時事問題の税法学 第17回 住民サービスと守秘義務

NEW地方自治

2019.07.23

時事問題の税法学 第17回

住民サービスと守秘義務
『月刊 税』2017年3月号

なりすましによる個人情報聞き出し

 逗子ストーカー殺人事件に関して、逗子市納税課職員が個人情報を漏らしたことに対する損害賠償請求訴訟が始まっている。

 平成24年11月6日、神奈川県逗子市で、主婦が自宅で元交際相手の男に刺殺され、男は現場で自殺した事件だが、この男が依頼した探偵が、逗子市から被害者の住所を聞き出していたことが判明し、波紋が広がった。

 従来から報道されていたことは、納税課職員が、被害者の夫になりすまして電話をかけてきた探偵業者に対し、ストーカー被害者として第三者への個人情報の閲覧を制限するよう市に申請されていたにもかかわらず、住所を漏らしたとされている。

 第1回口頭弁論では、逗子市側は、情報漏洩によるプライバシー侵害を認めたが、漏洩と因果関係のある損害は、被害者の夫が主張するほど大きいとは言い難いと主張し、争う姿勢を示したと報じられた(読売新聞平成28年12月26日夕刊)。

 この事件では、被害者の夫をかたった者が、自分の妻の住所を納税課職員から聞き出したという極めて陳腐な話が報道され続けてきた。いままで電話のやりとりや回答の経緯は明らかにされて来なかった。そのため裁判所の事実認定が示される判決を待つまでは、納税課職員の言動を軽々に論ずることは慎まなければならない。その意味でこの訴訟には大きな意義がある。

 この事件では、すでに偽計業務妨害などの罪で懲役2年6か月、執行猶予5年の有罪判決を受けた探偵業者が、捜査の過程で個人情報を調査対象者の家族などになりすまして、全国の自治体の税務課などに電話をして聞き出していたことが発覚している(読売新聞平成25年1月8日夕刊)。

 探偵業者は、「家族宛に心当たりのない督促状が来た」「家族を新たに国民健康保険に加入させる手続のために登録内容を確認したい」などと、問い合わせや苦情を装いながら、担当職員とのやりとりの中で、住所や名前、家族構成などの個人情報を聞き出していたらしい。

問われる情報管理対策

 興味深いことは、捜査関係者が、この探偵業者が税金を徴収する立場の職員は、個人情報を扱う一方で住民への対応が丁寧になる傾向があると考え、狙いを定めていたとみていたことだ。その魂胆はともかくこの見方は、地方税務行政のあり方としては、望ましい評価といえる。

 地方自治体、とくに市町村の仕事の多くは、地域住民に対するサービスに終始することで成り立っていると言っても過言ではない。しかし、一般住民にとって、課税権の行使が伴う税務行政は、唯一、強権的な業務と感じる内容である。だからこそ税務行政の窓口では、納税者の視点に立って、丁寧な対応と親切な指導が不可欠になる。したがってこの探偵業者の言い分に及び腰になる必要はない。

 ただ、税務行政が扱う税情報は、住民基本台帳に記載のデータに課税対象となる収入(所得)と資産のデータが加わった極めて重大な情報であることを担当職員は認識しなければならない。

 税務においても、マイナンバーの導入が本格的に始まった。マイナンバー制度の確立後は、税務行政以外の領域で勤務する自治体職員も、データにアクセスできる機会が増えるのだろうか。

 折しも一人暮らしの若い女性を探し、部屋に侵入し、強制わいせつ罪で起訴されている東京都中野区の元臨時職員が、勤務中に同区の住民情報システムに接続し、多数の女性の個人情報を繰り返し、盗み見ていたことを各紙が報道した。外部からの接触に対する情報管理より内部対策を講じることが先決かもしれない。

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