政策課題への一考察 第84回 地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しの在り方(上) ―アナログ規制の点検・見直しと 押印見直しとの異同

地方自治

2023.06.20

※2023年3月時点の内容です。

政策課題への一考察 第84回 
地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しの在り方(上)
―アナログ規制の点検・見直しと 押印見直しとの異同

株式会社日本政策総研理事長(兼)取締役 (兼)東京大学先端科学技術研究センター客員研究員 
若生幸也


「地方財務」2023年4月号

 

はじめに

 国ではデジタル臨時行政調査会を通じて、デジタル原則に基づくアナログ規制の点検・見直しを進めている。このデジタル原則に基づくアナログ規制の点検・見直しとは、約4万以上の法令に規定されている①目視、②実地監査、③定期検査・点検、④常駐・専任、⑤対面講習、⑥書面掲示、⑦往訪閲覧・縦覧に係るアナログ規制について、ドローン、センサー、オンライン会議システムなどデジタル技術を活用した規制対応も可能とする横断的な点検・見直しを図るものである。

 これらのアナログ規制見直し結果は法令改正を通じて、地方公共団体にも大きな影響を及ぼす。日本の行政制度は同一対象に国・広域自治体・基礎自治体の異なるレイヤーの行政機関が関与する仕組みである。このため、国のアナログ規制見直しを進めたとしても、各団体の例規で同一対象に詳細な項目を規制している場合もある。同時並行で規制見直しを進めなければ、規制見直しの効果は広く民間事業者や国民に帰着し得ない。今回の取組で最も難しいと思われる制度設計が地方公共団体に同様の趣旨のアナログ規制の点検・見直しを促すことである。

 この問題意識は国も持っており、総務省「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】」でも「デジタル原則に基づく条例等の規制の点検・見直し」という項目を追記している。デジタル臨時行政調査会事務局は2022年11月18日に「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル」(以下「アナログ規制の点検・見直しマニュアル」という。)を公表している。

 これまで筆者は幅広く規制改革の取組に関わってきた。筆者からみても、本マニュアルは現時点で整理できるアナログ規制見直しを整理できており高品質と評価する。本マニュアルを参考に、地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しを進めることが期待される。一方、地方公共団体関係者と話していると、「マニュアルをみても推進体制の構築やあるべき具体的推進手法がわからない」との声も多く聞く。この理由はマニュアルが高品質でも記載されている概念が難しく、これまでの規制見直しとは異なる思考を求めることにある。そこで今号と次号ではマニュアルを踏まえつつも筆者の観点も含め具体的に推進するための推進体制や具体的推進手法の在り方を概説したい。

 

1 アナログ規制の点検・見直しと押印見直しとの類似点

 「アナログ規制の点検・見直しマニュアル」をみると、「地方公共団体における押印見直しマニュアル」(内閣府、2020年12月18日公表)(以下「押印見直しマニュアル」という。)と構成が類似していることに勘の良い読者は気づくはずである。実際に見比べてみると、以下図表のとおりとなる。

 第2章では国で進めた取組手法を明示し、第3章で地方公共団体での取組推進手法をプロセスごとに整理している(各プロセスのSTEPの分類は異なるが基本的な流れは同一。)。国・地方公共団体を通じて押印見直しはうまく作動した制度見直しであり、この押印見直しマニュアルの構成をアナログ規制の点検・見直しマニュアルでも踏襲することは理にかなっている。

 

2 アナログ規制の点検・見直しと押印見直しとの相違点

 一方、「アナログ規制の点検・見直しマニュアル」と「押印見直しマニュアル」で大きく異なる点がある。それは①見直し対象の明確さと②見直し基準の明確さである。

 ① 見直し対象の明確さという観点からは、「押印見直し」は押印を規定している例規上の条項や慣行、それらに基づく手続を洗い出すことで充足する。一方、「アナログ規制の点検・見直し」はそもそもアナログ規制を洗い出すために例規システムでキーワードを検索し、横断的に対象条項・手続を特定する難しさが付加される。その際に、国で進められているアナログ規制の点検・見直しリストは参考になるものの、それ以外の広域自治体や各団体の独自規制を洗い出すための手法が必要となる。

