条例化の関門 その9 条例起案➀ 

キャリア

2023.06.21

★本記事のポイント★
1 検討した内容を条文の形にする条例起案は、条例化の最後の関門で、この関門をクリアするためには、法制執務、立法技術などの書物により得た知識を基に、実際に条例起案の経験を積む必要がある。 2 政策を条例にするためには、政策の内容である目的と手段を、条例の構成要素である目的規定、実体規定、実効性確保規定などにしていくことで、法令の規定を参考に表現することになる。 3 プール等取締条例を例として、許可制の構成要素である許可基準について、条例化する政策に相応しい具体的な内容を考える過程を示す。

 

1.条例起案の難しさ

 前回までで、政策の条例化の内容的な検討は進んだかもしれませんが、条例を起案するためには、検討した内容を条文の形にする必要があります。筆者は、立法学の講義をした際、立法課題について、内容面の考えはしっかりしているものの、いざ法令の条文を書くとなると苦労する姿を見てきました。短期間の講義でそう簡単に条文が書けるとは思いませんので、当然のことかもしれませんが、頭の中に考えがあることと、それを条文の形にして表現することは別のことだと思いました。したがって、条例起案は、ある意味、条例化の最後の関門かもしれません。この関門をクリアするためには、法制執務、立法技術などの書物により得た知識を基に、実際に条例起案の経験を積む必要があります。
 ここでは、政策を条例化する際の制度設計の手順などをお示しして、政策形成と条例起案の橋渡しをすることにより、皆さんが条例起案の関門をクリアすることのお手伝いができればと思います。

 

2.政策形成と条例起案の橋渡し

 政策を条例にするためには、政策の内容である目的と手段を、条例の構成要素である目的規定、実体規定(本則の中心的な規定)、実効性確保規定などにしていくことです。
 このうち、目的規定については、政策の目的を法令の目的規定を参考にして、表現することになるでしょう。法令の目的規定には、直接的な目的だけを掲げるものから、法令を制定する動機、目的達成の手段、直接的な目的、高次な目的を掲げるものなど様々なパターンがあります。したがって、政策が形成された経緯、政策の目的などを基に目的規定を表現することになるでしょう。
 次に、実体規定については、政策の手段を法令の実体規定を参考にして、表現することになるでしょう。法令の実体規定は、様々なものがありますが、ある程度パターンのようなものがあります。例えば、事業規制などに用いられる許可制については、申請、基準、条件、許可に伴う義務、監督などに関する規定から構成されています。これは法制執務、立法技術などの書物で詳しく解説されていますので、皆さんもご存知だろうと思います。
 前作の第15回で、政策手段の基本的な型である手法について解説しました。この手法が、法令ではどのように規定されているかを理解すれば、手法の構成・内容の理解が進むとともに、条例の案文のイメージが浮かび案文を起案しやすくなると考えます。いわば、政策から条例への橋渡しの役割を担うのではないでしょうか。
 そして、実体規定のパターンの理解を前提にしつつ、条例化する政策の手段に相応しい具体的な内容を考えていくことになります。
 次に、実体規定の内容が決まれば、その実体規定がうまく機能するような実効性確保規定を考えます。法令における実効性確保規定は、罰則、許認可等の取消し、是正命令などある程度種類が限定されています。決められた実体規定と同種の実体規定がある法令には、どのような実効性確保規定があるかを調査して、考えていくことになります。

 

3.事例で考えましょう

 <事例>
 次に掲げるのは、東京都のプール等取締条例の規定の一部ですが、この条例でプール等の経営を許可制にしている理由と許可基準について検討しましょう。

(目的)
第一条 この条例は、市町村・・・の存する区域におけるプール及び水泳場(以下「プール等」という。)の構造及び維持管理等について必要な規制を行うことにより、公衆衛生の向上及び安全の確保を図ることを目的とする。
(許可等)
第三条 プール等を経営しようとする者は、東京都規則(以下「規則」という。)で定めるところにより、知事の許可を受けなければならない。・・・ 2 (略)
3 知事は、第一項の規定により許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、許可をしなければならない。  一 貯水槽は、不浸透性材料を用い、給排水及び清掃が容易にでき、かつ、周囲から汚水が流入しない構造とし、オーバーフロー溝を設けること。また、水泳者の見やすい場所に水深を明示すること。(以下略)

 <考察>
 以下では、許可制の構成要素である許可基準について、条例化する政策に相応しい具体的な内容を考える過程を示します。
(1)許可制にしている理由
 プール等を経営することは本来自由かもしれませんが、プール等が不衛生であったり、安全に問題があったりするならば、利用者の健康等を害する危険性があるため、条例であらかじめプール等の経営を一般的に禁止しておき、衛生状態や安全の確保ができていることを確認したうえで、プール等の経営を個別に認めるということが、許可制にしている理由です。そして、その理由に基づき目的規定が定められています。
(2)許可基準
 前作の第16回で、手段の具体化に関連して、許可基準を決める際には、その政策の目的が達成できるような基準を定める必要があり、政策の目的の達成とは無関係な許可基準を定めることは過剰な規制となるとしました。また、許可は、本来の自由を回復するものですから、行政機関の自由な裁量で許可を拒むことはできず、許可基準を明確に規定して、行政機関の裁量を制限することが必要だとされています。
 許可基準には、事業等を適切に行うことができるために必要な積極的な基準と、事業に関して不適切な行為をするおそれがある者を排除する消極的な基準(欠格事由)がありますが、いずれにしても、目的の達成のため必要なものでなければなりません。
 本条例の目的は、第1条にある「公衆衛生の向上及び安全の確保を図ること」で、そのためにプール等の構造及び維持管理等について必要な規制を行うことですので、許可基準を定める際には、この目的の達成のために必要な基準を定める必要があります。
 専門知識が必要となりますが、ここでは、プール等に関して公衆衛生や安全の確保を図るために必要な基準を思い浮かべてください。そうすると、プール等の水質を衛生的なものに保つことや、プール等で溺れたり、プールサイドで滑ったりすることを防ぐことなどが思い浮かびます。そこから、専門知識を活用して、貯水槽やプールサイドの構造、監視体制などについて基準を定めていくことになるでしょう。

 

1 例えば、法制執務研究会編『ワークブック法制執務(第2版)』(ぎょうせい、2018年)、石毛正純『法制執務詳解(新版Ⅲ)』(ぎょうせい、2020年)、礒崎陽輔『分かりやすい法律・条例の書き方(改訂版(増補2))』(ぎょうせい、2020年)などがあります。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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