マイナンバー・ICTが拓くセキュアで豊かな社会
第1回 カフェ発 IT技術にIDは不可欠。なぜ、マイナンバーがいるの?
キャリア
2019.03.26
漢字はIT化の障壁
「そうか、ITでも同じことがおきるんですね。でも、それってマイナンバーとどういう関係があるんですか。だって、税金はe-TAXとか、既に電子化されているじゃないですか?」
「実は、電子化とマイナンバーは密接につながっているんだ。8年くらい前に年金記録問題がおきたのを覚えているかい?」(注1)
「中学のとき、社会科の先生が教えてくれたのを覚えています。ちゃんと年金の保険料を払っていたのに、その記録が残っていなかった、という話ですよね。
「それそれ。どうしてそんなことになったか覚えている?」
「たしか紙の記録を電子化するときに、処理を誤ってしまったんですよね。入力ミスとかが原因だったのかな?」
「もちろん、そういった人的ミスもたくさんあったみたいだけど、それ以上に、日本語の表記揺れも要因と言われているんだ。」
「表記の揺れ?」
「例えば、“さいとうさん”という漢字(注2)はたくさんあるよね。それぞれの“さいとうさん”が、いつも正しい漢字を書いていれば、それほど問題にはならないけれど、急いでいるときなんかは簡単な字を書くこともあるわけだ。しかも、昔は人が手作業でやっていたから、違う漢字の“さいとうさん”なんだと思ってしまう。そうすると、新たな“さいとうさん”ができちゃったり、別の“さいとうさん”が年金の保険料を払ったことになってしまったりしたんだ。」
「つまり、紙ベースの記録をもとにデータベース化したために、年金記録問題は起こってしまった。それが、国民一人一人につけられたマイナンバーを利用すれば、データベースの扱いは簡単になるし、ミスも起こらなくなるということね。今更だけど、転勤や転職、転居が多かった人は、かなりリスキーかも?」
「そうそう。電子化には、統一されたIDが大事なんだ。マイナンバーがあれば、IDの役割を果たせるからね。でも、それだけじゃないんだ。」(**)
*インフラストラクチャーとは
インフラストラクチャーとは、社会的経済基盤と社会的生産基盤とを形成するものの総称(三省堂、国語辞典)で、下水道、道路、鉄道など、人々が生活に欠かすことができないような事柄を総称していいます。IT技術も、人々の生活に欠かすことができない事柄になってきました。携帯電話網はもちろんのこと、日々利用しているインターネット網もインフラと言えるでしょう。
**日本の表記揺れのあれこれ
日本の表記揺れは、名前だけではありません。住所のバリエーションもたくさんあります。
- 中央区1-2-3
- 中央区一丁目二番地三号
- 中央区○○町1丁目2ー3
にもかかわらず、過去使われていた住基ネットには、基本4情報と呼ばれる「住所、氏名、生年月日、性別」だけが入っていました。この住基ネットのある人と年金データベースのある人が同一人物であるにもかかわらず違う人として登録されていた可能性があります。もちろん年金記録問題はこれだけが原因ではありませんが、唯一無二のIDなく、データの電子化を行う場合には、こういった問題が生じてしまいます。
マイナンバーは、日本国民全員に発行された唯一無二の番号なので、同一人物が複数のエントリーとして登録される危険性が大きく減ることになります。
マイナンバーが唯一無二であることの効用
カラン、カラン。
お店のドアがあき、時々来るママさん4人組がお店にはいってきた。
「いらっしゃいませ。お好きなお席どうぞ。絵美ちゃん、お冷や。」
客に向かって声をかけるマスターの横で、絵美はさっそくお水用のグラスに氷を入れ始めた。そして、メニューを脇にかかえると、水をいれたグラスをトレイに載せ、4人のところに注文をとりに向かった。
「カフェオレ2つとコーヒーフロート、それにレモンドロップです。」
絵美はカウンター越しに4人組のオーダーをマスターに伝えながらカウンターの中に入ってきた。
「それだけじゃないってなんですか?」
コーヒーフロート用のグラスに氷をいれながら、絵美は再び尋ねた。
「さっき説明したのは、表記揺れの問題で、たしかに統一表記のIDにより電子化すると、そういった問題がおきにくくなる。でも、絵美ちゃんもたくさんポイントカードを持っているだろう。しかも、同じ種類のカードを2枚持っていたりしない?つまり、同じ人でもIDをたくさん持つことができるので、たとえ表記揺れを直しても、未納問題の抜本的な解決にはならない可能性があるんだ。」
コーヒーサーバにネルをセットし、コーヒー粉をいれ終えたマスターは、横のドロップポットに手をかけながら言った。
「あ、そうか。日本には同姓同名の人が大勢いますからね。」
カウンター内の小さな冷蔵庫にある自家製アイスコーヒーのポットを出した絵美は、氷の入ったグラスに注ぎ、アイスクリームをいれるため、冷凍庫をあけながら思った。そのそばで、マスターは、サーバにお湯が注がれ、コーヒーの粉がゆったりとふくれているのを確認すると、今度は紅茶のポットをあたためお茶っ葉を入れ、お湯をそそいでいた。
「そのとおり。国民全員に1つの番号が無駄なく付与されない限り、問題は解決しないんだ。(注3)」
マスターは、コーヒーと暖かいミルクを混ぜながらコーヒーカップに無駄なく入れていく。絵美がアイスクリームをのせたグラスをトレイに載せる頃には、二つのカップにカフェオレが入り、ティーポットの紅茶と空のティーカップがカウンターに並んでいた。
それを見た絵美はカウンターから出て、カップをトレイに載せ、4人のテーブルに向かった。
「お待たせしました。」
テーブルにコーヒーとお茶を丁寧においた絵美は、空のトレイを持ってカウンターに戻ってきた。カウンター奥では、マスターがコーヒーサーバを流しにおくところだった。