時事問題の税法学 第19回 寡婦と寡夫の差別待遇

NEW地方自治

2019.07.23

時事問題の税法学 第19回

寡婦と寡夫の差別待遇
『月刊 税』2017年5月号

寡夫控除は違憲

 「夫の場合も寡夫と言うんだ」と直属の上司がつぶやいた。所得税における所得控除のひとつである寡婦控除に寡夫控除が追加された、昭和56年度の税制改正のときである。当時は、税理士登録に必要な2年間の実務経験習得中、いわゆるインターン時代であり、「寡婦」という言葉もこの業界に入って覚えたぐらいだから、上司の言葉を理解するのに時間がかかった。

 それから10年が過ぎた頃、寡夫控除が違憲だという訴訟が提起された。寡夫控除には寡婦控除にはない所得制限があり、男女平等をうたった憲法第14条の平等原則に違反するという内容であった。税法学における租税公平主義の論理として、大学の講義で紹介した記憶がある。

 1審福岡地判平成6年12月26日は、所得税法上、寡婦控除と寡夫控除では控除を受ける要件にはその主張のように差異が設けられているが、これは、寡夫の場合は寡婦と異なって、通常は既に職業を有しており、引き続き事業を継続したり、勤務するのが普通と認められ、また、高額の収入を得ている者も多い等両者の間に租税負担能力の違いが存するので、これらの諸事情を考慮した結果と解される。したがって、この区別が著しく不合理であることが明らかとは到底いえず、憲法第14条に何ら反していない、と判示した。この判断は控訴審、上告審と維持され確定された。経済力=担税力であり、経済的差別は合理性があるという結論となった。

 確かに現在でも男女の賃金格差は激しい。最新の民間給与統計(平成27年分・国税庁HP)でも、平均給与は男性521万円、女性276万円となっているから、判旨の指摘は、実情に合っている。もっともこの判決には、男女の賃金格差というわが国の状況を司法が容認するような判断はけしからんという論調も少なくない。

年金の寡婦寡夫差別

 平成22年7月まで児童福祉手当は父子家庭には給付されなかったが、父子家庭救済への施策は地方自治体の方が早かった。平成14年7月に栃木県鹿沼市が導入した児童育成手当は、その嚆矢とされる制度といえる。最近では母子家庭、父子家庭というより、ひとり親家庭という表現に変わっているが、やはり母子家庭の経済事情が悪いことは否定できない。

 ところが、年金分野における寡婦・寡夫差別が話題となった。3月21日に遺族補償年金の男女差規定について、最高裁は、合憲とする結論を出した。原告の男性は、公立中学の教員だった妻を亡くしたため、地方公務員災害補償基金に遺族補償年金の支給を申請したところ、遺族補償年金の受給要件は夫の場合は、55歳以上と制限されているため、当時、原告は51歳だったことから、支給されなかった。妻は年齢を問わないのに夫の場合は年齢制限した地方公務員災害補償法の規定が、法の下の平等を定めた憲法に違反するかどうかが争われていた。1審大阪地判平成25年11月25日は、配偶者の性別で受給権の有無を差別することは合理性がないとして、違憲と判断したが、控訴審大阪高判平成27年6月19日は、男女の賃金格差を下に区別の合理性を認め、合憲としたため、逆転敗訴した原告が上告していた。

 同じ寡婦・寡夫格差論議であるが、税負担の軽減となる所得控除と非課税対象となる遺族補償年金とを一律に論じることは難しいものがある。ただ1審判決が、違憲理由として「終身雇用年功序列の賃金体系から、成果主義賃金体系への移行、男性就業者も含めた急激な非正規雇用化、家族についての考え方の変化等により、夫が一家の働き手として働く性別役割分業に根ざしたモデルは実態とかけ離れてきている」と指摘していた。本事案のように公務員が主婦である家庭なら夫の経済的地位は変動しているかもしれないが、一般家庭で、そこまで変革しているか、いささか疑問があった。

 少なくとも寡婦・寡夫控除という所得控除に比べ、年金受給には、過去に対する自己責任の占める比率も大きい。そのなかには、男女賃金格差の恩恵を享受してきた夫としての責任も含まれる。

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