マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会
第2回 カフェ発 便利なものにはわけがある。 便利なスマホアプリと その仕組み。
ICT
2019.03.26
第2回 カフェ発マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会
便利なものにはわけがある。 便利なスマホアプリと その仕組み。
携帯電話をスマホに乗り換えてできること
昼食にはまだ早い時間帯のカフェ・デラクレ(Café de la clé)。
近くに大学があり、文田区でもいわゆる文教地区にある。
カラン♪カラン♪
時々あらわれるお婆さんが小さな紙袋を持って入ってきた。
「 いらっしゃいませ。」
「マスター、コーヒー頂戴。今日は、朝から新しい話をいっぱい聞いてきたから疲れちゃった。」
「あ、里中さん。いつもどうも。おや、新しい携帯電話ですか。」
マスターの加藤は、里中の持つ紙袋に目をやりながら尋ねた。里中が持つ紙袋には、ある携帯電話会社のロゴが印刷されていて、しかも袋の端からスマートフォンが入っていると思われる箱が見える。マスターは、コーヒーサーバにネルをセットすると、コーヒーの粉が入っているドリップポットに手をかけた。
「孫とビデオ電話がしたくて、とうとうスマホにしたの。ガラケーではできないけど、スマホなら簡単よって孫が言うから。」
里中はいつも通りカウンターにある真ん中のイスに脱いだ上着をかけ、隣のイスに座った。そして、抱えていた紙袋の中にある箱に手をかけ、中から小さなビニール袋に入った赤いスマートフォンを出した。「見栄張って、年寄り向けのスマートフォンじゃなくて、若者向けにしちゃった。やり方、がんばって覚えなきゃ。」
「あ、それ最新モデルですね。かわいい!薄くて軽そうだし色もいいから、次の機種変の候補にしていたんですよ。」
厨房から出てきた絵美が声をかけた。絵美は、このカフェのアルバイトで近くの大学に通っている。この日は2、3限目の講義がないので、ランチタイムの手伝いに来たところだった。「あら、絵美ちゃん。ちょうどいい、スマホのやり方教えてよ。」
「里中さんは携帯電話を使いこなしているから大丈夫ですよ。携帯メールもできるし、カメラもよく使っているじゃないですか。」
絵美は、カウンター内にある流しで手を洗いながら、笑いかけた。
「確かにメールはできるけれど、最近はメールじゃなくてLINE だって言うじゃない。孫もメールは面倒なのでおもにLINE を使っているって言うから、何とかできるようになりたいんだけど。」
「 確かにLINEは便利ですよね。」
「でも、また一から住所録を登録しなければいけないんでしょう。結局、面倒なのでメールを使うことになるかも。」
「あれ、知らないんですか。LINEの場合、利用するにあたって住所録に登録する必要はないんですよ。」
絵美は、氷の入ったグラスに水を注ぎながら里中に言った。
「 え? 登録しなくていいの?」
里中は、覗いていたスマートフォンから目を離し、絵美の方を向いた。
「登録しなくていいということではないんです。個々の携帯電話の住所録機能に登録されている人のうち、LINE をやっている人が自動的に表示される仕組みなんです。」
「ということは何もしなくていいの!それなら私にもできるかも。」
多くの人が利用するLINE登録の仕組み
「里中さん、はい、どうぞ。」
マスターは、いつも通り膨らんだコーヒー粉が沈んだところで、コーヒーカップにコーヒーを移し、カウンター越しにコーヒーを出した。
「ありがとう。最近は、なんでも自動でできて便利な世の中になったと思わない?」
「そうですねぇ。」
里中が昔を懐かしむようにマスターに言うと、使い終わったポットとネルを片付けながらマスターは相槌を打った。
「でも、不思議。なんで、自動でできるのかしら。私には、さっぱり理解できないわ」
「理由は結構簡単なんです。LINEのような会社は、どこも大きな電話番号の名簿を持つことで情報をやり取りする仕組みなんです。」
「電話帳みたいなものを持つということは、何か別のIDでつなぐということかしら。」
「そのとおりです。電話帳は各個人の名前と電話番号ですが、LINEはLINE会社が使っているIDと電話番号の関係を紐付けることで、つながっているんです。」
「なるほど。そういうことなの。」
「たとえば里中さんの携帯電話の中に入っている電話番号の一覧をLINE社に提出すると、LINE社が持つ電話帳のようなもので、LINEのIDに変換し、自分のスマホに専用電話帳をつくってくれるという仕組みです。」
「そうなんですか、全然知らなかった。」
横で話を聞いていた絵美も驚いたようにつぶやいた。
「あら、絵美ちゃんも知らなかったの。」
「何となく使っていたので仕組みまでは知りませんでした。確かに、どこかにそういう名簿みたいなものがないと使えないですねぇ。」
絵美が感心しながらマスターに声をかけた。
「絵美ちゃん、悪いけどLINE使えるようにしてくれないかしら? どうしていいかよくわからないし、このままだと宝の持ち腐れになってしまうかも知れないから。」
里中は絵美にスマホを手渡しながら言った。
「マスター、いいですか?」
絵美は、一応上司に許可をとるといった感じで尋ねながら、里中からスマホを受け取った。
「あぁ、今はまだ大丈夫だよ。」
マスターの返事を確認した絵美は、早速新品のスマホを手にしながら里中に向かって言った。
「最近は、デフォルト(標準仕様)で入っていることが多いんですよ。まずは初期設定をしますね。これ見ていいですか?」
絵美は、紙袋に手に入れ、契約に関する書類を取り出すと、それを見ながら、手慣れた様子で入力をはじめた。