マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会
第1回 カフェ発 IT技術にIDは不可欠。なぜ、マイナンバーがいるの?
キャリア
2019.03.26
カフェ発マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会 第1回
通知カードが届く
ある昼下がり、都内文田区にある「カフェ・デ・ラクレ」(Café de la clé)。
「絵美ちゃん、バイト代の支払いのために、今度からマイナンバーが必要になるんだ、あとで教えてね。」
マスターの加藤が、アルバイトの絵美に声をかけ、店の裏に向かった。
昼下がり、ということで、客は常連の男性が奥のコーナーの席に居るだけ。既にコーヒーもサーブされ、店は暇だった。近くに私立中学や大学もある文教地区で、お客さんは大学の関係者や近所のお年寄りや主婦が多い。
ランチが終了したこの時間帯は、ちょうどスポットのように手があく。幼稚園帰りの主婦たちが来るのはもう少し後だ。
「あぁ、あれ、まだ受け取ってないんですよ。」
マスターがケーキの載ったトレイを持って裏から戻ってきた時、絵美は声をかけた。ランチタイムで使ったパスタ皿を食洗機から出し、食器棚に並べているところだった。
「なんで?文田区民にはもう届いているはずでしょ?」
「私、まだ受け取ってないんです。」
「僕は二ヶ月前に受け取ったけど、まだなんだ?」
マスターは、カフェの二階に住んでいるし、絵美も、ここから徒歩15分ほどのアパートで一人暮らしをしている。同じ文田区だから、マイナンバーの通知カードは送付されているはずである。
「その週は友達と旅行に行ってたんです。ほら、2週間前。」
「そういえば、うちを休んでいたね。」
絵美は、2週間前に1週間ほどアルバイトで貯めたお金を使ってヨーロッパ旅行に出かけていた。
「ちょうど、出発日に届いたみたいで、帰ってきたときには郵便局の保管期限も過ぎていて、区役所に戻ってしまったみたい。わざわざ区役所に連絡するのも面倒なので、今のところ放ってあるんです。」
「僕が税務署に出す税の書類、給与支払い報告書に番号を記載しないといけない決まりになっているんだ。区役所に連絡して通知カードをもらってくれないかな。」
マスターは、トレイのケーキを、ショーケースに並べながら頼んだ。ケーキはマスターのお手製で、お茶の時間によく売れる。
インフラストラクチャーとしてのマイナンバー
「はい、わかりました。でも、なかなか忙しくて。普段は大学だし、空いている時間はここでバイトしてるじゃないですか。」
絵美は、大学生で、わりとまじめに講義を受けている。生活費などは親の仕送りで賄えるが、余暇を楽しむためのお金は自分で稼ぐ。それで、コマがあいている時間帯を見つけては、このカフェにバイトに来ているのである。
「決まったことだから従いますけど、面倒くさくないですか。国のためなんて言っているけど、なんで必要なんですかね。きちんと税金を納めてもらうためとか言ってるけど、今までだってみんな税金、納めているじゃないですか。」
「例えば、国民一人一人に付けた番号で管理すれば、原稿料や講師料、手数料など、一人でいろんな所得がある人を一元的に捕捉することができるようになる。そうすれば公正公平な課税が実現できるし、税務署の事務もかなり効率化される。その浮いた財源を医療や介護、子育てなどに回せるというわけだ。番号を利活用して電子化を進めれば、他にもいろいろなシーンで便利になると思うよ?」
「本当ですか?電子化によって、そんなに便利になるんですか?」
皿の片付けが終わり、食洗機に汚れたカップを並べながら、絵美は尋ねた。
「たとえば、うちも昔は、ポイントシールを配っていたんだよ。ほら、この台紙にシールを貼ってもらっていたんだ。」
コーヒー豆を整理していた手を止め、マスターは、引き出しからポイントシールの台紙を取り出した。絵美は、アルバイトをはじめた頃、カードに変わったことを知らないお客さんからシールの台紙を求められたことがあったのを思い出した。
「シールだと、お客様はたくさんのシールを台紙に貼らなければならないし、僕も受け取った台紙のシールを一枚一枚確認しなければならないので、お互いに面倒だったんだ。カードだったら、受け取ったシールの確認もいらないし、お客様もシールを貼る手間が省ける。これが電子化による効率化だよ。」
「確かに、便利ですね。お客様も楽になったし、お店も楽になった。これが社会システムの効率化ってやつですね。」
絵美は、大学で社会システム学という講義を受けたのを思い出した。それはインフラによって、社会全体が効率化を果たしている、という講義だった。(*)