、「マイナンバーカードの普及及びマイナンバーの利活用について」が議論され、その中では「国民にマイナンバー制度のメリットをより実感していただけるデジタル社会を早期に実現するため、安全・安心で利便性の高いデジタル社会の基盤であるマイナンバーカードの普及とその利便性の向上等を図るとともに、社会保障の公平性の実現、行政の利便性向上・運用効率化等に向け、マイナンバーの利活用の促進を図る。」とし、そのための各種施策を各省庁が連携することを決定した。
 令和元年9月3日に開かれた第5回デジタル・ガバメント閣僚会議では更に踏み込んだ取り組みを行うことを明確化した。まず、マイナンバーカードの交付枚数に関して、想定とはしながらも2020年7月末で3000~4000万枚、2021年3月末で6000~7000枚、2022年3月末で9000~10000万枚、そして2023年3月末にはほとんどの住民がカードを保有することを想定すると明記した。そして、2021年3月末からは健康保険証利用の本格運用を行う、2020年度にマイナポイントを利用した消費活性化策を実施するなどの具体的な施策を明らかにした。マイナンバーカードの健康保険証利用は、従来からマイナンバーカード普及に向けた大きなきっかけになることが期待されていた施策であり、その本格運用に向けて保険者及び医療機関に対する各種働きかけや施策が今回正式に決定したことはこの動きに弾みをつける大きな進展である。また、マイナポイントを利用した消費活性化策は、本稿の後半でも述べるが、民間事業者も巻き込んでマイナンバーカードの普及への大きな後押しとなることが期待される。
 これらのある意味「政府の不退転の決意」に基づく施策により、今後数年以内にはほとんどの住民の方々がマイナンバーカードを保有することになるのではないだろうか。自治体としては、この様な普及を前提としてマイナンバーカードの利活用に関する検討を行うべきではないだろうか。

3 マイナンバーカードの利活用

 それでは、マイナンバーカードの普及が自治体業務にどの様な影響を与えるか、また自治体の現場にとってどの様なメリットがあり得るか、先進的な事例などを踏まえながら考えてみよう。

マイナンバーカードの普及そのものがもたらす影響
 2023年3月末までにほとんどの住民がマイナンバーカードを保有するとすると、それを前提に自治体業務の影響を考える必要がある。

・コンビニ交付の更なる利用拡大
 まず直接的に住民サービスへの影響が大きいのはコンビニ交付の更なる拡大であろう。既に述べた様にコンビニ交付は現時点でもかなりの程度の普及が進んでいる。今後はほぼ全ての住民がコンビニ交付を利用することを想定して、業務を検討すべきである。令和元年9月時点でコンビニ交付を行なっている自治体は633団体にとどまっているが、早晩ほぼ全ての自治体が参加することになると思われる。既に55,000店以上のコンビニ等の店頭で交付が行える様になっており、行政サービスの効率化にも大きく貢献している。このことは、自治体窓口での業務負担軽減にも繋がると考えられる。

・各種ワンストップサービス
 政府は、デジタルガバメント実行計画の中で、利用者の利便性向上のために、既にサービスが開始された子育てワンストップサービスに続いて、介護ワンストップサービス、引越しワンストップサービス、死亡・相続ワンストップサービスの3分野を先行的に推進するとしている。これらのワンストップサービスは、住民にとって重要なライフイベントをサポートすることが目的であり、住民にとっての利便性は極めて高い分野である。これらのワンストップサービスはマイナポータルの利用が前提になっていることから、今後マイナンバーカードがほとんどの住民に交付されれば、急速に利活用が進むことが期待される。各自治体は今後これらのワンストップサービスへの参加が進むと共に、その対象業務に関してはこれらのワンストップサービスで行える様に対応することが期待される。このことは、まずは対象業務のワンストップサービスへの組み込みの検討とシステム面での手当てが必要になることになる。また、これらの対象業務は自治体が住民に向けて提供している業務の中でもかなりの程度の範囲を占める業務であることから、既存業務の負担軽減に繋がると共に、担当者の配置などに関しても見直しが必要になるのではないだろうか。

