知っておきたい危機管理術/木村 栄宏

木村栄宏

BCPの必要性(企業も個人も自治体も)

キャリア

2019.04.05

知っておきたい危機管理術 第42回 BCPの必要性(企業も個人も自治体も)

『地方財務』2019年2月号

 BCPという言葉は、近年かなり一般に浸透してきたのではないだろうか。BCPとは「事業継続計画」のことだが、企業だけでなく、例えば災害拠点病院に策定が義務付けられたり、「学校BCP」として中学校等で浸透しつつあるなど、対象が大きく広がっている。

注目されるBCP

 BCPが脚光を浴びたのは、大きなテロ発生後に、いち早く業務を再開した企業には「BCP」があったと知られるようになってからだ。

 例えば2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件では、事件現場の世界貿易センタービル内に事務所をかまえていたある金融会社は、ほとんどの従業員をビルから無事避難させただけでなく翌日には業務を再開した。また、2005年7月7日の朝、英国ロンドン市内の地下鉄3か所で起こった同時テロでも、死者が50人以上にのぼるにもかかわらずある銀行は、爆破地点の駅に近かったオフィスから、トレーディング部門を別の場所へいち早く移動、すぐに業務を継続させた。

 日本では、2004年10月の新潟県中越地震時、BCPにより迅速に対応できた企業がある一方、大手自動車部品メーカーの被災により全国の2輪車生産や4輪車生産がとまり、自動車メーカーから工場再開のための支援部隊が駆けつけた。また別のある大手家電系列メーカーでは、設備の耐震チェックの実施などBCPがなかったために、被害総額約900億円に及んだ。こうした事例が注目され、日本におけるBCPの理解と浸透は、それ以降徐々に進んできた。

企業のBCP策定が進む

 企業のBCPについては、2014年6月3日に国土強靱化推進本部が決定した「国土強靱化アクションプラン2014」で、サプライチェーンを確保するために企業ごと・企業連携型BCPの策定が求められており(サプライチェーンの寸断は企業の国際競争力を低下させる)、2020年までのBCP策定完了目標は大企業で100%、中堅企業で50%となっている(この目標数字は一般にも浸透しつつある)。ちなみに内閣府が継続的に行っているBCP策定実態調査で、大企業では64・0%が「策定済み」と回答し(前回調査(平成27年度)比3・6ポイント増)、「策定中」(17・4%)を加えると、81・4%と8割超、一方中堅企業では31・8%が「策定済み」(同1・9ポイント増)で、「策定中」(14・7%)を加えると半数近く(46・5%)となるため、全般にBCPの策定が確実に進んできているのは事実だ。

 東日本大震災を経験し、2020年東京オリンピックを控え、首都直下地震が懸念されている今、リスクマネジメントである「BCP」は、まさに今後の生き残りの鍵である。

 しかし担当部署や経営陣を除いて、企業のBCPは、個々の社員には浸透していないのではないだろうか。

真に役立つBCPとなるには

 例えば2017年6月の「企業の事業継続に関する熊本地震の影響調査報告書」によれば、地震の際に有効だったBCPの取り組みとして「備蓄品の購入買い増し」「災害対応責任者の決定、災害対応チーム創設」「安否確認や相互連絡のための電子システム導入」が上位を占めている(回答554社中、順に46・0%、37・9%、34・1%)。一方、今後取り組みたいことについては、「クロストレーニング(代替要員の事前育成)」や「BCPの見直し」等が上位(回答1294社中、順に47・8%、48・5%)となっており、実際にBCPが役立っていない点も多かったことが推測される。

 昨年は、特に7月から9月にかけて、西日本豪雨や北海道胆振東部地震等々、災害が続いた。北海道ではブラックアウトなど、想定外の事態も生じており、自家発電や非常用電源確保を行っていないためにBCP発動どころか、従業員の安全にも支障をきたした。労務行政研究所のアンケート調査(2012年1月)では、勤務先の企業・団体で行われている震災対策の現状に対して約6割が「不十分」としており、従業員にとっては勤務先の防災対策を「不十分」と考えているような状況では、企業のBCPを行う意欲も減少すると思われる。従業員あっての企業としては「BCPの日常化」ができてこそ、真に役立つBCPとなる。

企業も個人も自治体も

 もちろん、防災や減災にはインフラ整備と同時に教育・訓練が必要であり、BCPでも同じだ。また、企業間連携から地域間連携が要求される今、地元自治体と企業との一層連携したBCPの策定が必要だ。ヤフーは千葉県柏市や埼玉県入間市などの自治体と「災害に係る情報発信等に関する協定」を結び、災害時の避難所情報を発信する体制作りを行っている。また、通信各社自らがプッシュ型で情報発信する地域貢献業務を行うことも今後期待されていく。BCPは、地域住民目線と従業員目線、企業目線が一体化した時、真に役立つものとなる。

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木村栄宏

木村栄宏

千葉科学大学危機管理学部教授

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