政策課題への一考察 第96回 自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(3) ― 汎用能力としてのデジタル活用能力と「攻め」のデジタル人材
地方自治
2024.05.29
目次
※2024年3月時点の内容です。
政策課題への一考察 第96回
自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(3)
―汎用能力としてのデジタル活用能力と「攻め」のデジタル人材
株式会社日本政策総研主任研究員
竹田 圭助
(「地方財務」2024年4月号)
1 前回の要旨:行政の専門分野としてのデジタル分野とデジタル人材
令和5年12月に総務省「自治体DX推進計画」「自治体DX全体手順書」「人材育成基本方針策定指針」が改訂された。今般の各種文書の改訂は明らかに人事担当部門を対象としたものである。筆者は、今般の改訂を全庁的な取組に繋げるため、DX担当部門と人事担当部門との継ぎ目の役割を果たすべく、国が示す各ドキュメントを再整理した上で留意点を提示しつつ、自治体DXを人事政策からみたときのあるべき方向性を示す。
前々回(第1回)では、総務省「人材育成・確保基本方針策定指針」の改訂の趣旨と内容を読み解きつつ、人事政策全般のあり方を見直すための観点を論じた。前回(第2回)は、DXの推進を支えるデジタル人材の中で、「行政の専門分野としてのデジタル分野とデジタル人材」を論じ、労働市場の制約やIT投資増加と連動した管理対象の増加、発注者責任の観点からデジタル分野では今後も一定レベルの専門性を有する「守り」のデジタル人材の確保・育成が肝要となると指摘した(注)。今回(第3回)は、デジタル活用を促進する「攻め」の人材類型を定めた上で第1回~第3回のまとめとしてデジタル人材全般のマネジメントを示す。大枠は図表1のとおりである。
(注)詳細は竹田圭助「自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(1)―デジタル人材を含む人事政策全般について」(『地方財務』2024年2月、ぎょうせい)、「自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(2)―行政の専門分野としてのデジタル分野とデジタル人材について」(『地方財務』2024年3月、ぎょうせい)を参照されたい。
2 汎用能力としてのデジタル活用能力及び「攻め」のデジタル人材とは
前回(第2回)取り上げた高度専門人材としての「守り」のデジタル人材と対をなすものとして、「攻め」のデジタル人材概念を整理する。
(1)「汎用能力としてのデジタル活用能力」及び「攻め」のデジタル人材とは何か
「汎用能力としてのデジタル活用能力」とは、行政分野(例:こども子育て分野、防災分野等)や職種(一般事務、保健師、建築技師等)、職位(主事、主任主事、係長等)別によらず汎用的に必要とされる能力を指す。例えば「主任級の保健師かつデジタル活用能力レベル2」や「課長補佐級の土木技師かつデジタル活用能力レベル3」といった人材像が想定される。
このため「攻め」のデジタル人材は、高度専門人材以外の全ての一般行政職を対象とする。さらに求められる知識・技術水準によって対象者が限定的となることや、組織規模により必要数は変わることが想定されるため、習熟度を3段階で表現する。
(2)「汎用能力としてデジタル活用能力」及び「攻め」のデジタル人材の類型
まずレベル1は全ての一般行政職員に必須のレベルとした。趣旨は、コンピュータを使用して行う様々な業務の習熟度を高めることや習熟までの所要時間を短縮することにある。筆者は、生産性向上もDXの活動の中で行われるべきで、入口は日常的に使用するコンピュータの操作やWord、Excel等の汎用ソフトウェアの習熟度を含むと考えるため、この要素も付加している。
レベル2・レベル3は総務省「自治体DX全体手順書【第2.2版】」に記載の「DX推進リーダー」が概ね該当する。前回(第2回)で論じた「守り」の高度デジタル人材とレベル1(一般行政職員級)の橋渡しの役目を担う。レベル2と3の違いは習熟度である。以上を踏まえた「攻め」のデジタル人材の類型と能力の要素を図表3に示す。
(3)「攻め」のデジタル人材の検討に係る留意点
さて、この「攻め」のデジタル人材に関してはいくつかの留意点がある。以下に列挙する。
第一に、こうした知識と技術の水準を担保する方法は議論のあるところだが、研修、実務、人事評価のサイクルによって確認するか、もしくは試験・研修により認定することが考えられる。
第二に、たとえばレベル2をいきなり各課1~2名育成するのは困難かもしれない。まずは各部1名程度を先行的に育成し、人事ローテーションの中で複数年かけて最終的に各課1~2名配置できる総数を育成することも一案である。またレベル3はレベル2を前提としているため、レベル2に達した職員から早期育成としてレベル3の育成プログラムを実施することも考えられる。
第三に、レベル3まで到達する場合は、部分的に「守り」のデジタル人材の要素も要求される。このことから本人の希望によっては「守り」のデジタル人材へのキャリアパス変更もあり得るだろう。
第四に、レベル2・3の人事制度上の取扱いである。DX担当部門との併任なのか、そうではなく研修目的で都度関与するものなのか等、様々な選択肢があり得る。この場合、DX推進リーダーの求められる役割と活動領域を限定的に定義することや、各活動領域で数名を選出し育成すること等が考えられる。
3 デジタル人材確保・育成・配置・評価・処遇に関する検討の流れ
最後に、前回(第2回)、今回(第3回)を通じて自治体経営に貢献するデジタル人材を攻守双方、安定的にマネジメントするために必要な観点を図表4に示す。なおここでいうマネジメントとは、確保・育成のみならず、戦略的な配置や人事評価と処遇も指す。
4 本論(第1回~第3回)のまとめ
本論全体を通じて、人事政策全般のあり方を見直すための観点を示すとともに攻めと守りのデジタル人材の人材類型を定め、これらデジタル人材全般のマネジメントとして実施すべき事項とその留意点を示した。人事担当部門に必要な視点として最も重要なのは、タレント・マネジメントの視点から職員の異動経歴やスキル、保有資格等の情報を蓄積し、それを活用して配置や継続的な人材育成を行ってきたか改めて確認するとともに、将来の需要を予測しながら今後の戦略的な確保・育成・配置・処遇の方策を検討することである。令和6年夏ごろには総務省が「デジタル人材・確保育成参考書(仮称)」を提示する予定である。こうした事例集を待ちつつ、前項に記載したような作業を前もって進めておくことを推奨する。
筆者は、生産年齢人口の急激な減少の一方で増加する行政需要に応えながら自治体経営を持続可能なものとするためには、情報システムへの投資を継続・拡大し住民・事業者との接点や行政の内部事務でさらに活用する必要があり、そのためにはその使い手である自治体職員がデジタル技術への理解度をさらに高め、自然体で使える必要があると考える。こうした認識は自治体DXやデジタル田園都市国家構想等、本稿執筆時点で国策として展開されている各種デジタル系政策が落ち着いた後も色褪せないだろう。
この意味で「守り」のデジタル人材、「攻め」のデジタル人材の双方について、将来にわたる安定的な人材マネジメントが不可欠となる。こうした前提を人事担当部門とDX担当部門・情報システム担当部門が共通認識として持つことが、将来にわたって持続可能な自治体経営のスタートラインとなると筆者は確信している。
*政策コンテンツ交流フォーラムは、株式会社日本政策総研、神戸シティ法律事務所が連携ハブとなり、国・地方自治体・民間企業のメンバーを架橋し、政策的課題を多面的に検討するネットワークです。本コラムを通じて、フォーラムにおける課題認識、政策創造の視点等をご紹介します。
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