知っておきたい危機管理術/木村 栄宏

木村栄宏

防災の日常化

キャリア

2019.04.05

知っておきたい危機管理術 第40回 防災の日常化

『地方財務』2018年10月号

 今年は特に7月から9月にかけて、西日本豪雨や北海道胆振東部地震など、災害が次々に発生した。特に北海道ではブラックアウトも生じるなど、関係者の間では想定外の事態も生じている。今回は、防災という観点で、身近な危機管理を考えてみよう。

PUSH型の情報発信

 平成30年7月豪雨では、3・11の経験も踏まえ、行政はPULL型ではなく、PUSH型で情報発信や支援物資の提供を行った。「情報発信」でいえば、情報の受信者側が情報の発信者側にアクセスして、ほしい情報を選択しながら入手する(HPからの情報入手等)のがPULL型であり、情報の発信者側から受信者側にアクセスして、伝えなければならない情報をきちんと峻別して、情報を入手してもらう(防災行政無線による同報、携帯メールへのメール送信、個別訪問等)のがPUSH型である。

 しかし、ダム放水情報や避難勧告・避難指示の発信においては、住民との間で齟齬が生じたり、住民側の正常性バイアス(火事や事故、災害など予期しない事態に出会った際に、「たいしたことはない」「自分だけは助かるから平気」等、心の安定を図るために目前の状況を無視したり過小評価する、いわば正常化の偏見、正常への偏向のこと)の存在などが指摘されている。

「防災の日常化」が必要

 今日の防災で必要なのは、「防災の日常化」の一層の促進だ。防災というと、防災に関わる講演会などを開催しても、聞きに来るのは毎回同じメンバーで、本当に聞いてほしい人たちがなかなか足を運んでくれない、という主催者側の悩みはあちこちで聞く。「防災」というと身構えてしまったり、怖い、面倒くさいといった感情を持ち、拒否する方がいるのも確かである。

 そこで、「もっと防災を気楽に、身近に」という考え方が必要だ。もちろん、その試みは既に様々な場所・地域で行われつつある。例えば、幼い子供の頃から防災に馴染ませるため、「あそぼうさい(遊ぶ+防災)」というコンセプトの防災訓練の実施である。防災教室では、学生たちなど若いお兄さん・お姉さんが、保育園や幼稚園児に対して消火器の使い方を見せたり、ボウサイレンジャーとしてコスチュームを着て登場する。また、女性のグループ「防災ガール」による啓発活動などがある。さらに、災害時ではコミュニケーションをうまくとる必要が生じるため、「手つなぎ鬼」という遊びを通じて、コミュニケーションの大事さを身を持って子供たちに体感させる遊びをさせていたりする。

 個人でも、一人ひとりが普段から地道な防災の準備を行う必要がある。読者のみなさんも、もしもの時のために防災グッズを用意したり、とっさに役立つ知識を持つようにしていることと思う。例えば、配給水を便利に運ぶには、ビニール袋を二重にして水を入れた後きつくしばり、リュックに入れて運搬するとよい。また、水が無くても簡単にトイレ処理をするには、ダンボールに穴を開け、ビニール袋を二重に入れて下には新聞紙を入れ、そこに排泄した後は消臭剤等を入れた後、きつく縛り捨てればよいといった具合である。

もっと身近な防災グッズを!

 一方で、もっと身近な「防災グッズ」の開発・普及が必要だ。平時は日用品として日常にまぎれていながら、緊急時には本来の機能を発揮する「身近な防災グッズ」だ。

 例えば、西日本豪雨災害時に、仮に一家全員に一着ずつライフジャケットが備えられていたらどうだっただろうか。大手アウトドアメーカー㈱モンベルでは、「ふだんはクッション、緊急時にはライフジャケットになる」という製品が開発されている。

 また、機能はそのままに、見た目や中身を工夫し、防災用品を身近に感じられるものにすることも重要だ。例えば、地震などの発災時には、親が小学校などにすぐかけつけられず、親と子が離れ離れになってしまうことが予想される。そうなれば、親も子も不安に思うはずだ。そこで、筆者の所属大学の危機管理学部の学生は、非常時の子供の安心・安寧に役立ち、教室に常置する携帯防災避難袋「もしものおまもり」を、「NPOちょうしがよくなるくらぶ」と共に開発した。

 避難袋の中身は、水、お菓子、使い捨てトイレ、レスキューシート、水不要の備蓄食(スープ+アルファ米)のほか、パラベンフリーのウェットティッシュ、子供用手袋、母からのメッセージを入れた「もしもの手帳」、子供の心のケアに役立つ人形などで、総重量は1㎏程度。商品開発に当たって、学生たちは被災者及び自衛隊などの救援者にヒアリングを実施。「女性の目線」「母親の視点」を取り入れた。見た目もかわいらしくすることで、子供にとって親しみやすいものとなった。

 様々な災害が生じている今、防災の日常化、身近な防災グッズのアイデアや開発が加速化することが望まれる。

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千葉科学大学危機管理学部教授

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