【DX推進事例】 「議会答弁検討システム」でペーパレス化と事務負担軽減 信太 秀昭(福島市政策調整部 情報政策監)
ICT
2021.07.30
目次
福島市DX推進プロジェクトチーム
多くの自治体がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていますが、福島市でもDX推進のため、部局を横断した構成でプロジェクトチームが立ち上がりました。
チームでDXを考える際、職員の事務負担軽減につながることを重要視しています。事務負担を軽減し、職員でなければできない業務に注力するマンパワーを生み、住民のQOL(クオリティオブライフ)向上につながるよう取り組みを進めています。
チーム発足前の話になりますが、事務負担軽減のため本市で開発した議会の「答弁検討システム」を紹介します。
議会答弁作成はマンパワー頼み
質問通告制をとる自治体の議会答弁を作成する業務の流れを大きく捉えると、①質問の集約(質問取り)、②各部局で答弁を作成、③組織幹部が答弁内容を確認、といった流れでしょうか。
本市でも複数の議員から、複数の質問が出され、複数の部局で答弁を作成し、当局側答弁としてひとつにまとめる。議会開催ごとに、議員からの質問や答弁原稿などの紙が本庁だけでなく出先機関との間にも飛び交い、職員が走りまわりながら答弁をまとめる。そんな作業に多くのマンパワーを要していました。
議会のペーパレス化にキャッチアップ
去る平成30年、市議会議員の間でタブレット導入とペーパレス化の検討が始まりました。
当時、私は総務部におり、やがて議場がペーパレスになるならば市当局側としても遅れないよう準備したい、さらに職員の負担軽減にもつなげたいと考え、Microsoft社のAccessを使って、質問取りから答弁集作成まで行う「答弁検討システム」の開発に着手しました。
市長から係員まで全庁で情報共有
このシステムのポイントは、自席の端末を使い市長から係員まで同時に情報を共有できるところにあります。
以前は、WordやExcelで作ったデータや紙が人から人へ渡されていましたが、Accessを使うことでデータが集約され共有されます。
システムを使う流れとして、始めに、質問取りを担当した職員が議員の質問内容をまとめ自席から入力します。システムに入力された議員の質問はリアルタイムに全庁で共有されます。
議員の質問と答弁対応部局を仕分け
そして、総務部では各質問をどの部局が担当して答弁を作成するか仕分けし、システムに入力します。
そうやって「議員ごとの質問」とその答弁作成を「どの部局で行うのか」が整理された画面を「質問要旨」と呼んでいます。
次に、答弁をつくるうえで市長と協議が必要かどうか、副市長、各部長の判断が「質問要旨」に入力されます。
議会開会の翌々日には「質問要旨」画面で、「議員ごと質問」、「部局ごと担当する質問」、「市長と協議する質問」といった括りで抽出できるようになり、答弁の作成と検討が本格的に始まります。
係長の作る答弁が課長、部長、市長へ
本市では係長職が答弁を書くことが多く、それぞれの係長は「質問要旨」画面から自分が答弁を書く質問を選択し、答弁を入力します。
係長が作った答弁は、課長から部長へと確認が進みます。その際、ペーパレスに反しますが、課長、部長が画面上で確認や校正をするのではなく、紙に出力された答弁に赤ペンを入れる部局が多いようです。答弁作成のOJTの観点から、紙に赤ペンで直しを入れる方が良いという理由です。
その後、部局ごとに「市長検討会」へ端末を持って参集し、市長との協議は完全ペーパレスで行われます。
検討会を経て必要な修正を行い、答弁を完成させます。システムには「答弁作成」、「部長確認」、「市長確認」、「校了」と順を追って操作者と日時が記録されています。
【閑話休題】市長の姿を垣間見る
市長検討会が開かれる前に、市長が答弁内容の確認を済ませることもあります。
市長検討会当日の時間短縮になるだけでなく、タイムスタンプから、市長が時間を作って答弁と向き合っていることが垣間見える場面でもあります。
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タイムスタンプ(操作者と日時を記録)
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過去の答弁をいつでも検索
議会質問当日、議場でもペーパレスです。自席の端末を議場に持参し答弁が行われます。
議会が終わると、答弁データは過去の答弁データとして保存され、いつでも検索できるようになっています。
仕事の流れを変えずにDXを進める
開発の際、課題であった、「ペーパレス化」と「職員の事務負担軽減」を実現するにあたり意を割いたことがあります。
それはシステム化する前と後で、使うツールの違いこそあれ、仕事の流れは変えないということです。
これからのDXでは業務の流れを見直して最適化する、あるいは標準的なシステムに合わせた業務の見直しといったことが求められます。そのようにできるのが理想ですし、あと数年でそれが当たり前になるかもしれませんが、現状は「デジタルツールを使って仕事を変えていこう」と職員に言ってもなかなかYesの返事はもらえません。「今できている仕事をなぜ変更する必要があるのか」とNoになりがちです。
「答弁検討システム」を庁内に広める際、使う職員に拒否されないよう「仕事の流れは今まで通りで変えないよ、ただ、使う道具をWordからAccessに変えてくれませんか」と説明し、職員からの声も反映させながら開発とリリースを繰り返すことで、システムを使う部局を増やしていきました。
流れは変えずに仕事の仕方を変えた
Wordで答弁を作成していた頃、市長検討会では、多くの部局から多くの答弁が総務部に提出され、検討会に間に合うよう部ごと議員ごと質問順に並び替えて整えていました。途中、答弁の差し替えが持ち込まれたり、検討会に臨む部局の順序が入れ替わったりするため、総務部の若い職員は昼食もままならず走りまわっていました。
Accessで答弁を作成する今、各部局の答弁を整えて検討会に臨むという流れに変わりありませんが検討会準備のための人的リソースはゼロです。各部局も市長検討会が始まるまで答弁の修正が可能です。
システム移行後、職員からは、「ほかの人が書いた答弁もリアルタイムに見ることができて参考になる。」、「自分が書く答弁の前後の質問に対する動きが見える。」、「Wordと違い、議員名や質問番号など入力する必要がなく、答弁だけ入力すれば良いからラク」、「大幅な紙削減になった」、「過去の答弁も閲覧できて便利」といった声が聞かれます。
事務負担軽減と市民サービス向上を同時に
この「答弁検討システム」以外にも、各所属の仕事の流れは変えずにシステム化した業務があります。
まず、「罹災証明発行システム」です。支所で証明の申請が入力されると同時に本庁の資産税課に共有され、資産税課で判定を入力すれば支所で証明書が発行可能になります。また、市民へ罹災証明書の提出を求めていた部署(福祉部門など)でもシステムで確認できるので証明書提出が不要になり市民サービスも向上します。
次に「市政だより掲載依頼システム」です。毎月、100を超える所属からExcelシートで原稿が提出されていましたが、今はひとつのシステムに各所属から原稿を入力しています。
いずれも入力ツールがExcelからAccessに替わっただけで、それぞれの所属で行う仕事の流れは変えていませんし、Excelの入力画面に似たレイアウトの入力フォームにしてあります。
デジタルで人の負担を減らしたい
部局を超えてデータを一か所に共有し集約するシステムを作り、各所属の現場作業の流れは変えずにデータや紙を人から人へ動かす必要を無くせば省力化されるという次第です。
デジタルで人の負担を減らしたい。この想いをチームで共有し業務にあたっています。
お問い合わせ
福島市「議会答弁検討システム」に関するお問い合わせは、株式会社ぎょうせい法令コンテンツ事業推進部でお受けします。
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