 ② 見直し基準の明確さという観点からは、「押印見直し」は「押印を求める趣旨の合理性の有無」として「押印を求める3つの趣旨」である本人確認・文書作成の真意確認・文書内容の真正性の担保、「押印の効力」である登記印・登録印(照合有無)から認印まで押印の効力の濃淡を整理できる。また「押印を求める趣旨の代替手段の有無」として、オンライン申請、メール申請、窓口・郵送申請の見直し方法まで明記されている。一方、「アナログ規制の点検・見直し」は仮に見直すとしてもデジタル技術活用による代替手段の構築が必要となるため、デジタル技術で既存の規制運用基準を担保またはそれを上回ることが求められるし、何よりそのデジタル技術で何が可能かを理解していなければならない難しさが付加される。その際に、国で進められているアナログ規制の点検・見直しリストは参考になるものの、それ以外の地方公共団体の独自規制の見直しは地方公共団体独自で整理することが必要となる。

 実際に、デジタル庁が「地方公共団体向けマニュアルに関する説明会」を2022年11月18日から22日にかけて全国を3ブロック約600団体ごと3回に分けて各都道府県・市区町村の企画部門または行政改革部門担当者に対して説明会を実施したが、参加団体は合計571団(注)体となっている。この説明会での主な意見・質問として「アナログ規制の洗い出し作業に苦労している。デジ臨事務局において、点検の必要があるアナログ規制を含む条例等を整理・提供いただけないか。」「条例委任を行っている国の法令を一覧で整理していただけないか。」「技術カタログについても情報提供を御願いしたい。」などの意見が出た。条例等の整理・提供や条例委任を行っている国の法令一覧は、「見直し事例の情報収集を進め、全国への情報共有を検討」するとの回答があった。また技術カタログについては「『対面講習』について昨年10月末にデジタル庁HPで公開。今後も最新の取組状況を発信」との回答があった。

 上述した「①見直し対象の明確さ」及び「②見直し基準の明確さ」がアナログ規制の点検・見直しでは限定的であるため、高品質なマニュアルがあったとしても、地方公共団体も手探りで進めている状況がわかる。

 このように難易度の高い取組を地方公共団体とともに進めるためには、デジタル庁と各地方公共団体をつないでの情報発信や意見交換、各地方公共団体間での情報共有を図るデジタル改革共創プラットフォーム(共創PF)の活用が不可欠となる。実際に共創PF上にデジタル臨時行政調査会のチャンネルを作成し、デジタル庁から団体への情報発信やデジタル庁と団体との意見交換、団体間の情報共有を図るとしている。現在の共創PFは主に情報政策部門が中心に活用を進めているが、アナログ規制の点検・見直しは規制対応に“デジタル”という出口を作るものでありながら、広く地方公共団体の規制改革を進めるためのものである。このため、地方公共団体の行政改革・規制改革を推進する主体も積極的に関与する必要があろう。

 

おわりに

 今号では、地方公共団体のアナログ規制の点検・見直しと押印見直しとの異同を双方のマニュアルを見比べながら整理した。先にもみたとおり、マニュアル自体の構成は類似している。また各推進プロセスのSTEPの分類は異なるが基本的な流れは同一で、国・地方公共団体を通じて押印見直しはうまく作動した制度見直しを生かそうとする姿がみて取れる。

 一方、地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しは「①見直し対象の明確さ」及び「②見直し基準の明確さ」が限定的であるため、高品質なマニュアルがあったとしても、押印見直しに比べ難易度は格段に上昇する。アナログ規制の点検・見直しには様々な論点があるが、次号では推進体制の在り方及び具体的推進手法の在り方についてポイントを絞って整理したい。

(注)デジタル臨時行政調査会作業部会(第16回)「資料4地方公共団体の取組支援について」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0196dc94-0101-4063-8d6e-a8af88589d2c/3a17a6b3/20221130_meeting_administrative_research_working_group_outline_09.pdf

〔参考文献〕
・三村賢伍・本庄登「デジタル原則に照らした規制の見直し」『行政&情 報システム』2022年10月、行政情報システム研究所。
・若生幸也「地方自治体における規制改革の要点―地方版規制改革会議を 事例に」『地方財務』2018年12月、ぎょうせい。
・若生幸也「世界標準の規制改革に向けた日本の課題」『若生幸也の眼』 2022年8月、日本政策総研。https://j-pri.co.jp/report/848.html

 

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