感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第7回 ウイルスへの対応を、正社員と非正規社員、パート社員とで差異を設けることは可能?

NEWキャリア

2020.03.19

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

ウイルスへの対応を、正社員と非正規社員、パート社員とで差異を設けることは可能?

(弁護士 堀内 聡)

【Q7】

ウイルスへの対応を、正社員と非正規社員、パート社員とで差異を設けることは可能でしょうか。たとえば、コロナウイルスの感染拡大に伴い、正社員にのみテレワークを認め、非正規社員・パート社員にはテレワークを認めず必ず出勤させる、ということが可能でしょうか。

【A】

雇用形態が異なる従業員のウイルスへの対応について、1.休業手当・年次有給休暇、2.有給の病気休暇、3.テレワークの可否に大別し、以下それぞれ解説していきます。

1.休業手当・年次有給休暇

 労働基準法26条の休業手当は、労働基準法上の「労働者」であれば支給する必要がありますので、正社員かどうかにかかわらず、支給する必要があります。
 有給休暇についても、同様です。

2.有給の病気休暇

(1) 差別的取扱いの禁止
 企業においては、新型コロナウイルスに感染した従業員を欠勤させる場合に、年次有給休暇とは異なる有給の病気休暇制度を設けることもありうると思われます。
 このような病気休暇の有無や内容についての正社員と非正規社員、パート社員との待遇差については、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(短時間・有期雇用労働法)8条、9条に定めがあります。
 短時間・有期雇用労働法9条は、職務内容や配置の変更の範囲が正社員と同一の非正規社員・パート社員の待遇について、差別的取扱いを禁止しています。
 同法8条は、職務内容や配置の変更の範囲が正社員と異なる非正規社員・パート社員の待遇について、不合理と認められる相違を設けてはならない旨を定めています。

(2)  取扱いの相違が認められる場合
 これらの規定を受けて、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年12月28日厚生労働省告示430号。いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」)が策定されています
 職務内容や配置の変更の範囲が正社員と同一である非正規社員・パート社員については、差別的取扱いが禁止されることから、有給の特別休暇について相違を設けることは原則としてできないと考えられます(短時間・有期雇用労働法9条)。
 他方で、職務内容や配置の変更の範囲が非正規社員と異なる非正規社員・パート社員については、より個別的な検討が必要であると考えます。
 日本郵便(休職)事件・東京高等裁判所平成30年10月25日判決(労働経済判例速報2386号3頁)では、勤続10年未満の正社員の私傷病につき90日以内の有給の病気休暇を付与する一方、期間雇用社員について、10日以内の無給の病気休暇のみが与えられている事案において、裁判所は、「病気休暇は、労働者の健康保持のため、私傷病によって勤務することができない場合に療養に専念させるための制度」としたうえで、正社員の病気休暇を有給としている趣旨は、「正社員として継続して就労してきたことに対する評価の観点、今後も長期にわたって就労を検討することによる貢献を期待し、有為な人材の確保、定着を図る観点、正社員の生活保障を図る観点による」としています。
 他方で、期間雇用社員について、「長期間継続した雇用が当然に想定されるものではなく、上記の継続して就労してきたことに対する評価の観点、有為な人材の確保、定着を図るという観点が直ちに当てはまるとはいえない」ことや、社会保険に加入している期間雇用社員には一定の要件下で傷病手当金を受給することができること等から、正社員と期間雇用社員の病気休暇制度の有無という相違は不合理と認められるものではないと判断しています。
 正社員と非正規社員・パート社員の職務内容や配置の変更の範囲の相違の内容・程度にもよりますが、上記の裁判例からすれば、正社員にのみ有給の病気休暇を与えるという制度も、一律に禁止されるものではないと考えられます。

(3) 自主的に休業する従業員の場合
 また、現に新型コロナウイルスに感染したわけではないものの、感染拡大防止の観点から自主的に休業する従業員に対しても、有給の特別休暇を付与することもありうるところです。
 このような場合も、正社員と非正規社員・パート社員の職務内容や配置の変更の範囲の相違の内容・程度によっては、正社員にのみ有給の特別休暇を与えることも、一律に禁止されるものではないと考えられます。

3.テレワークの可否

 本記事の冒頭の「たとえば、コロナウイルスの感染拡大に伴い、正社員にのみテレワークを認め、非正規社員・パート社員にはテレワークを認めず必ず出勤させる、ということが可能でしょうか」という疑問について以下解説していきます。
 この点、正社員の行う業務は事業所外において可能であるものの、非正規社員・パート社員の行う業務は事業所でなければできない、といった場合であれば、物理的に、非正規社員・パート社員にテレワークをさせることができません。
 このような場合、テレワークの可否について相違を設けることは、短時間・有期雇用労働者であることを「理由として」相違を設けているのではない、あるいは、職務内容の相違に応じた相違である、と考えられることから、このような相違は、短時間・有期雇用労働法9条に違反するものではないと考えられます。
 他方で、正社員でも、非正規社員・パート社員でも、物理的にテレワークが可能であるにもかかわらず、正社員にのみテレワークを認める、ということは、雇用形態が異なる、という理由以外の説明が通常困難と思われるため、このような相違は、不合理な相違であって許されない可能性があると思われます
 雇用形態が異なるからといった形式的な理由でテレワークの可否を決するのではなく、各労働者の業務内容等に応じて、検討する必要があります。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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