自治体の防災マネジメント

鍵屋 一

自治体の防災マネジメント[83]個別避難計画の意義を再考する

地方自治

2023.10.18

※写真はイメージであり、実際の土地とは関係ありません。
本記事は、月刊『ガバナンス』2023年2月号に掲載されたものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、現在の状況とは異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 内閣府は、個別避難計画に関して、市町村が優先度を定め、優先度の高いものについて5年以内の作成を求めている。優先度とは①ハザードの状況、②避難行動要支援者(以下、要支援者という)の心身の状況等、③要支援者の社会的孤立の状況、の三つのポイントを踏まえて総合的に判断することになっている。

要介護者の日常生活の困難さ

 優先度を考えるにあたって、避難行動要支援者(以下、要支援者)の日常生活の不便さ、困難さをまず考えてみたい。要支援者の多くは、介護保険の要介護者であろう。要介護者の日常生活動作(ADL)について、厚生労働省は2010年に大規模調査を実施している。その全体状況は、下記の図1のとおりである。

図1 ADL(日常生活動作)平均得点

 介護非認定の一般高齢者のADLがほぼ100であるのに対して、要介護者は60程度になる。しかし、これではイメージが湧きにくいので、項目別の得点を見ると次の表1のとおりである。

表1 ADL(日常生活動作)項目別得点

 これを見ると、具体的な困難さがイメージできる。特に移動が大変で、一人で入浴したり、50ⅿ以上歩けたりする人は3割程度にとどまり、7割は介助が必要である。また、大便の失敗がある人が6割、小便の失敗は7割である。この状況を見れば要介護者にとって外出がいかに困難かは想像に難くない。

 では、いかにして日常生活を送っているかだが、本人ができること以外は家族や福祉専門職のサポートを受けながら過ごしている。

 図2は、これをイメージ化したものである。

図2 要介護者の日常生活イメージ(筆者作成)

移動困難者と支援者は車避難

 要介護者のADLはマスで見た場合、平均すると60が、移動など支援が必要な部分は家族や福祉専門職が支えている。近隣のコミュニティが精神的ケアを中心に支援してくれれば、安心感が生まれ、それだけ脆弱性が弱まるだろう。それでも、多大な不便さを我慢しながらの生活をしている。それが脆弱性となる。そして、50ⅿ歩ける要介護者は3割いるが、そんなに近くには避難場所はほとんどないであろうから、要介護者にとって災害時の徒歩避難は極めて困難なことが容易に想像できる。

 津波浸水地域の自治体は、徒歩避難や、それが困難な場合には車イスやリヤカーでの避難が推奨され、「原則として」車避難を禁止している。しかし、その建前では要介護者とその支援者には厳しく、真正直に徒歩避難を選択すれば明らかにリスクが高まる。むしろ、「例外として」移動困難な要介護者や障がい者等は車避難を認め、移動に困難のない人は徒歩避難でと、明確にした方が良いのではないか。

要介護者の個別避難計画作成効果

 要介護者が、家族、福祉専門職、コミュニティ等と一緒になって個別避難計画を作成した場合の効果のイメージは下の図3になるのではないだろうか。

図3 要介護者の個別避難計画効果イメージ(筆者作成)

 若干の補足説明をしたい。一番下の本人・家族の役割は、まず災害から命を守るという覚悟を決めて自分たちにできる準備(家具転倒防止や備蓄をし、非常用の持出袋を用意する)、できる範囲での訓練(ベッドから立ち上がる、玄関先まで出る、ちょっと外に出る)を行う。これでレベルを上げる。さらに、受援力を発揮して福祉専門職やコミュニティに避難支援の協力を求める。これにより、福祉専門職やコミュニティの力を引き出すことができる。これは、別の観点から見ると、受援力を発揮することで支援者になったともいえる。

 福祉専門職は、日常はコミュニティとのつながりはなくとも大きな問題はないが、災害時はコミュニティによる支援が重要になる。たとえばケアマネジャーの多くは30人程度の要介護者を抱えているため、全員を助けに行くことはできないし、そもそも近くに住んでいないことも多い。そこで、避難支援を近所に住むコミュニティ住民に求めざるを得ない。その受援力を発揮することで、コミュニティの力が引き出され、コミュニティ力が高まるきっかけとなる。

 それに、本人・家族、福祉専門職、コミュニティがつながり、話し合って避難の試行錯誤を繰り返すことで、創意工夫が生まれ、地域防災力が高まっていく。

 一番上は、それでも脆弱性や災害リスクは残らざるを得ない領域だ。これを自覚することで、次の課題を把握し、訓練、見直し、計画変更へとつなげ、継続的にレベルアップを図ることができる。

 本稿では要介護者を事例に上げたが、おそらくほとんどの要支援者にも当てはまると思われる。そして、個別避難計画作成の取組みを日常に応用することで、地域共生社会づくりへとつながっていくのではないだろうか。

 

 

Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。災害時要援護者の避難支援に関する検討会委員、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事なども務める。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』(学陽書房、19年6月改訂)など。

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鍵屋 一

跡見学園女子大学教授

(かぎや・はじめ) 1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。

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