知っておきたい危機管理術

酒井明

職場で不祥事が発生した!

キャリア

2019.03.18

知っておきたい危機管理術 第5回 職場で不祥事が発生した!

『地方財務』2012年12月

小生が成田空港の責任者として勤務していたとき、部下職員が出入国の際に押す証印(スタンプ)を紛失したことがあった。故意か過失かはわからなかったが、これがもし、悪意を持った偽変造旅券グループに渡ってしまったら大変なことになる。ということで、四方八方探したが発見に至らなかった。その後、偽変造グループ等によって使用されたということもなかったが、大変苦い思い出である。当然小生も責任をとったが、その後、証印の管理に関しては、職員同士のチェック、さらに上司のチェックのダブルチェックを行うようになった。

不正発生の3つの条件

米国のD・Rクレッシーは、不正は、3つの条件(動機、機会、正当化)が備わってはじめて発生するという。動機(お金に困っている、遊ぶお金がほしい、家庭内での不和等)、機会(不正が見つからずに実行できる立場、違反行為へのスキルがある等)、正当化(自分の違反行為を自分に納得させる能力、不正を実行しても言い訳が許される倫理的にゆるい職場環境)である。別の見方をすれば、この3つの条件を分断すれば不正は防げることになる。

①「動機」に関しては、内部監査、内部通報制度が抑止効果を持つ。②「機会」に対しては、職員同士、上司のダブルチェック、現金の手渡しは原則行わない、やむを得ず行う場合は金銭の授受は複数人で行うこと、人事上、長期的な同一部署での配置をさけること等が考えられる。③「正当化」に対しては、不正は絶対許されないという職場文化を研修等により醸成することが重要である。

不正実行者の性格は

S・アルブレヒト教授(米国)は、不正実行者に多くみられる性格につき3点を指摘する。第1にプレッシャーや不満を抱えやすい性格—①現状への不満を感じやすい、②プライドが高い、第2に不正を簡単に犯せると目ざとく認識しやすい性格—①観察力が鋭く、慎重かつ几帳面、②「しっかりしている」「まかせて安心」と周囲から信頼されやすい、③人の目を盗むことにスリルを感じる、第3に自分の行為を正当化しやすい性格—①自分勝手な言動が目立つ、②人のせいにしやすい、③簡単にウソをついてその場を繕う、④抜け目がない人である。

不正を犯す個人の特徴や誘発要因として、①借金が増加、急な出費がかさむ、②ギャンブルやハイリスクな投資に熱中、③分不相応な生活—ブランド品、高級車、高級レストランでの頻繁な飲食、④家庭問題—配偶者との離婚、家族の大病、⑤組織から達成困難な目標を課され、プレッシャーを感じている、⑥仕事面の処遇に納得しておらず、上司や組織への不満を抱いている等が考えられる。

防止策‥人はみていないと悪いことをする

米国では様々な組織で倫理性正当化テストというべきものを行ってチェックしている。例えば、①普遍化可能性テスト「みんながもしあなたが行おうとしている行為をしたら、社会が成り立たなくなることが明らかな場合、その行為は倫理的に間違っている」、②可逆性テスト「自分が影響を受ける立場でも、同じような行為をするか、もし、影響を受ける立場ならしないというなら、その行為は倫理的に正しくない」、③世間体テスト「その行為は新聞等で報じられても同じ行動をとるか」、④ロッキード社の独自のテスト「子どもが同じことをしたら、親としてどうですか」「あなたの行為を家族が知ったらどうですか」等である。

不正防止には、内部監査と内部通報制度が重要な役割を果たすと思われる。匿名による内部通報制度の創設が不正行為への抑止力になることは間違いない。内部通報制度の仕組みとして、匿名性が保たれているか、通報した職員が不利益を受けない仕組みが担保されているか、通報内容の確認と解決に向け監査委員会に重要な役割が求められる。また、管理職員の役割も重要である。十分にリーダーシップを果たしているか。リーダーとして資質のない人が管理職についていないか、部下が腐ってしまうような環境を作っていないかの確認が重要である。

日本の組織は性善説に立ち人を信用して「任せる」という文化がある。それは大変貴重な文化である。しかし、不正防止という観点から「人は見ていなければ悪いことをしてしまう」という欧米流の性悪説の視点も必要ではないか。日本的な性善説的なものを大事にしながらも性悪説的な対策をも加えることが必要である。不正防止には、対症療法ではだめで、不正行為の防止、発見、調査、是正という、継続的ないわゆる不正リスク管理のPDCA(Plan-Do-Check-Act)が計画の中心に置かれるべきである。

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酒井明

酒井明

東京福祉大学特任教授

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