【特別企画】妊産婦と子育てママのウェルビーイング向上のプログラムを推進 内閣府SIPで実装する「マムアップパーク (健幸スマイルスタジオ)」

NEW地方自治

2024.09.11

(『月刊ガバナンス』2024年9月号)

【特別企画】
妊産婦と子育てママのウェルビーイング向上のプログラムを推進
内閣府SIPで実装する「マムアップパーク (健幸スマイルスタジオ)」

新潟県見附市

筑波大学を中心とした産学官チームは、子育て世代の健幸状態(ウェルビーイング)の向上をめざし、「ママもまんなか」子育て支援プロジェクトを推進している。妊産婦と子育てママを対象に、運動・交流・相談を行う「マムアップパーク(健幸スマイルスタジオ)」を全国自治体で実施。また、子育てに寛容な地域社会醸成のための情報発信に取り組んでいる。新潟県見附市の取り組みを紹介する。

オンラインと対面で運動と交流

 新潟県見附市は、2023年9月から「みつけ子育てママ 健幸スマイルスタジオ」に取り組んでいる。妊産婦と子育てママのための運動・交流・相談が一体となったプログラムによる対面教室で、市民交流センター「ネーブルみつけ」内の子育て支援センターを会場に毎月1回、月曜日に実施。また、自宅での運動とともに全国の参加者と交流できるオンライン教室も月曜日~土曜日のほぼ毎日行われており、週2回まで参加できる。参加対象者は、市内在住・在学・在勤または里帰り出産等で一時的に市内に居住している、妊娠16週からおおむね6歳までの子どもがいるママ。参加費は月額550円。

 24年7月22日に開催した対面教室には、お試し無料体験の2人を含めて4人が参加。午前10時から約10分間の参加者自己紹介とプログラムの説明の後、講師の岡山せい子さん(理学療法士)の指導の下で腰痛・膝痛・肩こりの予防と骨盤ケア、インナーマッスルを鍛える体操や、両腕や足を伸ばすストレッチなどを約50分間行い、心身のリフレッシュとリラクゼーションを図った。10分間の休憩後、保健師による熱中症予防などの健康ミニ講座と、参加者同士で運動の感想や子育ての状況などを語り合う交流プログラムを約20分間行って、約90分間の全プログラムを終了した。

 参加者からは「子どもの抱っこなどで身体が痛いときもストレッチでかなり楽になります」「妊娠中に参加しましたが、講師の指導で安心して身体を動かせました。出産後も継続して参加しており、体調は良好です」「知り合いの輪が広がり、子育ての心強い支えになっています」などの声が寄せられている。


「健幸スマイルスタジオ」。ストレッチや体操だけでなく、子育ての状況・悩み等を共有する時間もある。

12自治体・2地域で展開

 「マムアップパーク(健幸スマイルスタジオ)」は、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の研究開発テーマのひとつである「地域住民の包摂性向上と妊婦・子育て女性のWell-being 最大化に向けた社会技術の開発」=通称「『ママもまんなか』子育て支援プロジェクト」の取り組みだ。筑波大学の久野譜也教授が内閣府SIPプログラムディレクターを務め、筑波大学を核とする産学官チームが子育て世代や女性のウェルビーイング向上のための研究開発を進めている。

 背景には、子育てにやさしいまちを掲げながら、その前提となる「ママ支援」の視点が欠落しており、また、育児最優先による母親の体力低下と心身の健康状態の悪化、ベビーカー難民等の子育てに対する社会の寛容性の低さなどがあった。筑波大学等による妊産婦への調査では、▼約半数が孤立を、6割が人との付き合いがないと感じている▼65%が子育て中はメンタルが悪化しても仕方ないと感じている▼約7割が運動不足――等の結果が出ている。

 その課題解決として、運動・交流・相談を行うプログラム「健幸スマイルスタジオ」を行っている。妊産婦や子育て女性の体力向上と心身のケアを図っていくのがねらいだ。対面の教室とともに、産後1年以内に8割のママが職場復帰している状況を踏まえ、参加しやすいようにオンラインの教室も開催している。

