著者に訊く! 稲継裕昭著 『AIで変わる自治体業務 ──残る仕事、求められる人材』(ぎょうせい)

地方自治

2019.06.28

著者に訊く! 
AIで変わる自治体業務 ──残る仕事、求められる人材
稲継裕昭

『ガバナンス』2018年11月号

AIで自治体業務はどう変わり、どのような人材が求められるのか

 またたく間に社会の大きな潮流となったAI(人工知能)の活用。自治体現場でも現在、導入に向けた動きが加速度的に進んでいる。本書はAIが自治体業務に与える影響を、人事戦略や人材育成など中長期的な視点も踏まえて展望するものだ。自治体の人事政策などを研究してきた著者の稲継裕昭さんは、「報道される少し前から深層学習の技術的革新によって、銀行の窓口業務はほとんど人がいらなくなるなど大きな変化が起きると金融関係の知人から聞いていた。それが現実化し始めたので、他の業種はどうかとAIやRPA(*1)について調べると、自治体も含めてどんな分野でも起こり得ると感じた。実際、自治体現場でも急速に進みつつある。自治体ではまだ意識はそれほど高くないが、大変なことが起こると伝えるために、全体像がわかる形で本書をまとめた」と話す。

 稲継さんがいうように、AIの自治体業務への活用は急激に進みつつある。チャットボットによる情報提供、会議録の作成、定型業務の自動化、戸籍業務の支援など、本書でも多様な試みを紹介している。10~20年後には半分以上の職業がなくなるなど、衝撃的な予測もある中で、これから自治体業務はどうなっていくのだろうか。「安心してほしいのは、今いる人たちが馘(クビ)になるわけではないということ。ただし、民間の人員削減などが今後5年くらいで見えてくる。そのときに事務処理などを従来どおり漫然とやっていては納税者は納得しない」と稲継さんは指摘する。

AI活用の可能性と自治体の人事戦略

 本書では、こうした視点から、住民サービスや防災、インフラ、公共交通、業務効率化など各分野のAI活用の可能性を推測したうえで、これから自治体に求められる人材や人事戦略を展望。不安を煽るのではなく、現実的にどう対応していくべきかを冷静に論じている。AI時代に求められる人材は、基本的にはAIを使いこなせる人とAIができない分野に携わる人だ。現状でAIが不得意なのは、他者との協調性が必要な業務、さまざまなアクター間の調整業務、創造性が求められる業務など。こうした業務に強い人材をどう育てるか、自治体は問われる。

 ただし、稲継さんは「これは控えめに書いたつもり。専門ではないのでシンギュラリティ(*2)などは想定していない。いまあるエビデンスからすれば、ここまではいくだろうというもの。これ以上に進む可能性も大いにある」という。そのうえで「民間で起きている技術革新などは、必ず自治体にも訪れる。常にアンテナを張り巡らせながら、わが自治体に起きたらどうなるのかを考えておくべき」と強調する。目を逸らすことなく、自治体はこの現実に向き合う必要がある。それはそれほど遠い未来ではない。(M)

*1  RPA(Robotic Process Automation)=ロボット技術やAIを活用した業務の効率化・自動化の取り組み。
*2  シンギュラリティ(技術的特異点)=人工知能が発達して、人間の知性を超え、社会に大きな変化が起こるという未来学上の概念。

稲継裕昭
いなつぐ・ひろあき 大阪府生まれ。京都大学法学部卒。京都大学博士(法学)。大阪市職員、姫路獨協大学助教授、大阪市立大学教授、同法学部長などを経て、現在、早稲田大学政治経済学術院教授。内閣府、総務省、人事院などの国の機関や自治体の審議会委員多数。主な著書に『日本の官僚人事システム』『人事・給与と地方自治』、『公務員給与序説─給与体系の歴史的変遷』、『自治体の人事システム改革─ひとは「自学」で育つ』『プロ公務員を育てる人事戦略─職員採用・人事異動・職員研修・人事評価』『この1冊でよくわかる!自治体の会計年度任用職員制度』『シビックテック:ICTを使って地域課題を自分たちで解決する』など。

 

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