政策トレンドをよむ 第21回 地域におけるスタートアップ・イノベーションエコシステム
NEW地方自治
2025.01.08
目次
※2024年11月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第21回
地域におけるスタートアップ・イノベーションエコシステム
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部博士(学術)
小知和 裕美
(『月刊 地方財務』2024年12月号)
日本の企業価値の向上と国際競争力の強化に向けて、市場における主要企業の新陳代謝を促す新興企業の台頭が求められており、スタートアップの成長に寄せられる期待は大きい。しかし、将来の上位層として最も期待される日本のユニコーン数は米国の80分の1であり、諸外国と比べても顕著に少ない(1)。
〔注〕
(1)内閣府「スタートアップ・エコシステムの現状と課題」(2022年2月)
ユニコーンを創出するイノベーションの源泉はアカデミアに多く存在する。日本のイノベーション力を高め、国際競争力を取り戻すためには、複雑な社会課題の解決に向けたアカデミア、企業、自治体等による大型の産学官連携の促進と、アカデミア発スタートアップの創出が求められる。オープンイノベーション等により、産学官連携や研究開発型スタートアップが成長と拡大を遂げ、IPOや大企業によるM&Aも含めて、新たな事業を市場に展開し、日本企業の価値向上につなげていくことも重要だ。日本全体の国際競争力を高めるためには、各地域の産業特性を生かしながら、このようなスタートアップ・イノベーションエコシステムを各地域で構築することが望ましい。
日本の各地域における産学連携やスタートアップ創出等の状況を把握するため、文部科学省による「令和4年度大学等における産学連携等実施状況について(2)」における公表データに基づき、産学連携本部を設置する267大学を全国8つの地域に分類し、大企業との共同研究受入額、現存する大学発ベンチャー数、国内特許保有数の状況を可視化した。その結果、各地域の実測値(図表1A)については関東地方(東京都)が群を抜いて多く、近畿地方が次いでおり、他の地域との差が大きかった。一方、研究者1人当たりに換算した結果(図表1B)では、関東地方(東京都)、近畿地方、東海地方、北海道・東北地方は同程度の傾向にあり、その他の地域については、研究者1人当たりの国内特許保有数は関東地方(東京都)よりも相対的に大きいものの、大企業との共同研究や大学発ベンチャーの創出に結び付けられていない現状にあることが推察された。
〔注〕
(2)文部科学省「令和4年度 大学等における産学連携等実施状況について」(2024年7月)
〔注〕
(3)前掲注(2)
地域における産学官連携の推進に向けて、大学・自治体・民間企業等の様々な機関が参画し、イノベーションによる地域の産業基盤の強化を目指した産学連携拠点やコンソーシアムなどの創出が行われている。各地域のスタートアップ・イノベーションエコシステムを強化するためには、このような拠点を通して、まずは参画機関を集めてネットワーク(面)を拡大し(①)、組織間のインタラクションを増加させる(②)。次に、構築したネットワークを基盤として共同研究等の構築と推進(③-1)や、スタートアップ創出と個社支援(③-2)を行い、組織間の個別のインタラクションを高める。さらには、③-1や③-2の集積により、地域産業クラスターの形成と発展を促すことが必要である。これらの取り組みに当たっては、特定の領域において事業を積み上げていくための地域産業のグランドビジョンを描き、関係者間のベクトルを合わせて推進していく(④)ことが何よりも重要である(図表2)。
地域大学の保有特許には活用の余地が大いに残されている。地域の産学連携拠点の高度化により、大企業との共同研究や新たなスタートアップの創出につながる取り組みが各地域で展開されることで、地域の産業基盤が強化され、わが国全体の経済成長に寄与することが期待される。
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