マイナポイント施策から期待される波及効果
 マイナポイントは、消費税率引上げに伴う需要平準化策と官民共同利用型キャッシュレス決済基盤の構築を目指して、2020年後半に実施される予定である(図)。マイナポイントの仕組み自体は、従来からある自治体ポイントの仕組みを活用しており、今後自治体ポイントとも連携することが予想される。マイナンバーカードの普及とマイキーIDの普及が進まず参加自治体が少なかった自治体ポイントではあるが、マイナポイントによるマイナンバーカードとマイキーIDの普及により今後は利用を希望する住民も増加することが期待される。それに伴い、マイナポイントや自治体ポイントを活用した自治体によるサービスも増加することが期待される。
 元々、自治体ポイントはボランティアポイントや健康ポイントなどの行政ポイントやクレジットカードなどの協力企業のポイントから交換したポイントなどを地域の美術館や商店などでポイントとして活用できる仕組みであり、各自治体独自の施策を行いやすくなっている。今後検討されるであろう自治体ポイントとマイナポイントの連携を介して、より住民の使いやすさが向上すると共にポイントに参加する住民や民間事業者も広がりを見せると思われる。今後の検討状況を見据えながら、例えばまだ自治体ポイントを提供していない自治体であれば自治体ポイントへの参加を検討する、既に自治体ポイントを提供している自治体であればマイナポイントによる利用者拡大を踏まえた更なるサービスの提供を検討するなどを行うべきであろう。

(図)マイナポイントを活用した消費活性化策

民間事業者との連携を踏まえた影響
 マイナンバーカードの利用は、民間事業者の方が先行している分野が多い。これはまだ普及率が低くても、一定の対象者への利便性提供の観点から先行的に着手している民間事業者が多いためである。ここでは、これらの先行的な事例を紹介しながら、自治体業務への示唆及びこれらの民間事業者との連携可能性に関して論じる。

・公的個人認証サービスの利用
⑴金融機関による本人確認手段としての利用
 野村証券は、2018年6月より地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供する「公的個人認証サービス」を利用して、口座開設手続きがオンライン上で完了するサービス「スピード口座開設」の提供を開始した。従来、金融機関の口座開設に際してはオンラインでの開設であっても本人確認のため書留郵便等による書面の受け取りが必要となり、完了までに数日かかっていた。野村証券は株式会社野村総合研究所が本人確認(署名検証)サービスとして提供している「e-NINSHO」(イー・ニンショー)サービスを利用して、マイナンバーカードによるオンラインでの本人確認を行えるようにした。これにより、最短口座開設申し込み日当日に取引が可能となる。「スピード口座開設」は、ICカードリーダライタが接続されたパソコンの外に、Androidを搭載したスマートフォン、更にはこの2019年9月にはiPhoneでも利用可能となった。国内においてシェアの高いiPhoneでの公的個人認証の利用は、国や自治体などの行政機関が提供するサービスにとっても大きなインパクトを持つと期待できる。


⑵ 電子手続き手段としての活用
 三菱UFJ銀行は、2017年4月よりマイナンバーカードの公的個人認証を用いたオンラインでの住宅ローン申し込みサービスを三菱地所レジデンス及び東急リバブルと協働で開始した。従来、住宅ローンの契約手続きにあたっては、契約書面への記入や実印の押印、収入印紙の貼付が必要であり、銀行への来店が必須であった。三菱UFJ銀行では、凸版印刷のサービス「Speed EntryTrust2」を利用して、顧客の自宅でオンラインで住宅ローンの全ての手続が完結できるようにした。これにより、銀行への来店が不要となると共に、住宅ローンの金銭消費貸借契約書を電子的に作成することにより、紙面の金銭消費貸借契約書で必要になる借入金額に応じた所定の印紙貼付が不要になり、顧客は数万円程度かかる印紙税を負担する必要もなくなる。この様に、手続きの電子化の工夫により利用者の事務負担を減らすと共にコスト削減も可能となる。今後、行政機関による利用者向け手続きにおいても同様の工夫で利用者の事務負担・経済負担を減らすことが可能になると期待できる。

・ICチップ空き領域の利用
 2016年から府省(中央省庁)の国家公務員に関してはマイナンバーカードのICチップ内の空き領域に身分証明情報を登録し、入館時のセキュリティチェックに使われているが、民間においてもマイナンバーカードのICチップ内の空き領域に社員情報を登録する企業が増えている。最近では、セキュリティゲートの開閉とオフィスへの入退館認証、業務用パソコンへのログイン認証、複合機を利用する際の個人認証など幅広い利用を行っている例も多くなっており、社内OAなどのセキュリティを一括管理できるツールとしての
活用が増加している。今後は、行政機関でもセキュリティ一括管理ツールとしての利用が期待できる。
 なお、政府の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用促進に関する方針」によれば、市町村職員・都道府県職員に関しては、職員のマイナンバーカード取得を計画的に進め、2019年度中に被扶養者を含む共済組合員のカードの一斉取得を推進するとなっている。各自治体におかれては、まずは職員のカード取得から率先して行い、その上で住民のカード取得の推進を進めて頂きたい。

【著者プロフィール】
株式会社野村総合研究所 未来創発センター制度戦略研究室長
梅屋真一郎(うめや・しんいちろう)
東京大学工学部、同大学院卒業。野村総合研究所入社後、各種制度の研究や業務設計に携わる。マイナンバー制度については、企業実務の観点からの影響度分析などに従事し、関係省庁や関連団体などとの共同研究を実施。

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