 ノウハウやマンパワーを要するので市町村単独の実施は簡単ではないが、全国共通のプログラムを提供し、オンラインを組み合わせることで実施可能な形にしたのが特徴。現在、見附市など全国12自治体および民間企業・NPOが主体となった2地域の計14地域で行っている。参加者からは「1回の運動で肩こりが良くなった」「出産前から運動できたので安産だった」などの声があり、9割以上が満足しているとの回答があった。

 プロジェクトは、孤立・孤独などのハイリスク者だけでなく幅広い層を対象にしたポピュレーションアプローチの視点で進められ、子育てが楽しい社会変革をめざしている。

全庁体制で事業を推進

 見附市は人口約4万人で、22年度の合計特殊出生率は1.28、23年度の出生数は231人となっている。「合計特殊出生率が低下傾向にある中、妊娠から育児まで切れ目のない子育て支援に力を入れており、子育て世帯に選ばれるまちをめざしています」と教育委員会こども課副主幹兼係長の佐藤敦子さんは話す。


▲新潟県見附市教育委員会こども課副主幹兼係長(保健師)の佐藤敦子さん。

 都市の将来像に「スマートウエルネスみつけ」を掲げ、健幸のまちづくりを推進しているのも特徴だ。

 「今回のプロジェクト導入は、スマートウエルネス推進における久野教授との縁で、22年秋に参加を打診されたのがきっかけ。妊産婦の健康や子育てへの関心を高める上で意義深いとの稲田亮市長の判断で取り組むことになりました」と企画調整課総合政策室係長の姉﨑晋悟さん。大学の関与によって妊産婦や女性の健幸やケアに関する最新の情報や知見、例えば、プレコンセプションケア(*)などの新しい概念やエビデンスが得られるほか、参加自治体と連携できるのもメリット。また、新規事業の導入には実施計画や予算化が必要だが、SIP事業として事業効果が見込まれ、財政負担がなかったことも事業化を後押ししたと話す。


▲新潟県見附市企画調整課総合政策室係長の姉﨑晋悟さん。

 事業推進に当たっては、所管部署となるこども課の佐藤さんなどがプロジェクトの考え方や進め方を学ぶ養成講座を筑波大学で受講。企画調整課も主体的に関わって全庁体制で進めている。佐藤さんは、「プロジェクトでは参加14自治体・地域が集まる定例会を開催しており、他自治体の取組状況などを把握できます。周知用のチラシやポスター、情報の提供などの手厚いサポートも受けています」と参加の利点を話す。

 参加者は登録が10人いるものの現在3人で、お試し参加を含めても5人にとどまっている。そのため、見附市公式LINE等で必要な層に周知して参加者の拡大を図っている。

 「仕事をしながら子育てしている女性が多いので、プログラムに参加する余裕がないようです。育休中に参加していても育休明けに退会する人が少なくないので、継続してもらえるようにフォローしています。その一環として、稲田市長が企業の交流会などで事業を説明し、企業や職場の理解・協力を働きかけています」と佐藤さん。子育てに対する地域や職場の寛容性向上に強い思いを持った稲田市長のリーダーシップの下で参加促進に力を入れていると話す。

 姉﨑さんも「無料体験会の実施など、まだまだ種を蒔いている段階ですが、参加者の満足度は高いので多くの方から気軽に参加してもらいたいです。対面教室の講師やボランティアに地域人材を活用できたのも大きな成果で、地域全体で妊産婦や子育て女性を応援する『ママもまんなか』社会実現の気運を高めるためにも、引き続き事業を推進したいと思います」と抱負を語っている。

 本プロジェクトのプロジェクトマネジャーで参加自治体を支援するつくばウエルネスリサーチ副社長(保健師)の塚尾晶子さんは、「参加者が増えなければ、ママの状況は改善しません。当事者のヘルスリテラシーや意欲を上げるため、PR技術も駆使して現状の打開をめざします。調査では、パートナーや家族の協力がないとママが参加できないこともわかりました。この壁を乗り越えていきたいと思います」と意気込む。

プレコンセプションケア:女性やカップルに将来の妊娠のための健康管理を提供すること

 

企画提供
(株)つくばウエルネスリサーチ
URL:https://www.twr.jp/
TEL:04-7197-2360
コーポレートサイトはこちら


「マムアップパークMOM UP PARK(健幸スマイルスタジオ)」
URL:https://www.mamamo-mannaka.jp/momup-park/
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