地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~

葛西 優香

地域の助け合いが自分と家族の命を守る第一歩!~「地区防災計画」の作り方~ 第8回 策定後に得られる多世代のつながり(地域活性化事例)

地方自治

2023.08.24

東日本大震災・原子力災害 伝承館 常任研究員・株式会社 いのちとぶんか社 取締役
葛西 優香

 

1.「人がいない」「時間がない」足りない要素が並ぶが・・・

 地区防災計画の策定の進めるうえで多世代をどのように巻き込むかについて、前回の記事で一つの方法を示した。今回は、地区防災計画策定の過程を経ることによって、地域で策定後に生まれた多世代のつながりについて事例を元に述べていく。
 地区防災計画の策定を始める際に挨拶に行くと、「活動できる人がいない」「若い人がいない」「他の活動や仕事もあって時間がない」という発言が並べられた。第一回の地区防災計画策定会議においては、地域で感じている課題をお互いに出し合うがその際も足りない要素が並んだ。しかし、第二回には、より具体的に災害時を想像するために、それぞれの団体や事業所、学生など立場ごとに災害が発生した時のことを時系列で想像し、その時自分たちはどのような状況になるのかをまとめて、各団体が発表した。すると、一方的に足りない、助けてほしい、と願っていたが実は周りの団体や事業所、学生などそれぞれにも求めていること、助けが欲しいことがあるということが具体的にわかってきたのである。
 一方で、過去に発生した水害時、「誰が団地の中で困っていて、どこに助けを必要している人がいるかを把握するために一人、自転車で夜遅くまで回った」という自治会住民の発言を聞き、大学生が「自分、足腰強いので、回りますよ。回る時に、拡声器みたいな備品ってあるんですか」と問いかけた。「拡声器だったら集会所にあるよ!」と団地内の見回りに行く際に必要な道具もその場で揃っていく過程を辿ったのである。この対話の一つひとつが具体的な災害時の助け合いにもつながり、それぞれが持っている技術や備品などが整理され、行動が具体化されていく。地区防災計画策定の中で対話を繰り返す、異世代の住民や地域内の関係者はお互いに何を考えているのか、ということを発言や話し合いにおける行動を見て習得していった。

 

2.一人の学生の提案から始まったイベント

 「防災に関する楽しいイベントをやりたいんです」とある日、一人の学生が提案した。策定会議に参加して防災について少しずつ知ることができて、もっと多くの人に知ってもらえるような場をこの団地をお借りして作りたいという提案だった。団地自治会の役員の方々に相談し、使用できる空間や実施時期を検討した。毎年夏に行われるお祭り「夕涼み会」の前後に実施するのはどうか、今年は団地の60周年も迎えるので大々的に企画を行いたいと思っている、その際に一緒に取り組むのはどうか」と自治会から提案も挙がった。団地に住む防災士の方に起震車を借りる方法を教えてもらい、防災イベント内で実施する内容が一つさらにもう一つと決まっていく。地区防災計画の策定段階で、地域の備品を調べた際、「かまどベンチ」が存在するが使われておらず、ネジがさび付いてしまっていることが発見されていた。その状況を理解していた学生は、かまどベンチを使っておきたい、イベントの中で炊き出しをしたいということを提案したのである。炊き出しをするのであれば日常から地域食堂を地域で開催している大学内の他の団体にお願いしよう、と協力者は続々と増えてくる。

かまどベンチを使用した炊き出しの練習

 学生の提案から日程、内容、予算、協力者と一つひとつの内容が決まり、イベントが具体化していく。そして、「夕涼み会」の前日に「防災キャンプ」と題した学生主体の多世代融合型イベントが開催されたのである。さらに次の日には、自治会主催の「夕涼み会」が行われ、サポートしてもらった学生は手伝いに団地を訪れ、共にもう一つのイベントを遂行したのである。

防災すごろくによる団地住民と学生の学び合い

 「助けを求めていいんだな、ということがわかった。この経験は今後の人生においてもすごく大きな気づきになったと思う」と道徳の教科書に書かれているような発言を防災キャンプの提案者である学生は語ったのである。誰かが発言内容を誘導したわけでもなく、その学生が自ら発言した。一つの企画の提案から協力者への声掛け、そして実践を経て、学生として自分ができる範囲で「助ける」だけではなく、学生も団地周辺地域で暮らしている住民に「助けられた」のである。共に行事を協働しながら行うことで、支え合い、支え合ったことで得られる意義を多世代が感じる機会となった。

学生と団地自治会の住民が混ざり合って運営している様子

 

3.何度も何度も対話を繰り返す丁寧な関係性構築の重要性

 地区防災計画策定の過程を辿り、お互いを知り、発言や行動でそれぞれの状況を理解し、向き合う。そして、こんなことをしたいなというアイデアを口に出し、多様な人の手が集まり、一つのことを成し遂げる。この過程を辿った地域住民は、多世代とつながることで得られる高揚感、達成感、安心感を実感し、日々の暮らしの中で「支え合う」感覚を捉えたのである。
 今、皆さまのお住まいの地域で「支え合い」の関係性や「支え合う」行為は生まれているだろうか。その行為が習慣になっているだろうか。日常から習慣化されていないことを災害が発生した時に突然できるだろうか。日頃から「助ける」「助けを求める」行動に慣れていることが災害時の助け合いにもつながるのではないか。
 地区防災計画策定の過程を辿り、多世代で融合することの意義を感じた地域の事例を元に述べてきた。この協働を生み出す過程には、何度も何度も対話を繰り返す丁寧な関係性構築があったことはお気づきであろう。すぐに融合できる、そんな簡単ことではない。日頃から活動されているような皆さまの行動は決して無駄ではなく、必ず未来の多世代の融合に向けた一つのきっかけになっている。だから一つひとつ丁寧に続けてほしい。きっと皆さまの地域にも多世代の融合そして支え合いは生まれるはずである。
 次回は、地区防災計画の策定を行ううえでまた多世代の融合を生み出すうえでの自治体(行政)の役割について述べたいと思う。

 

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