時事問題の税法学
時事問題の税法学 第2回 マイナンバーでばれること
地方税・財政
2019.06.24
時事問題の税法学 第2回
マイナンバーでばれること
(『月刊 税』2015年12月号)
住民基本台帳カード
マイナンバーの通知カードの配付が始まった。政府は個人番号カードの普及に繋げたい意向のようであるが、個人番号カードの取得に消極的な人も多いようだ。
マイナンバー制度の母体ともいえる住民基本台帳ネットワークシステムの導入に際しては侃々諤々の議論があり、システムへの接続を拒否した自治体もあったが、住民基本台帳カード(以下「住基カード」という)の普及率はおよそ5%だという。電子申告の導入当初、5千円の税額控除が宣伝されたため、住基カードを取得して電子申告にチャレンジした人も多かったと思っていたので意外な感じもする。
実を言えば、還暦記念に写真付の住基カードを作ったが、提示する機会は少ない。普及していない以上、住基カードの認知と証明力に欠ける。今年1月、自宅と接する市有地との境界確認のために、本人確認のための写真付きの書類の提示を求められた。早速、住基カードを見せたら、市職員に住基カードを初めて見たと言われてしまった。普及率5%という数字も今となっては納得できる。
個人番号カードの取得により行政手続の簡便化を政府は喧伝しているが、戸籍謄本や住民票が必要になることが、そう頻繁にあるわけでもないので、現状では説得力に欠ける。
マイナンバーと副業
このマイナンバー導入に関してはさまざまな情報が流布されている。なかでも深刻に受け止められているのが、「副業がばれる」という話題である。
「ばれる」ということは、税務署に、とくに報酬等の支払調書により副収入を捕捉されやすくなることであり、また住民税の特別徴収事務を通じて副業が主たる勤務先に露見するという2つの見方であろう。もっとも現行でも名寄せなどで、いわばそのリスクに変わりはない。しかし今後は、源泉徴収義務者が住所・氏名・マイナンバーを確認するから、仮名や偽名による行為が淘汰される可能性は高い。名寄せの正確さが増すことになる。その結果、夜の街で働く女性が減るのではないかと危惧する声を耳にする。
「ばれる」相手は、税務署より勤務先を重視する傾向にある。その場合に税務の専門家による説明が少ないことから、誤解が生じる。確かに副収入が給与所得の場合は住民税の合算徴収は避けられないが、夜の街で働く女性たちは、ホステス報酬として源泉徴収の対象である。つまり事業所得者として確定申告をすることになるから、申告書の「住民税に関する事項」欄において、給与所得以外の所得に係る住民税を普通徴収にマルをすれば、少なくとも勤務先には副業の存在はばれない。そこまでの解説をしなければ混乱する。
もちろん納税義務を履行する見地から、確定申告を回避することはできない。しかし課題は、確定申告とは源泉徴収税額を精算する手続であり、事業所得の計算上、収入=所得ではないことを、女性たちに誰が説明するかである。報酬の支払において、衣装代、送迎代、メイク代、遅刻のペナルティなど各種の費用を女性たちに負担させている場合もあるようであるから、それらの経費性も含めた説明責任は、やはり源泉徴収義務者にあると言うべきであろう。
源泉税着服事件
そうは言っても東京銀座の高級クラブを経営する法人と女性経営者が、源泉徴収税額約1億7千万円を着服して告発された事件が大きく報道され(例・読売新聞平成26年4月24日夕刊)、また源泉徴収義務違反が問われた刑事事件において、「社長」の肩書きを持つ者が源泉徴収義務者に該当しないとされた大阪地判平成26年11月10日などを踏まえると、税務上は、ブラックな業界の経営者は当てにはできない。やはり自主申告を標榜する申告納税制度の下では、女性たちの自覚を待つしかない。
こんな話を教室でしたところ、授業終了後、支払明細を手にした女子学生から相談を受けた。なかなかの高額収入であるのに源泉徴収税額の記載がない。総支給額の10%を一律控除するという不明瞭な計算があるなど、税務上、問題がある。本人には、ホステス課税を縷々説示して、確定申告を慫慂したことは言うまでもない。これも税理士としての職責であり、まさしく租税教育の一環といえる。ちなみにスタッフによればその店は有名な高級店のようで、クライアントも利用しているらしい。