時事問題の税法学
時事問題の税法学 第18回 養子縁組考
地方自治
2019.07.23
時事問題の税法学 第18回
養子縁組考
(『月刊 税』2017年4月号)
相続税節税
サークルの新入生歓迎会で、同級生の女性から、「税金対策でお祖父さんと養子縁組している」と聞かされた。札幌五輪、横井庄一さんの帰国、浅間山荘事件と続き、沖縄返還がなされた初夏の頃だったと思う。
東京近郊の私鉄沿線では、農家から不動産経営に転身した第一世代の相続税対策が検討されていた時代でもあった。その頃は、まさか10年後には税理士を開業し、15年後には大学で税法を講じることなど夢にも思っていなかったので、税金対策と言われても、変な家族だと感じていた(その場でしきりに感心していた同じく私鉄沿線第三世代の同級生も税理士になっている)。
本誌2月号で、すでに書いたが、相続税の計算上、基礎控除の額は税負担の軽減につながるが、金額は法定相続人の数により増加する。つまり相続人の数が多ければ、相続税が節税になるから、孫、嫁や婿とまで養子縁組をして、基礎控除の額を膨らます手法は、相続税対策の基本とされていた。
もっともそんなことは誰でも考えつく方法であるから、当然、封じ込まれた。昭和63年度の税制改正で、基礎控除の額の計算上、相続人の数に算入できる養子の数は、実子がいる場合には1名、実子がいない場合には2名までに限定された。税務の取扱いでも、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる養子は認められていない(相基通632)。実子がいるのに養子を迎えることは、相続税を不当に減少させるという見解である。
養子縁組で節税
この改正について、民法の手続きを経て成立した養子縁組の効果が相続税法で否定されることに異論をはさむ見解も少なからずみられたが、現在に至っている。ところが、節税目的の養子縁組は有効であり、当事者の意思を重視するという最高裁の判断が出され、話題となった。
平成25年に82歳で亡くなった男性は亡くなる前年、当時1歳だった長男の息子である孫と縁組をした。その結果、男性の法定相続人は長男と娘2人の3人だったが、孫との縁組が有効なら4人となった。男性の死後、娘2人が「縁組は無効」と提訴した事案である。
第1審東京家裁は、男性本人が縁組届を作成したとして有効と認定したが、第2審東京高裁は「税理士が勧めた相続税対策にすぎず、男性は孫との間に真実の親子関係を創設する意思はなかった」として無効と判断していた。つまり、相続税対策で孫と結んだ養子縁組は有効かが争点となった。
最高裁平成29年1月31日判決は、相続税の節税のために養子縁組をすることは、節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものであり、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないと判示した。節税対策の養子縁組について、お墨付きがもらえることになった。次は、養子縁組の効果を相続税法で規制することに疑問を呈した訴訟がされないか期待したい。
週刊文春に連載中の、みうらじゅん氏のコラム「人生エロエロ」では、毎回、書き出しは、「人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた」ではじまる。考えてみれば、人生2分の1以上、節税のことを考えてきた。同級生の女性も財産管理に忙しいようだ。